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寄稿論文

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問われる住民票コードとカード制

石村 耕治
朝日大学法学部教授

(1998年9月26日付)




プライバシーが筒抜けになる危険性

複数番号制の非効率こそデータ監視防ぐ最小のコスト


全国むすぶコンピューターシステム

 住民票をベースに、すべての国民に漏(も)れなく十ケタの「住民票コード(背番号コード)」をつけ、全国共通の「住民基本台帳カード(国民登録カード・IDカード)」を持たせ、全国ネットのコンピューターにつないで国民を監視する。

 こんなシステム(住民基本台帳ネットワークシステム)をつくる住民基本台帳法改正案を、自治省がまとめ、内閣が国会に提出している。

 法案によると、背番号となる十ケタの住民票コードは、市区町村が付けることになる。背番号コードと、氏名、住所、性別、生年月日の四基本情報は、国民全員の分について、各自治体の垣根を越えて、全国ネットのコンピューターシステムで集約、管理される。

 また、背番号コードや四基本情報などを記録した全国共通のIDカードは、市区町村が発行することになる。顔写真入りカードとなるもようだ。IC【集積回路】カードが想定されており、最高八千文字書き込める。書き換えも可能だ。

 各自治体が独自の判断で書き込んでよいとしている。救命や病気治療、犯罪防止などを理由に、本人や家族の血液型、病歴や常用薬、さらには職歴や所得額などの書き込みも可能だ。

 自治省は、背番号コード入りのIDカードがあれば、住民票交付や転出、転入の手続きを簡素化できるという。ひいては、カードを提示した人に、行政サービスを全国共通に提供できるようになるという。また将来的には、パスポートの発給や運転免許証の発行、緊急時や選挙の際の本人確認、さらには納税者番号などにも利用できるという。

多目的利用の「総背番号制」か

自治省は、背番号コードを国や自治体を通じた“共通番号”とし、IDカードの多目的利用〈汎用(はんよう)〉を狙っていることは明らかだ。法案では、カードは希望者だけに発行するとしている。だが、カードなしで行政サービスを受けるのが難しくなるのは目に見えている。もう一歩進めて、将来はカード携帯の義務付けに走らないとは限らない。

 背番号コードとIDカードを核としたネットワークシステムの導入は、行政の高度情報化、簡素効率化のための当然の要請、というのが自治省の考えのようだ。だが、全国民に漏れなく背番号コードをふり、多目的利用させるのは、紛れもなく「国民総背番号制度」だ。

 また、全国共通のIDカードを発行し、「国内版パスポート」のように持ち歩かせ、本人確認に利用させるのは、実は「国民皆登録証携帯制度」だ。現行の外国人登録証カードを内国民にも広げるに匹敵する。

 自治省は、専用回線の利用や民間機関でのコード利用の原則禁止、さらには守秘義務の強化などのデータ保護策を講じるので人権侵害の懸念はないという。だが、例えば自治省がいうように、背番号コードを納税者番号に転用するとなると、雇用主などの税金の天引き徴収先に筒抜けになってしまう。また、それをたれ流しにされても、十分に対応できるプライバシー保護法もなくコントロールは難しい。

人間の尊厳と自由にかかわる問題

 「番号化社会」といわれる今日、さまざまな番号コードの利用から受ける利点も決して少なくない。だが、一つの番号コードを“マスターキー”のように多目的利用することは、プライバシーが筒抜けになる危険性が極めて高くなる。

 むしろ、番号コードは税務、年金など行政分野ごとに、また自治体ごとに、固有の“限定番号”を使うべきだ。複数の限定番号が並存するのは、効率的でないかもしれない。だが、この非効率こそ、私たちのプライバシーを守り、わが国をデータ監視社会にしないために払うべき必要最小限の“コスト”といえるのではないか。自治省が目指す共通番号には反対だ。

 自治省構想は、本来、私たちの“個人の財産”であるはずのプライバシー(個人情報)や日常的な移動の自由を、広く公権力の管理にゆだねることにつながるプランであることがわかる。

 汎用の背番号コードやカードの導入は、人間の尊厳や自由、こころの問題などとも深くかかわってくる。日弁連や市民団体が反対する理由だ。またドイツでは、違憲とされた理由でもある。

 自治省構想は、これまで官僚ベースで検討が進められてきた。この構想が将来、負の遺産とならないためにも、全体を見据えた議論が必要だ。“国民が主役”の形での議論を尽くすためにも、今回自治省によるコードとカード導入法案は慎重を期すべきである。(朝日大学法学部教授)



略歴 いしむら・こうじ  1948年青森市生まれ。米イリノイ大学法律大学院修了。税法、情報プライバシー法専攻。著書に『納税者番号制とは何か』(岩波ブックレット)『先進諸国の納税者権利憲章』(中央経済社)ほか多数。