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寄稿論文

「日本核武装論」―米国の反響

(アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員・加瀬 みき)

(2006年10月31日付)


防衛手段としては日米同盟の選択望む

北朝鮮・中国への牽制と理解


キッシンジャー氏らが容認発言

 北朝鮮の核実験以来、東アジア各国の核武装が活発に議論されている。特に日本の核武装に対する姿勢は注目を浴びており、10月25日のライス国務長官の東アジアに関するスピーチ後の質疑応答でも、まず米政権の日本の核武装に対する姿勢が問われた。

 2002年に北朝鮮が秘密裏に核開発を続けていたことを認めた後、アメリカで日本の核武装を容認、あるいは、それを焚きつけるかのような論調が出はじめた。

 03年の初めにはタカ派の論客チャールス・クラウトハマー、それに続き、副大統領のディック・チェイニー、そしてキッシンジャー元国務長官が、日本が核武装するのは当然といった発言を行った。その後、そういった声は収まっていたが、北朝鮮がミサイルおよび核実験を強行したことを受け、今再び日本の核武装論が論じられている。

 アメリカは、日本が北朝鮮の核開発に脅威を抱きながらも、それ以上に核に対しては、ことのほか強い拒絶反応を抱いていることは十分に承知している。それでも日本の核武装に理解を示すのは、実際に核兵器を持つこと、あるいは持つ可能性を示唆することが、北朝鮮、そして中国への脅し、そして抑止となるからである。

 日本の核武装を恐れる中国に対しては、日本が核武装を検討するということ自体が、中国に北朝鮮への圧力を強化させ、問題解決に積極的に貢献することを迫る材料となる。

 一方、日本が核を持てば、もし北朝鮮から核攻撃を受けた、あるいは受けることが明らかになった場合、日本がそれに対抗する武器を有することにより、北朝鮮の核攻撃を抑止する可能性を得るというのが、欧米の戦略家たちの理論だ。

50〜60年代に日独で核開発模索

 今、イランや北朝鮮は核開発を材料に国際社会を動かそうとし、一部それに成功しているが、核武装をアメリカの政策に影響を与える材料とするのは何も新しい手法ではない。

 日本や、同じくアメリカが核武装を恐れた西ドイツもその昔、核武装というカードを使っている。

 1950年代後半、ドイツは一時期、真剣にフランスとの核開発を画策した。60年代の日本では、佐藤栄作首相が日本の核武装を検討した。アメリカは両国の核保有に当然反対であった。ケネディ大統領は、もし西ドイツが核武装した場合は、アメリカの北大西洋条約機構(NATO)に対する義務を問い直す、とまで側近に語っている。

 両国とも自国をアメリカが守るという条約を結んでいたが、アメリカの決意に一抹の不安を抱いていたからこそ、核開発を検討した。両国は当時から、技術的にも経済的にも核兵器を開発できる力があると認められていた。それだけに核開発を検討する、ということ自体が両国にとっての大きな切り札となった。

 核カードを利用した結果、アメリカはドイツの不安を解消する様々な軍事的手段や枠組みを検討し、結局、アメリカの核関連情報を西ドイツをも含めたNATO諸国と分かち合い、ともに核戦略を立てるという仕組みを築いた。

 佐藤首相は、日本の国民も核を受け入れる時期が来る可能性、そして「他国が核を持てば自分も持つ権利がある」という理論を、時の駐日米国大使に展開し、結局、大統領から、どのような攻撃を受けてもアメリカはあらゆる手段をもって日本を防衛する、という言質を取り付けた。

「非核政策堅持」の姿勢を歓迎

 アメリカは中国や北朝鮮への牽制球として日本の核武装を語るが、核不拡散の原則からも、あるいは核保有国が増えれば核関連物質や技術がテロリストに流れる可能性が高まるという観点からも、それを本当に望んでいるわけではない。

 一方、日本は、西ドイツがNATOという枠組みで行ってきたような、核兵器が安全保障体制のなかで、どのような戦略的効果や弊害を持つか、核使用を防ぐために、どのような戦略が有効か、あるいは、いざという時は適切な核使用とはいかなるものか、といった議論に加わってこなかった。その意味で責任ある核保有国となる訓練ができていないといえる。

 その日本が、国内で核を巡る議論をすることは、アジア域内各国の不安を招いているが、自国の防衛をアメリカまかせにしてきた日本が、安全保障の議論を展開することにより、日米安全保障同盟の枠組みの中でも、より責任あるパートナーとなる可能性が開けるという側面もある。

 ライス長官は、先にふれた質疑応答で日本は自国防衛の手段として核武装ではなく日米同盟を選択した、と述べ、日本の姿勢を評価している。ここで日本は国内でも核を冷静に検討できるだけの土壌ができていることを示しながら、なおかつ、非核3原則をふまえ、アメリカが日本にとって有効な国際戦略を遂行し、日本の政策を後押しするよう上手く対応しなければならない。国際舞台での取引はポーカーゲームでもあることを忘れてはならない。

 (アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員)


略歴

 かせ・みき 東京生まれ。上智大学外国語学部卒。米国フレッチャー外交法律大学院修了。1978〜94年、東京銀行勤務。スタンフォード大学ワシントン校客員研究員を経て、現職。著書に『大統領宛 日本国首相の極秘ファイル』(毎日新聞社刊)がある。現在、西側同盟をテーマに日本、アメリカ、ヨーロッパで調査、インタビューを行っている。