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寄稿論文

北朝鮮の核実験問題に思う

(創価大学平和問題研究所所長・小出 稔、本紙客員論説委員・スベレ・ルードガルド)

(2006年10月24日付)

 国際社会からの再三の警告を無視し、北朝鮮は9日、核実験を強行した。これに対し、国連安全保障理事会は14日、武器禁輸や金融資産凍結などの制裁を科す決議を全会一致で採択した。核実験から5日という異例の速さでの決議採択は、北朝鮮の核実験に反対する国連安保理の意志が断固たるものであることを示している。しかし、北朝鮮は制裁決議を拒否し、「米国による追加圧力は宣戦布告とみなし対抗措置を取る」として、反発の姿勢を一段と強めている。ここでは、創価大学平和問題研究所の小出稔所長と本紙客員論説委員のスベレ・ルードガルド氏から寄せられた論考を紹介する。


危機の構造と平和的解決の模索

創価大学平和問題研究所所長 小出 稔

ソフトパワー発揮こそ肝要

短絡的な日本核武装論は逆効果


四つのレベルで危機を招来

 朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の核実験をめぐる危機的状況は、四つのレベルに分けて分析できる。すなわち、全世界的な核不拡散体制の危機、東アジアの地域的国際秩序の危機、北朝鮮の周辺国家(特に日本と韓国)の安全保障の危機、そして北朝鮮の体制危機という四つの状況が複合的に絡んで、今次の北朝鮮危機を形成している。

 まず北朝鮮の核実験は、核不拡散体制を深刻に揺るがした。これまで、核拡散防止条約によって「核兵器国」と認められた5大国(米・露・中・英・仏)に加え、同条約に加盟していないインド・パキスタン・イスラエルの計8カ国が核保有を確認されてきた。北朝鮮は同条約の加盟国でありながら(ただし2003年に脱退)核開発を進めた最初の例となる。国際原子力機関によれば、短日月のうちに核兵器を開発しうる資材と能力を持つ国の数は現在30に上ると言う。

 北朝鮮の核武装の容認は、これらの国々を核開発へと駆り立てる「核ドミノ」を招来しうる。従来の米朝対立では北朝鮮に与してきた中国が、今回の核実験に対しては直ちに断固たる反対を表明し、国連安保理の制裁決議案に拒否権を行使しなかったのも、核不拡散体制の揺らぎを深刻に懸念したからだ。満場一致の制裁決議採択は、同様の懸念を、他の多くの国連加盟国も共有していることを示している。

 次に、北朝鮮の核実験の強行は、北朝鮮の核開発阻止を求めてきた6者協議やASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラム等、東アジアの多国間対話を推進する地域的フレームワークの限界を示した。米国が、北朝鮮の6者協議への復帰を求めながらも、NATO(北大西洋条約機構)型の実行力を伴う多国間地域安保体制の可能性に言及し始めたのも、この地域秩序の危機を意識してのことである。

体制保障求める金正日政権

 続いて、北朝鮮の核実験は、その近隣諸国、とりわけ自らの核兵器を持たない日本と韓国の安全を深刻に脅かした。

 日本および韓国と同盟を結ぶ米国は、日韓両国に対する「安全保障と抑止力の責任を全面的に果たす意志と能力を持つ」(ライス国務長官)ことを再三強調している。米国の度重なる保障の表明からは、日韓両国の安全を守る意志と同時に、両国が核開発へと向かうことへの懸念も感じ取れる。

 最後に、北朝鮮の核実験は、同国の外交的孤立と経済的困難を深め、金正日国防委員長が率いる指導部を体制危機にさらすことになる。しかし、一方で、北朝鮮の指導部にしてみれば、既に90年代から国民経済の困窮と福祉の低下は明らかであり、核兵器の開発で国家の独立を守ることでしか、体制の威信を国民に示す方法は無いとも言える。

 一見、北朝鮮を孤立と困窮に陥れるだけに思える不合理な核武装だが、北朝鮮指導部にとっては、体制維持のための唯一の合理的手段なのである。この北朝鮮指導部の思考は、今回の北朝鮮危機の解決をとりわけ困難にする。すなわち、国際社会が北朝鮮に核の放棄を求めて圧力を増すほど、危機感を強めた北朝鮮指導部は、逆に核兵器にしがみついて手放さないという悪循環が生じうるのだ。

 この解決困難な危機的状況に日本はどのように対処すべきか。北朝鮮危機の展開は、今のところ何の予断も許さない。この段階では、何をすべきかよりも、何を避けるべきかの方が、より確実な議論ができるだろう。

国際社会が結束し対応せよ

 まず、第1に、北朝鮮が核兵器を保有した以上、軍事衝突は確実に避け、必ず平和的解決を求めなければならない。その意味で、形式的な法律論や原理的な正義を振りかざして、圧力一辺倒で北朝鮮に対処してはならない。そのような安易な圧力外交は、制御できない危機のエスカレートを招く危険がある。危機管理の外交においては、常に外交的選択肢を残し、交渉が衝突コースに陥ることを避ける細心の注意が求められる。

 第2に、現在維持されている国際社会の結束を乱すべきではない。この結束は、北朝鮮の核実験で危機に瀕した核不拡散体制の維持を目標として辛うじて保たれている。特定の国が掲げる政治的価値観の下に結束しているわけでも、ましてや特定の国の安全を守るために結束しているわけでもない。

 したがって、第3に日本は、北朝鮮の核の脅威を理由とした核武装の議論を厳に慎むべきである。そのような議論は、核不拡散を求めて一致している国際社会の足並みを乱し、核不拡散体制を支える国際的な規範意識を低下させ、北朝鮮の核を抑止するという意図とは裏腹に、北朝鮮の核武装の国際的な容認を促すことになる。

 総じて、今次の北朝鮮の核実験をめぐる危機は、一朝一夕に解決できる状況にはない。北朝鮮指導部が、体制保障の唯一の手段と見なす核兵器を簡単に手放すとは考えにくい。また、今回の危機は複合的な構造を持ち、核不拡散体制の維持という観点では国際社会の一致が見られても、他のレベルでは関係各国の利害が複雑に交錯し、今後の国際協調の維持は必ずしも容易ではない。

 このような状況下において、短絡的に日本に向けられた脅威を強調して、日本の核武装などの議論が起これば、かえって国際社会全体の危機管理の努力を損ない、結果的に日本の安全も一層脅かされる事態を招きうる。北朝鮮危機の中で日本に求められているのは、国際社会が支持しうる解決策を見出す交渉・協調・調整に徹するソフトパワーの発揮であって、日本の安全を短絡的に追求するハードパワーの増強ではない。(創価大学助教授)


略歴

 こいで・みのる 1962年、大阪府生まれ。創価大学大学院博士前期課程修了。南カリフォルニア大学で博士号取得。専攻は国際関係論。論文に「多国間主義(multilateralism)の高まりとアジア太平洋地域」など。2005年9月から06年3月までアメリカン大学客員研究員、06年4月から創価大学平和問題研究所所長。



国連と核不拡散体制への挑戦

本紙客員論説委員 スベレ・ルードガルド

瀬戸際から引き戻すために

隣国間で地域的な仕組みの確立を


94年合意、6者協議も空転

 現時点で緊急の課題となっている、北東アジアの核問題について論じたいと思います。

 まず、アメリカは外交政策において、北朝鮮の体制変革を追い求めてきましたが、その立場をとり続ける限り、核不拡散や核廃絶のための政策合意はきわめて難しいものとなるでしょう。

 アメリカは北朝鮮の政権に圧力をかけ、北朝鮮の政権はますます核計画を進行させることでそれに対応しています。このような状態において、交渉の可能性は微々たるものです。北朝鮮が生き残るために、核保有による抑止を求める動機は強くなるばかりです。

 これまで、北朝鮮を核兵器を持たない国に戻そうとする二つの方法が試みられました。

 一つは1994年の「米朝合意」であり、もう一つは2003年4月に中国の主催でスタートした韓国、北朝鮮、ロシア、日本、中国、アメリカによる「6者協議」です。

 しかし、94年合意の枠組みの実行は、2002年にすでに不可能となりました。6者協議も大きな進展はなく、2005年に合意された指針もすぐに無効となりました。

 その指針の中の一つ、当事国同士が並行的に段階を踏んでいこうとする「約束には約束で、行動には行動で」との方針も、調印のインクが乾かないうちに、反古となってしまいました。アメリカ側がまず先に北朝鮮に核開発計画の中止を求めたのに対し、北朝鮮は反駁し、核開発を更に進める方向へと進みました。話し合いの場は持たれたものの、結果を出そうとする対話と交渉にはならなかったのです。

潘・次期総長の手腕に期待

 過去において北朝鮮は、核開発計画を諸外国との関係改善や、アメリカおよび他の国々からの安全保障を得るための取引の材料として使おうとしていました。しかし今、核実験を実行したことを考えると、そのような考えはあきらめて、かわりに国家の生き残りを核の抑止にかけようとしているようです。

 当然ながらそれに対し、各国は強い反応を示しました。核保有国の数が増えるほど、世界は危険度を増すからです。

 同時に、過度の警告は必ずしもベストの方法ではありません。南アフリカでは、多数決に基づく政治がアパルトヘイト(人種隔離政策)に取って代わった時、核兵器を廃棄しました。北朝鮮にも将来、同じことが起きるかもしれません。

 なぜなら現在の抑圧的な政権が永遠に続くことはないはずだからです。あるいは将来的に、南北両国の統合によって、核兵器が廃絶されることになるかもしれません。他の国々が、核を保有する韓国を受け入れることはありえないからです。

 オーストラリアの北朝鮮専門家であるピーター・ヘイズ氏は、北朝鮮の核開発によるダメージを修復する唯一の方法は、隣国の間で、核不拡散の確固たる地域的な仕組みを確立することであると論じています。

 その出発点は1992年の「南北非核化共同宣言」でしょう。この宣言をベースに、近隣諸国にも参加を呼びかける中で、非核地帯を日本をはじめとする極東地域に徐々に広げていくこともできると思います。

 これに関連して、私の住む北欧地域で興味深い前例があります。80年代に「北欧非核地帯構想」が論議されていたころ、それに近接する地域、とくに当時のソ連領における核兵器の配備制限が論議の最も重要な論点となり、ソ連側もそれを受け入れました。このような調整は、韓国と北朝鮮の問題だけでなく、北東アジア全体の核拡散を防ぐためにも重要となってくるでしょう。

 次の国連事務総長に就任する韓国の潘基文氏は、これらの問題を知悉しています。彼の外交手腕が、中庸を得るために最も求められています。

 北東アジアに核保有が広がる瀬戸際から状況を引き戻すために、いかなる努力も惜しんではならないと思います。

 (※本稿は、北朝鮮が核実験実施を発表した翌10日に執筆されたものです)


略歴

 ノルウェー国際問題研究所所長。前ジュネーブ国連軍縮研究所所長。ノルウェー出身でノルウェー・パグウォッシュ会議議長、オスロ国際平和研究所(PRIO)所長を歴任。平和研究・軍縮問題が専門。本紙客員論説委員。