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(2006年10月17日付)
「週刊新潮」の突出に批判集中 |
山口県周南市の高等専門学校で発生した女子学生殺害事件について本年9月7日、殺人容疑で指名手配されていた男子学生が遺体で発見された。自殺と見られる状況であった。
この事件では、その男子学生の氏名や顔写真の公表をめぐって、メディアによって、「実名」で報じるところと「匿名」で報じるところがあり、その対応が分かれた。
最初に実名と顔写真を報道したのは「週刊新潮」9月14日号であった(9月7日発売)。同誌は、まだ男子学生の死亡が確認される前に、実名と顔写真の掲載に踏み切った。
男子学生の死亡が確認された後には、一部のテレビ局と新聞社が、死亡した男子学生の実名と顔写真を報道した。
報道したのは、テレビ局の中では日本テレビとテレビ朝日の2社であり、新聞社の中では読売新聞の1社であった。
実名報道したテレビ局と新聞社は、男子学生の実名と顔写真を報道した理由として、容疑者である少年の死亡により更生や保護の機会がなくなり、少年法六一条の対象外となったことやこの事件の重大性を挙げている。
少年法六一条は、少年犯罪について、審判の対象となっている少年や被疑者とされる少年について、報道機関が、その少年を推知することができるような氏名、顔写真等の報道を禁止している。ただ、表現の自由に配慮して、罰則は設けられておらず、報道機関による自主規制に委ねられている。
日本新聞協会は、1958年12月16日、「新聞協会の少年法第六一条の扱いの方針」を公表し、未成熟な少年を保護し、将来の更生を可能にするとした少年法六一条の理念を尊重する方針を示しながらも、逃走中で、放火、殺人など凶悪な累犯が明白に予想される場合や指名手配中の犯人捜査に協力する場合については、少年の氏名や写真を掲載する例外を認めている。
9月28、29の両日にわたって山形市で開かれたマスコミ倫理懇談会全国協議会の第50回全国大会において、山口の事件の報道について議論されたが、複数のメディアから、「社内でも議論があった」として、男子学生を「実名」で報道するか「匿名」で報道するか微妙な判断だったことが明らかにされている。
山口の事件では、指名手配された男子学生について、凶悪な累犯が明白に予想される場合ではなかったし、警察も男子学生の氏名や顔写真を公表して公開捜査に踏み切っていなかったことから、前記の日本新聞協会の指針が掲げる例外の場合に当たることが必ずしも明確でなかった。そのために、メディアによって、男子学生を「実名」で報じるか「匿名」で報じるかについて、内部で議論がなされ、その判断が分かれたものと考えられる。
ただ、男子学生の死亡が確認された後に、男子学生の氏名や顔写真を報道したメディアが、容疑者である少年の死亡により更生や保護の機会がなくなったから少年法六一条の適用の対象外となった、と説明している点には疑問がある。同条は、少年だけでなく、その家族のプライバシーをも保護している規定であるし、また、この規定は、一般的に、少年犯罪の審判の対象となる少年や、被疑者とされる少年を推知させる報道を禁じる刑事政策的な規定であるから、個別具体的な事情を理由に適用するか否かを決める性格の規定ではないからである。
この点については、杉浦正健・前法務大臣による9月19日の閣議後の記者会見において、「少年法六一条の文言は、少年が死亡した場合を除外してはいません。報道機関においては、少年法六一条の趣旨を踏まえまして、慎重に対応していただきたいと考えています」と述べており、男子学生が死亡した後においても少年法六一条が適用されることが確認されているところである。
それでは、男子学生が死亡することが確認される前に、その実名と顔写真を報道した「週刊新潮」の報道はどうだっただろうか。
これは、男子学生の死亡が確認された後に報道した一部のテレビ局や新聞社の報道とも質的に異なっており、同列に論ずることはできないと考えられる。
1980年代後半以降、一部の週刊誌や月刊誌は、少年法六一条に違反することを承知しつつ、確信犯的に、実名や顔写真を報道してきている。
具体的には、「週刊文春」による女子高生監禁殺人事件での実名報道(1988年)、「週刊新潮」による市川一家殺傷事件での実名・顔写真報道(92年)、写真週刊誌「FOCUS」による神戸児童連続殺傷事件での顔写真報道(97年)、月刊誌「新潮45」による堺通り魔殺傷事件での実名・顔写真報道(98年)、「週刊新潮」による大阪・愛知・岐阜連続殺人事件での実名・顔写真報道(2005年)などが、その例である。
今回の「週刊新潮」による実名と顔写真の報道についても、この流れの中に位置づけて理解する必要がある。
前記の杉浦・前法務大臣の会見の際にも、他のメディアによる報道と区別して、特に「週刊新潮」の報道について遺憾である旨を表明している。
また、日本弁護士連合会の本年9月14日付の平山正剛会長の談話においても、特に、「週刊新潮」の報道については「まことに遺憾である」と述べられている。
今回の報道の中でも「週刊新潮」の報道だけが突出していたことについては、おそらく異論はほとんどないと考えられ、今後も、同誌の報道のあり方については注視する必要がある。
いずれにせよ、今回の事件では、改めて、少年法六一条が一体何を保護しようとしているのか、少年の更生とは何かなどが正面から議論されることになった。そのような議論がなされたこと自体は大変に意義のあることであったと考えられる。
これを機会に、少年事件報道のあり方についての議論がより深まることを強く期待したい。
(弁護士)
略歴やました・ゆきお 1962年、香川県生まれ。創価大学卒。89年4月に弁護士登録(東京弁護士会所属)。創価大学法科大学院非常勤講師。著書に『最前線インターネット法律問題Q&A集』、共著に守山正・後藤弘子編著『ビギナーズ少年法』(「第15講 少年事件と報道」を担当)。