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寄稿論文

文明の共存国際フォーラムに参加して

(同志社大学教授・渡辺武達)

(2006年9月26日付)


アジア欧州財団、北欧諸国会議などが主催

グローバル社会の平和的構築のために



コペンハーゲンで開催

 9月5、6の2日間、アジア欧州財団、北欧諸国会議等が主催し、デンマークの首都コペンハーゲンで開催された「文明の共存のための国際フォーラム」に出席した。両大陸の学者やジャーナリストおよそ30人が招待され、デンマークの学者、メディア関係者、そしてエジプト、アルジェリア、マレーシアといった在コペンハーゲンのイスラム圏大使館員等を交えて掲題テーマでの分科会と全体討議をおこない、その内容を提言としてまとめ、北欧諸国会議議長に手渡すとともに、記者発表で世界に発信した。

 会議の目的は(1)グローバル社会の共存のあり方をオープンに議論すること(2)共存のためのビジョンを確立し、現在の問題点を明らかにすること(3)共存のためのシンクタンクの設置の可能性を探ること(4)それらの具体的な活動開始への呼びかけをすること――の四つであった。

 イラクやアフガニスタンでの米英がからんだ戦闘、イスラエルによるレバノンの攻撃、チェチェン独立闘争、アフリカ大陸スーダンにおける部族弾圧、あるいは勃興するラテンアメリカでの反米ナショナリズム闘争など、あまたある現代世界の紛争の背景には、「文明の相克」という側面が色濃く反映している点での共通点がある。

 だが、現代社会を米国の学者ハンチントンのように『文明の衝突』(1996年)として説明するのは、その他の社会的要素を捨象して紛争を不可避とするもので、武力による世界秩序論に与することになりやすい。高度に発達し、グローバルに展開する情報伝達技術をもってしても解決できないほどの根深い問題があり、日々、無辜の民の命が失われている事実に私たちはまず目を向ける必要がある。 自由で責任あるメディアに

 紛争には「だれかが苦しんでいる時、だれかがにんまりしている」という法則が存在し、背景に「死の商人たち」の暗躍、大国間の資源争奪戦争や利害対立があるなどと論評し、傍観していることも無責任だろう。

 世界には各地域に独自の文化と文明が存在するが、それがかならずしも紛争の原因でないことは異なった宗教が共存している地域も多いことから証明される。ただし、紛争が陰湿になり、長期化する理由の多くに、メディアを使って思想や宗教の違いを強調し、それを自己利益のために利用している場合がしばしばあることは否めない。

 そうしたことなども勘案して、私たちがまとめた提言項目に次のようなものを含めた。

 <共存のための話し合いのできるメディアを作ろう>

 <よいニュースを面白く報道する工夫をしよう(世の中には恐怖を増幅させる報道が多すぎるから)>

 <宗教の自由と「真実」の多元性を確認しよう。民族主義を克服しよう>

 <弱者に発言の場を確保しよう>

 <西欧的観点だけで世界を語ることを止めよう>

 <軍事面だけからの安全保障論を克服しよう>

 <自由で責任あるメディアを確立しよう>

 この最後の項目は、私自身が説明し、提案したものだが、それが採用されたのは「言論・表現の自由」は大切だが、「他人を悪意で傷つけたり虚偽報道をすることはメディアの自由ではない」ことを確認したかったからである。社会の安全(セキュリティー)を軍事的安全保障の観点からのみ議論し行動することの愚を指摘したことも私には重要であった。

イスラム冒涜風刺画の反省

 今回のフォーラムがこの時期、デンマークで企画された直接の理由には二つあった。

 第1は、この5日後からヘルシンキ(フィンランド)ではじまり、日本の小泉総理(当時)も出席したASEM(アジア欧州会議=ASEAN7カ国、日・中・韓、及びEU15カ国と欧州委員会が参加)首脳会議に対し働きかけをおこなうこと。

 第2は、文明の共存はグローバル社会の実現に不可欠だが、昨年9月、デンマークの日刊紙『ユランズ・ポステン』が「爆弾付きターバンを巻いたムハンマド(イスラム教の創始者)の想像画」を含む全12カットを掲載し、それを宗教の冒涜だと批判するイスラム圏と、「言論・表現の自由」だと主張する西欧言論界が対立し、世界的問題となった事件をデンマークのメディア界と北欧諸国の知識人が積極的に活かそうと考えたことである。

 漫画を掲載した新聞は日本でいえば一般紙と駅売り夕刊紙の中間的な内容レベルで、今でも類似の反イスラム的記事を掲載しているから、確信犯的な側面がある。<9・11>事件以降、とくに西欧で強くなった反イスラム教社会観を増幅するもので、「言論・表現の自由」とすることはむずかしい。

 人類がグローバル社会で共存していくには、たしかな視点からの問題摘出と議論が必要で、それがあってはじめて、ヒューマニズム主体の社会運営が可能になることの合意だけはできたのがうれしい。

 (同志社大学教授)


略歴

 わたなべ・たけさと 1944年、愛知県生まれ。同志社大学大学院修士課程修了。同志社大学メディア・コミュニケーション研究センター代表。著書に『テレビ――「やらせ」と「情報操作」』『メディア・リテラシー――情報を正しく読み解くための知恵』『市民社会と情報変革』など多数。