![]()
(2006年9月5日付)
「教育交流」で友好深める努力を |
日本と中国の関係が今、政治や外交の面でぎくしゃくしている。
文化交流や経済交流の面でそうなっていないことが救いだが、そうした中、先日、創価学会の教育本部の方から、7月に中国へ交流団を派遣し、教育交流を活発に行った模様について話を聞く機会があった。
なかでも私が最も関心をもったのは、北京で行われた「教育実践報告交流会」である。日本から三人、中国から二人が登壇し、互いの教育理念や教育実践を報告し合うという、実に画期的な試みである。
日中関係が冷え込む中、教育実践の交流を通し、友好を深める催しが開かれた意義は誠に大きい。交流会の模様が「人民日報」で大きく報じられたこと自体、その何よりの証左といえよう。
また教育本部が作成したブックレット『輝く子どもと人間教育』の中国語版が、行く先々で共感を広げた様子もうかがった。このことも、創価学会の教育本部の方々が取り組んでこられた教育実践や、牧口常三郎氏に源を発する創価教育の理念が、中国の教育関係者に大きな啓発を与えている事実を感じさせる出来事であった。
目覚ましい経済発展を続ける中国では今、「国家を発展させるための人材をいかに輩出するか」という点に、教育の最大の力点が置かれている。
かつての日本もそうであった。近代教育の整備の過程で、「国家のための人材育成」が最優先事項となった結果、一人一人の人間の幸福という視点が忘れ去られ、子どもたちがその犠牲になるという苦い歴史があった。
その轍を踏むことなく、中国が今後、本当の意味での発展を遂げていくためのポイントは、教育面での子どもたちへの配慮をどれだけ図っていくかに尽きる気がする。
一人一人の人間が自立していかない限り、国家の真の繁栄もない。創価教育の創始者である牧口氏がいみじくも指摘したように、あくまで「国民あっての国家」であり、「個人あっての社会」だからである。
そしてそのためには、池田名誉会長が教育提言で訴えられていた、「社会のための教育」から「教育のための社会」へのパラダイム転換が、何よりも必要となってくる。
創価教育の理念が示すように、人間には「価値を創造する力」がある。その誰もが持っている力を、いかにして子どもたち一人一人に発現させていけばよいのか――。
日本で長らく焦点となってきたこのテーマは、現在の中国においても喫緊の課題となっているのではなかろうか。
その意味でも、今回の教育交流を通して紹介された、「一人を大切にする」人間主義に立脚した創価教育の思想や、「教育のための社会」へのパラダイムの転換という発想は、きっと中国の教育関係者にも深い示唆を与えるものだったに違いない。
私は、こうした教育交流が、日中両国の間で、今後も継続されることを強く望むものである。
また、将来的な展望として、創価学会の関係者だけでなく、中国に関心を持つ日本の有識者や教育者も交える形で、教育実践の交流やシンポジウム等で語り合う場が、今後、日中両国で積極的に持たれるようになっていけば、どれだけ素晴らしいことか。
教育に対する互いの考え方の違いや共通点もより明確に浮かび上がってくるだろうし、その成果を生かしながら、教育実践や人材育成のための知恵の深まりが、双方にもたらされることを願っている。
これまで一貫して中国との深い友好関係を築いてきた創価学会――。大成功に終わった今回の派遣団による教育交流も、まさにその一翼を担うものだったといえよう。
私にはそれが、今から38年も前に「日中国交正常化」を提言し、その後も度重なる訪中や、中国の要人との対話を通じて友誼を深めてこられた池田名誉会長の率先の行動が見事に花開いたことを物語っているように思えてならなかった。
(宇都宮大学教授)
略歴わたなべ・ひろし 1955年、栃木県生まれ。慶応義塾大学大学院博士課程中退。宇都宮大学助教授などを経て現職。2002年4月から昨年3月まで宇都宮大学教育学部附属小学校校長も兼任。博士(教育学)。著書に『人間教育の探究』『俳諧教師 小林一茶の研究』『「援助」教育の系譜』(編著)、『「援助」する学校へ』(共編著)などがある。