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寄稿論文

ワシントンから見た北朝鮮ミサイル問題

(スティムソン・センター・リサーチ・フェロー・辰巳 由紀)

(2006年7月25日付)


重要だった安保理の全会一致

一時の感情に流されない冷静さを



先制攻撃論を巡って論争

 米国時間で7月4日の北朝鮮によるミサイル発射。核問題に関してはイランに加えて北朝鮮という「問題児」がいまだに残っていることを強く印象付けたが、ワシントンでは、北朝鮮がミサイル実験に向けた動きを見せ始めた6月中旬ごろから、「北朝鮮はミサイル発射をするのか」「もし北朝鮮がミサイル実験に踏み切った場合の次の措置は」といった問題について論争が展開されていた。

 なかでも、「対話と圧力」を軸に北朝鮮とかかわっていくという「ペリー・プロセス」の推進者であり、第1次北朝鮮核危機の際にクリントン政権下で国防長官と国際安全保障担当国防次官補をそれぞれ務めていたウィリアム・ペリー氏とアシュトン・カーター氏が共著で、6月22日にワシントン・ポスト紙に発表した「論説」はワシントンで波紋を広げた。

 クリントン政権下での北朝鮮関与政策の中心ともいえる両氏が、米国はテポドン2号発射基地に先制攻撃を実施する意思を明確にすべきである、と論じたからである(両氏は、ミサイル発射後の7月8日にも、同趣旨の「論説」をタイム誌に寄稿した)。

 この「論説」は、多くの反響を呼んだ。クリントン政権で北朝鮮担当特使を務めたチャールズ・プリチャード氏は、翌23日付のワシントン・ポスト紙に、「今は外交の場でまだ真剣に米国が試みていない方策を冷静に検討すべきだ」と反論する「論説」を寄稿。チェイニー副大統領やハドレー国家安全保障担当大統領補佐官も「武力行使オプションを検討する場合、ミサイル一発を発射する以上の対応を検討する必要がある」「外交が正しい答えである」と反論した。

日米対中ロが浮き彫りに

 ミサイル発射以降、ワシントンでの議論は「米国が今後どうすべきか」にその焦点が移っている。6者協議が再開にこぎつけた後の対応、ハイレベルでの米朝直接対話の是非などの点を巡る議論が今後、続くであろう。

 ただ、「ブッシュ政権が誠実に外交交渉に臨むとは北朝鮮は考えていない。おそらく、外交上の打開は次期政権までないであろう」(国務省関係者)という悲観的な見方もあり、米国の北朝鮮政策が今後も迷走を続ける可能性も十分にある。

 一方、国連安全保障理事会では、北朝鮮によるミサイル発射に対し、「議長声明か決議か」「国連憲章第7章への関連付け」「制裁への明示的言及」の諸点をめぐり、日米英と中ロの見解が対立し、厳しい交渉が行われた。

 その結果、国連憲章の第7章や制裁という言葉は言明されないまでも、国際社会、特に北朝鮮がすべきことについて明言され、情勢が改善しない場合には安保理で更なる措置がとられることが示唆された、実質的には「非常にタフ」(某元米政府関係者)な決議がG8サミット直前の7月16日に全会一致で採択された。

 今回、全会一致で安保理決議が採択されたことは大きな収穫だった。中ロによる拒否権に阻まれて安保理決議が採択されなかった場合、国際社会、より具体的には6者協議参加各国間の分断に北朝鮮が成功したことを意味したであろう。この点から鑑みても今回の安保理決議採択は重要である。

評価高い日本の国連外交

 しかし、決議採択にいたるまでの一連の動きの中で今後への懸念が生まれたことも事実である。特に、安保理におけるやり取りで日米と中ロの見解の相違が鮮明になり、韓国についても、日米の対応を「過剰反応」として批判するなど基本的には中ロ寄りの立場であることが明確になった。このことは、6者協議が再開された場合、果たして北朝鮮に対し5者が足並みをそろえることができるのか、という点に不安を残す結果となった。

 日本政府は、ミサイル発射直後から経済制裁措置の発動、国連安保理決議採択に向けた外交努力など、積極的に動いた。このことに対するワシントンの評価は非常に高い。日本の尽力なくして安保理決議第1695号採択はなかった、というのが「米政権の一致した見方」(元米政府関係者)であり、大島賢三国連大使の働きも非常に高い評価を得ている。

 ただ、「先制攻撃論」については不要だったのでは、という見方が米国では多い。「短期的には中国に状況の深刻さを認識させ、決議案を巡る妥協を促す材料になったのでプラス。ただ、長期的には日本の軍事大国化を懸念する声を再燃させかねないのでマイナスだったかも」という見方をする元国務省高官もいる。

 このことにより、そもそも北朝鮮に同情的な韓国の現政権を、ますます中ロ側に追いやってしまった、という見方もある。この点も含め、日本の北朝鮮政策には、一時の感情に流されない冷静さが今後ますます求められることになろう。

 (スティムソン・センター・リサーチ・フェロー)


略歴

 たつみ・ゆき 東京都生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院より修士号取得。在米国日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)国際安全保障部研究員などを経て、2004年7月より現職。