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寄稿論文

特別寄稿 30周年迎えた米インタナショナル大学アジア・太平洋センター

(本紙客員論説委員・デイル・ベセル)

(2006年7月18日付)


卓越した人間教育の理念を実践

牧口学説に基づく研究



新たな高等教育モデルを提示

 私が学部長を務めるインタナショナル大学アジア・太平洋センターにとって、最近、画期的な出来事があった。

 その一つは、本年1月21日、設立30周年を祝うために、現在の教職員・学生、そしてこれまで大学に縁した教職員・学生およびその友人たちが、ホノルルに参集したことである。

 米国のミズーリ州カンザスシティにあるインタナショナル大学のアジア・太平洋部門として、ごく少数の友人と同僚たちで、日本の大阪に高等教育の新たな大学施設を設立したのは、ちょうど30年前であった。

 牧口常三郎の教育思想と提言に関する長年の研究に基づいたインタナショナル大学アジア・太平洋センターは、米国およびその他の先進工業国の主流派の大学によって提供される序列・階層的で工場生産型の学習とは一線を画した、全く新たな高等教育モデルを提示している。

 ここでは、この高等教育モデルを、牧口の思想と提言を応用した唯一の実践形態としてではなく、考えられる一つの可能な例として述べてみたい。

 牧口は、主要著作である『人生地理学』と『創価教育学体系』のなかで、彼のホリスティックな創価教育学の基調を成す基本理念について述べているが、これらの理念が、わがインタナショナル大学アジア・太平洋センターの方法論的かつ哲学的基盤となっている。その中でも次の三つの理念がインタナショナル大学アジア・太平洋センターの発展において特に重要である。

学生中心、地域社会を基盤に

 <(1)創価教育は学生中心> 牧口は、知識伝授・暗記型の学習を忌み嫌った。そのような教え方は、すべての子どもに備わる権利であり天性でもある好奇心や学ぶ意欲を窒息させてしまうと考えていた。そして、子どもたちを家族や地域社会、自然環境から引き離してしまう西洋から輸入された工場生産型の教育は、子どもと社会にとって極めて有害であると主張した。牧口は、そのような教育よりはるかに優れていると考えられる、新たな学習過程へのアプローチを提唱した。

 「教育は知識の伝授が目的ではなく、学習法を指導することだ。研究を会得せしむることだ。知識の切り売りや注入ではない。自分の力で知識することの出来る方法を会得させること、知識の宝庫を開く鍵を与えることだ。労せずして他人の見出したる心的財産を横取りさせることでなく、発見発明の過程を踏ませることだ。

 斯うして知識の宝庫を開く鍵さえあれば、万巻の書籍を暗誦しなくても、生活上に必要なる知識は自ら得られるものだ。(中略)必要なる知識は理解力さえあれば容易に探し出される。(中略)沢山の知識をいつ何時必要が出て来るかも知れぬといって、用もない、くだらない知識を詰め込んで置く必要はない」(『創価教育学体系』第4巻)

 <(2)創価教育は地域社会(郷土)を基盤とし、地域社会が教育課程の起点> このことについて、牧口は次のように述べている。「吾人は、郷土を産褥として生まれ、かつ育ち、日本帝国をわが家として住し、(中略)もってこの世を過しつつあるものなることを自覚するをうべし。吾人はここに至って初めて自己の正当にして着実なる立脚地点の自覚に達するをうべく、したがってまた自己のまさに務むべき職分を確定するをうべし。はたしてしからばこの順序、この階段およびその起発点としての郷土観察が、公平に世界を達観する上において、はた正当に各自生活の立脚地点を自覚する上において、欠くべからざるはもはや別言を要せざるべし」(『人生地理学』第1巻)

 「教育は、環境に対して価値を見出させる事だ。而してこの依って生ずる物理的、心理的原理を探求せしむることだ。そして自己の生活を之に適応せしむるによっての新価値を発見せしむることだ。即ち観察と理解と応用との方法を会得することを指導することだ」(『創価教育学体系』第4巻)

 <(3)創価教育には人間的な規模の社会単位が必要> 人間の施設、特に教育機関に関しては、それが人間的な規模でなければならないと牧口が確信していたことは、彼が地域社会(郷土)を教育の現場、また起点として重視していたことから窺い知ることができる。牧口は、社会的機関・施設の規模というものに大きな関心を払っていた。例えば、彼は無計画で行き当たりばったりの都市開発を「暴走的開発」と呼び、警告を発した。

 「かくのごとくして大都府の人口集積は、次第に地方の産業を衰頽せしめ、その極ついに国家をして漸次に減衰の域に誘導す。(中略)都市膨張のために一国の原始的産業の衰頽せざる限り、都市の吸収によりて原始的生産業経営の労力の缺欠を来さざる限りをもってその際上限とすれば、誤りなきに近からんか」(『人生地理学』第5巻)

教員・学生の意見、体験から

 牧口がこれを記してから100年が過ぎた今日、私たちはいまだに、拡大していく組織や制度を制御していく術を見出そうともがいている。そして、まさに牧口が国民に警告した「暴走的開発」から生じている影響と向き合って生きているのである。

 これらの教育理念の実践的かつ実験的な応用として誕生した高等教育システムがどのようなものであるかについては、これまでインタナショナル大学アジア・太平洋センターで学んだ学生や教鞭を執った教員等の体験や意見から、垣間見ることができる。

 牧口が提唱した学生中心で地域社会を基盤とした教育システムの中で、どのような教育的体験を積むことが可能であるかは、実際の体験談を通して知ることができる。ここでは、二つの体験を取り上げ、その一部を紹介したい。

 <学生の声>

 私がインタナショナル大学アジア・太平洋センターで学んでから15年になります。私は日本語と日本文化を学び、教育と人間開発に関するデビッド・ノートン博士の著作に触れました。私は「汝、己を知れ」がいかなる意味をもつのか、そして深い、本物の自覚の目的観をもって教えることがいかに力強く、また人間を変革する力をもっているかということを、決して忘れることはありません。

 <修士課程在学生>

 ホノルルのインタナショナル大学アジア・太平洋センターでの研究は、私の人生において最も自分の力を高めてくれる学習経験となっています。ここに来る前、私は小学校の教師として、従来とは違った新しい種類の学級を模索していました。これまで主流となってきた教育システムにおける上意下達型の構造にはシステム的な問題があると強く感じていましたが、それを他人に対しても自分に対してもうまく説明することができなかったのです。

 インタナショナル大学アジア・太平洋センターが柔軟性をもって共同企画させてくれた「個人および社会変革の教育」という修士課程プログラムにより、私は、学習者を自然環境や地域社会、そして一人ひとりが持つ天賦の才から切り離してしまう私たちの教育システムの社会的基盤を成しているのが何であるかを、はるかに深く理解できるようになりました。

世界に宣揚した創価学会の功績

 二つめの画期的な出来事は、今年6月5日に起こった。この日、私たちは米国の認定機関である「全米代替学校法的支援協会」から、認定の通知を受け取ったのである。以下は、認定に必要な実地調査を担当した教育専門家のハースト氏の報告書の一部である。

 「当該プログラムに関心を持って集ってくる人たちは、それぞれが個人としての関心と背景をもってインタナショナル大学アジア・太平洋センターに集い、教員と共同で研究内容の企画に当たり、現場での個別指導と授業、そして独自の学問研究を組み合わせることにより、豊かにして最大の教育効果を挙げている。学生が個々の能力開発と自己実現により集中できるようなコア・スタディのプログラムがあり、批判的思考と地域社会を基盤とした学問ができるようになっている。このプログラムは、高卒認定プログラムを含むあらゆる年代、あらゆる教育段階にある人にとって適切である。皆が、地元の地域社会、より広域な地域、あるいはグローバル社会といった共同社会の側面の一つあるいはいくつかについての実際的な学問研究を行っている。

 ウパティナス学校・資源センター初代所長サンドラ・ハースト」

 ここに述べた実績と成功は、それぞれの思想と価値観、そして改革への真剣な取り組みをしてくれた多くの学生・教職員のお陰であるばかりではなく、このような実験が行える制度的枠組みを提供し、励ましを送ってくれたカンザスシティに本部を置くインタナショナル大学のチームのお陰である。そして、今日のインタナショナル大学アジア・太平洋センターがあるのは、牧口常三郎の遺産を守り世界に継承してきてくれた創価学会のお陰でもある。(※引用は現代表記にしました)


略歴

 Dayle Bethel 1923年、アメリカ生まれ。アメリカ・インタナショナル大学教授。ミシガン州立大学で国際比較教育の博士号取得。著書に『価値創造者――牧口常三郎の教育思想』(英語版・日本語版)など。英語版『創価教育学体系』、同『人生地理学』の編集・監修にも携わる。