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(2006年6月27日付)
リーク情報を無批判に垂れ流す危うさ |
「歴史は繰り返す。一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」(『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』)
米国流の“弱肉強食”的な敵対的買収(M&A)で世間を騒がした、ITベンチャー企業・ライブドアのホリエモンこと堀江貴文社長逮捕からわずか半年足らず。「歴史」と呼ぶには余りにも短すぎるが、今度は同じ六本木ヒルズの住人でM&Aコンサルティング(通称・村上ファンド)を率いる村上世彰氏が「国策捜査」との恨み節を唱えながら特捜検察の手に落ちた。
逮捕容疑は、いずれもフジサンケイ・グループ買収劇に絡んで、堀江氏が粉飾決算で、一方もともとこの買収劇の先鞭を付けた村上氏がライブドアの大量買い付けを事前に知りつつインサイダー取引をしたというもの。
ただ、いざ逮捕の段になると、記者クラブ所属の大手メディアはもちろん、小泉首相までもが“寝耳に水”のホリエモン急襲劇とは異なり、国民周知の中で村上摘発が罷り通ったことは、独裁者・ナポレオン三世が国民の広範な支持を獲得して登場したことを皮肉った、かのマルクスも哄笑するばかりだろう。
各メディアは逮捕前から特捜検察によるリーク情報を無批判かつ集中豪雨的にたれ流し、国民をすっかり「村上悪玉論」に洗脳してしまったのである。
しかも、急激なIT革命の進展に伴い、「活字メディア」から「映像メディア」、さらに「電子メディア」へと、メディア社会の主軸が大きく連動する中で、東京キー局のフジテレビやTBSがその“ITバブルの申し子”のライブドア、楽天、さらにこれと連携する村上ファンドの、彼ら「ヒルズキッズ」による買収劇で企業経営の根幹までが直接脅かされたことは、ビジネス利害が一致する他の既存の大手メディアも揃って「国策捜査」に協力し、「村上潰し」に狂騒をしたこととは無関係ではなかっただろう。
ただ、村上氏の逮捕後は一転、事件を旧聞として抹消し、再びメディアは秋田男児殺害事件、W杯サッカーなどの情報商品としてよく売れる諸テーマを食い荒らすことになる。
1980年代の情報の産業化、つまりジャーナリズムのビジネス化によって、視聴率とか発行部数とかいった、指標による利益至上主義とジャーナリズムのエンターテインメント化(ワイドショー化)という「報道バブル」が出現して以降、日本のメディア業界は一層、退廃的だ。
このため、村上ファンド事件は、裏付けや実証不可能な捜査情報やスキャンダラスな個人情報だけが今も漂流し続けることになり、当然そこで前提となるべき「事実」が存在しないため、ことの真相や本質から遠ざけられることになってしまった。
翻って、この事件を歴史のもう少し長いスパンで見てみると、「市場VS国家」によるヘゲモニー争いという、もうひとつの文脈が浮かび上がってくる。
やはり、80年代半ば以降、日本の政治・経済をリードしてきた新自由主義的な考え方は市場主義・規制緩和・自由化と、一見「国家の退場」を主張しながら、90年代の空前の失業率と金融破綻に象徴される、グローバル資本主義の狂乱によって国家のアイデンティティーを解体しかねないため、実は国家の公的介入を招いてしまうというパラドックス(逆説)がある。
一昨年来の、東京証券取引所の上場問題を巡って、上場によって市場の透明化・健全化を図る東証と市場の安定化のために監視を続けたい政府との攻防も然り。
そして「モノ言う株主」の村上氏の暴走も「市場の番人」であるはずの証券取引監視委員会や金融庁がその場で行政処分すべき程度の事案だったが、それが直ちに強権発動となったことは村上氏と同じ旧通産省出身の元経企庁長官・堺屋太一氏ならずとも、「有望な野球選手が八百長疑惑で早々と追放されたようで残念だ」(朝日新聞・6月5日付朝刊)。
7月4日からは、いよいよホリエモンの公判が始まるが、その直前での村上氏の逮捕・起訴は、一説にはあくまでも無罪を主張する堀江氏の錬金術をあばき裁判を有利にするための、補充捜査的な思惑があるという。ましてや肝心の村上氏を立件すること自体、検察内部から強い異論が出されていたのである。
特捜検察は、1937年の日中戦争勃発をきっかけに国家統制経済体制が敷かれ、ヤミ取引や政府物資の横流しなどの取り締まりが国の最重要課題となったため、東京地裁検事局(現・東京地検)に新設された経済部がそもそもの始まりである。
権力を監視すべきメディアまでもが恣意的な権力の独走に協力するとなれば、それはメディアの自殺行為であり、その顛末は歴史の教えるところでもある。
(ジャーナリスト)
略歴かわべ・かつろう 1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。78年、TBSに入社。報道局社会部デスク、警視庁キャップ、「報道特集」副部長などを経て、96年退社。以後フリーのジャーナリストとして月刊誌を中心に活動する。著書に、『「報道のTBS」はなぜ崩壊したか』『日本の警察』『拉致はなぜ防げなかったのか』など。