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寄稿論文

特別寄稿 池田SGI会長の平和提言に思う

世界市民のエートス(持続的な気風)

(本紙客員論説委員・マジッド・テヘラニアン)

(2006年5月16日付)


全地球的責務への哲学的考察

第3次大戦の悲劇を回避するために


1930年代の国際情勢と酷似

 1975年、グアム島における創価学会インタナショナル(SGI)発足会議の折、池田大作会長は参加者の国籍欄に「世界」と記して徽章を胸につけていた。他の参加者たちも、それぞれ世界各国の市民を表す徽章を身につけていた。

 池田会長の「2006年平和提言」は、彼が思慮深い世界市民であることを浮き彫りにするものである。現今の世界政治を特徴づけるジンゴイズム(好戦的愛国主義)に対抗するためにも、世界はいま、池田会長のような世界市民を渇望している。

 あの9・11の悲劇以来、世界の状況は、1930年代のそれに当惑するほどの近似を見せている。だが昨今、多くの世界市民を擁する一つの「世界市民権」が登場しつつある。このことは、人類がもう一つの世界大戦の悲劇を回避し得ることを、約束するものである。

 今年の池田会長の「平和提言」は、それぞれに特徴ある二つの部分から成っている。

 その第1部には、全地球的な責務への哲学的な考察が盛り込まれている。ここでは特に、フランスの随筆家・モンテーニュの思考に焦点が当てられている。モンテーニュは16世紀に、時代の先端を歩んだ人物であるが、かのソクラテスも、彼とおなじ心情を表明していた。「おまえはどこの国の出身か」とたずねられたソクラテスは、「アテナイの人だ」とは答えずに、「世界の人だ」と述べたという。

人類家族の多様性ある結合こそ

 スーフィーの詩人・ルーミーもまた、13世紀に、これとおなじ心情を吐露している。

     ◇

 おお、私はどう表現したらよいのだろう、ムスリムたちよ、

 私はわが身の何たるかを知らないのだ。

 私はキリスト教徒ではなく、ユダヤ教徒でもなく、ゾロアスター教徒でもなければ、イスラム教徒でもない。

 東洋人でもなければ、西洋人でもなく、

 砂漠の民でも、海洋の民でもなく、

 陸地の者でも、天空の者でもない。

 私は「地」の者でなく、「水」の者でも、

 「風」の者でも、「火」の者でもなく、

 「高き」者でも、「低き」者でもなく、

 「空間」の者でも、「時間」の者でもない。

 私はインド人でなければ、中国人でもなく、

 ブルガリア人でも、ローマ人でもなく、

 イラク人でも、コラサン国人でもない。

 私はこの世の者でもなければ、次の世の者でもなく、

 天国の者でも、地獄の者でもなく、

 アダムの末裔でも、イブの子孫でもない。

 私はわが居場所をどこにも定めず、

 わが痕跡をどこにも留めず、

 わが肉体にも魂にも囚われることはない。

 すべてはわが愛しい方(神)のものであるからだ。

     ◇

 仏教者にして人道主義的な指導者である池田会長は、1944年にオルダス・ハクスリーがとりわけ「永遠の哲学」と名づけたものを、今日、改めて確認しつつある。「永遠の哲学」とは、人類家族の多様性ある結合を確認するものであり、狭小な国家や宗教や民族の境界線をはるかに超越した概念である。

具体的かつ賢明で独創的な提案

 池田会長は、「平和提言」の第2部で、具体的な事柄に焦点を当て、いくつかの賢明で独創的な提案をしている。

 第1に、国連の改革に関して、政治要因や市場要因とは根本的に異なる、「市民社会」の決定的な役割を重視している。そこから、非政府組織(NGO)を代表する新たな機関を、国連機構内に追加的に創設するよう呼びかける。この機関は、新たに設置されるべき「人権理事会」のもとで、枢要な役割を果たし得るものである。

 第2に、「平和構築委員会」の創設を提唱している。ようやく和平を実現した国や地域の約半数が、5年以内に再び紛争状態へと逆戻りしているからである。暴力の悪循環は、その根本的な諸原因を根絶しないかぎり、止むことはない。この「平和構築委員会」の主たる使命は、それらの根本原因を探り出し、改善措置を提供することである。

 第3に、地球温暖化の問題に取り組むには、有毒ガスの排気量を少なくとも現状の半分に減らす必要があると提案する。アメリカは、地球温暖化に関する「京都議定書」に署名していないため、同国をこの決議に加入させる必要がある。

 池田会長は、地球の自然資源の監査を求める国連事務総長の「ミレニアム生態系アセスメント」(MA)を支持している。アメリカ・中国・インドなどの大国は、環境の保全に力を注ぐことで自らが利益を蒙ることは、自明の理である。

希有な精神的指導者を得た幸運

 第4に、これまでの主張に違わず、教育問題を積極的に取り上げ、「国連持続可能な開発のための教育の10年」(DESD)を強く支持している。

 第5に、東アジア地域の諸問題に照準を合わせた提言をしている。すでにEU(欧州連合)が実証しているように、地域開発へ向けての協力は、積年の敵意を払拭しないまでも、これを和らげるものとなり得る。

 最近、クアラルンプールで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合)プラス3(日本・中国・韓国)の首脳会議によって、すでに「東アジア共同体」形成の定式化への道も緒に就いている。このような共同体づくりこそが、全世界的な平和構築への礎石となるのである。ASEAN諸国内では、これまで地域紛争は一度も起こっていない。

 ASEAN地域の総人口は約5億人、総面積約450万平方キロ、成長し続けるGDP(国内総生産)は約2730億米ドル(*注 日本の外務省発表の資料では、2004年度の名目GDPは7987億米ドル)である。この数がアジアの他地域に与えるであろう教訓は、あまりにも明白である。

 「世界市民のエートス」は、基本的には「永遠の哲学」の概念と何ら異なるものではない。今日、平和的手段による平和への探求が、暴力的手段による統治への追求と、著しい対照をなしつつある。

 池田会長は前者の擁護者である。これこそが、人類の生存と隆盛を確かならしめる道である。世界が池田大作氏のような精神的指導者を得たのは、じつに幸運なことである。

 (戸田記念国際平和研究所所長)


 プロフィル

 Majid Tehranian 1937年、イラン・マシュハド生まれ。ハーバード大学で博士号取得。コミュニケーション論、政治経済学、中東研究が専門。スパーク・マツナガ平和研究所所長、ハワイ大学教授などを歴任。『グローバル・コミュニケーションと世界政治』『文明間の対話』(共編、潮出版社)など、著書・論文多数。