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寄稿論文

グローバル・ガバナンスの民主化

(本紙客員論説委員・マジッド・テヘラニアン)

(2006年4月18日付)


行き詰まる一国主義的な手法

“地球議会”の構想が浮上


1930年代と酷似した国際情勢

 3月9日から11日までの3日間、200人ほどの学者、外交官、企業のトップが、「新アテネ学派」とでも呼ぶべきものを形成するためギリシャのアテネに集った。戸田平和研究所からは私が参加した。世界の諸問題を話し合うプログラムを後援することで、この新学派はソクラテスやプラトンによって創設された旧来の学派を再生させようとする試みともいえよう。

 この努力は毎年スイスのダボスで開催される「世界経済フォーラム」(別注=用語解説)とは性質が異なる。後者が先進国や強国を主に招聘するのに対して、新アテネ学派はそれを超えて、国家、市場、市民社会の三者間の対話を確立しようとするものである。

 今回の会議のテーマは「ミレニアム宣言を超えて:民主主義と健全なガバナンスのために」と題され、民主主義、安全保障、会社法人、グローバルな団体に焦点を当てた四つのグループが討議を行った。

 アメリカの一国主義的なアフガニスタンやイラクに対する政策は、いかなる大国といえども、複雑な世界の複雑な問題を単独で対処できないことを浮き彫りにした。核拡散、地球温暖化、テロリズム、安全保障などのような問題はすべての国にかかわる問題である。アメリカは国連を通じて行動することを拒否することで、国連の存在を単なる集合的安全保障の道具というだけの価値に低下させてしまった。

 しかしグローバリゼーションは国家の政策とグローバルな体制の間の大きなギャップを明確にしている。現在の状況は1930年代の過激なナショナリズムによって国際連盟がむしばまれていった状況とそれほど変わりがない。グローバルな問題はグローバルに対処されなければならない。しかしそれを可能にするグローバルな機関は、その空洞化が目立っている。

挫折した「新保守主義者」の野望

 今回の新学派のイニシアチブは、それゆえにタイムリーである。しかしどのようにしてグローバルな運営や統括を行っていけばよいかは、これから解いていかなくてはならないパズルである。1815年、ウェリントンらがワーテルローでナポレオンを破って以来、人類は若干の帝国的な地球支配を経験してきた。19世紀には英国が公海を支配することで世界に君臨した。アメリカ新世紀プロジェクトによればワシントンの新保守主義者たちはこの英国に取って代わりたいと願っている。

 しかし、今や21世紀である。アジア、アフリカ、ラテンアメリカの何百万人もの民衆が眠りから覚めないうちに征服された19世紀とは異なる。

 20世紀に入って、第1次、第2次の両世界大戦はこれらの古い植民地主義と新しい植民地主義のぶつかり合いだったとも言えよう。一方で植民地支配下にあった民衆が民族自決の権利に目覚めていった。帝国主義的なグローバル・ガバナンスはもう平和的には通用しなくなった。よって、アメリカの新保守主義派の世界統治再現の夢はかなわなかった。

 世界はもっと民主的なグローバル・ガバナンスを必要としている。どうしたらこのパズルを解くことができるのだろうか。改革派の一部は地球議会の設立を提案した。もしもインターネットが世界中に普及したなら、一人一票制度もありえる。しかし、現実はそうはいかない。実際には世界人口のたった6%しか、インターネットを利用できる機会に恵まれていない。

国連と各専門機関は継続して機能

 それに代わるものとしては、グローバルに活動している主要な存在に焦点を当てることである。国家、トランスナショナル・コーポレーション(国境を越えた会社法人)、市民社会組織などが明らかな候補者である。

 また、トランスナショナル・メディア組織、地域団体、自治団体、先住民族なども参加者となるだろう。

 これらの存在は個々にそれぞれの集会を開いてグローバルな利益や政策を追求することができる。しかし、国家や地方議会などを考慮しつつグローバルな政策を交渉するためには、それぞれの団体の代表からなる地球議会のようなものが必要となるだろう。

 この構想は地方、国家、地域における現存の統治制度に取って代わるものではない。ただ、現在存在する統治層に欠けているグローバルなレベルでのチェックとバランスの機能を加えるだけで可能である。

 国連とその各専門機関も継続して機能していく。実際、国連総会と安全保障理事会は参加191カ国の考えを代表するものとして存在し続けることができる。それは1945年のサンフランシスコでの設立の当初から、国連は国家を代表するものであって、世界の民衆を代表するものではなかったからである。

 これらの世界的に活動する団体の一部は、すでにその連帯を確立し始めている。例えば非政府機関はジュネーブで、非政府組織連合として代表されている。また地域的な組織も欧州連合(EU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)、北米自由貿易協定(NAFTA)などのような組織によって代表されている。

 もしこの構想が一般的に妥当だと考えられるとしても、その実現のためには多大な交渉がなされなければならない。しかし、このまま問題を棚上げにしておくのは、何の行動も起こさずに世界的な惨事が起こるのを待っているようなもので、決して賢明な選択とはいえないであろう。

 (戸田記念国際平和研究所所長)

 用語解説

 世界経済フォーラムは、ジュネーブに本部を置く独立の非営利財団。1971年に、クラウス・シュワブ氏が設立し、現在も理事長を務める。主なメンバーは、世界中の大企業約1000社。

 毎年1月下旬に、スイスの観光地ダボスで開催される年次総会を、日本ではダボス会議と呼ぶ。加盟企業のトップ、政治家・学者・ジャーナリストなどの招待客、およそ2000人近くが参加する。創設時から毎年開催されている。


 略歴

 Majid Tehranian 1937年、イラン・マシュハド生まれ。ハーバード大学で博士号取得。コミュニケーション論、政治経済学、中東研究が専門。スパーク・マツナガ平和研究所所長、ハワイ大学教授などを歴任。『グローバル・コミュニケーションと世界政治』『文明間の対話』(共編、潮出版社)など、著書・論文多数。