Current Directory is http://www.seikyo.org/【Seikyo Media Page】Copyright (C) 1997-2006 by The Seikyo Shimbun.



メディアのページ

寄稿論文

ワールド・ベースボール・クラシック WBCへの米メディア報道
王ジャパン優勝はどう伝えられたか

(在米ジャーナリスト・椎名亜由子)

(2006年4月11日付)


「野球は大リーグがすべてではない」

米国人にうれしい驚きと称賛


NYタイムズ紙が興奮ぎみの社説

 「ヤキュウへの愛のために(For the Love of Yakyu)」と題された論説が3月22日、ニューヨーク・タイムズ紙を飾った。「なんと素晴らしい試合だったことか!」と興奮ぎみに始まるその論説は、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の優勝戦を飾った日本とキューバの試合内容を称賛した。

 しかし、WBC開催前には、アメリカではメディアの間でもファンの間でも、その成功を危ぶむ声のほうが強かった。選手の怪我が心配であるとか、シーズンとの兼ね合いで開催時期が好ましくないとか、WBCを不要のものといわんばかりの論調も多く見られ、日本や他の参加国における熱狂ぶりとの体温差には相当のものがあった。

 ヤンキースのオーナー、シュタインブレナー氏がWBC不支持を表明したのみならず、メジャーリーグ最大級のスター選手であるサンフランシスコ・ジャイアンツのバリー・ボンズ選手も早々に出場を辞退し、「オリンピックでもあるまいし、だれが気にするものか。出場することに意味はあるのか?」と発言するなど、野球の母国であるアメリカは野球の国際振興のための祭典に冷淡にすら見えた。

 しかし、そんなムードは試合が進むにつれ吹き飛ばされた。スポーツ専門テレビ局であるESPNでの視聴率は他の番組の視聴率を大幅に上回り、開催者側がメディアの取材要望に応えてワールドシリーズやオリンピック時を超える4000超の記者章を発行するにつれて、野球の国際的認知度の向上というWBC開催の目的が達成されつつある様子が米メディアを通じても伝えられるようになった。

 懐疑的だったメディアは手のひらを返したようになり、WBC開催に否定的だった人々を「救いようのない古代人」(22日付、ニューヨーク・タイムズ紙)と非難するなど態度を豹変させた。

高いモラルやチームワークに注目

 「野球がチームワークの賜物であるということを再認識させてくれた」(21日付、AP電)、「野球人生の中で最高の経験」(観客席でスポーツ・イラストレイテッド誌のインタビューに応えたアトランタ・ブレーブスのMVP選手、チッパー・ジョーンズ氏のコメント)といった日本チームをはじめとする各国チームへの称賛が、遅まきながら熱を帯びてきた米国でのWBC人気を伝え始めた。

 その様子は、大リーグが野球のすべてだと信じていたアメリカが野球を再発見する過程を見るかのようであった。優勝決定戦を戦った日本とキューバの両チームに代表されるプレーヤーのモラルの高さ、チームワークといった点が米国人の目をひきつけたようだ。

 早くからフィールドに出て調整を行い、個人プレーのためではなくチームのために一丸となって動く姿は、高額な年俸をとりながら自己中心的なプレーや態度を繰り返す大リーガーたちと比較され、「米国でプレーする甘やかされた億万長者たちの間では、チームワークは優勝決定戦に残った両チームのようには成功していない」(21日、AP電)と大リーガーたちに辛口の批評を浴びせた。

 王貞治監督率いる日本チームは、米国以上に素晴らしいプレーをするチームが遠くアジアにもあることを示し、大リーグ外にもさらに大きく広がる野球の世界があることを証明したことで米国を沸かせ、驚かせた。大方の米国人は意外にもこれを純粋にうれしい発見として受け止めていたようである。

 各国ごとに争うスポーツ・トーナメントは、とかくナショナリズムが不自然に興隆しがちであり、メディア上にもその片鱗が見え隠れすることが少なくないが、今回のWBCでは力を存分に発揮することなく終わった米国チームのふがいなさに対する批判こそメディアにあふれたものの、勝利を収めた日本チームに対する恨み言めいた批判はまったくと言っていいほど見られず、ただただ称賛のみで埋め尽くされた。

早くも3年後の第2回大会を照準

 同率チーム順位決定法や開催時期、米国選出の審判など、問題がなかったわけでは決してない。

 しかしそうした問題を覆い隠して余りあるプレーをもってして、しかるべきチームがしかるべく駒を進めたとだれもが思える好試合が続いたために、日本、キューバ、そして7試合中、エラーゼロという素晴らしいプレーを見せた韓国といったチームの「入念な準備とチーム精神、多岐にわたる能力、効率のよさ」(21日付、ニュースデイ紙)といったプラス面に視線が集まり、マイナス面がクローズアップされる隙がなかったというのも理由の一つであろう。

 だからといって敗退した米国がこの結果にハッピーであるということでは決してない。「3年後なんて待ちきれない」(21日付、ニューヨーク・タイムズ紙)という米国の本心は、今回は油断したが次回こそは本気を見せてやるというところであろう。ある意味、第2回のWBCこそが正念場となるのではないか。2009年、ヤキュウのさらなる成長ぶりを世界に示して、日本チームの名声を不動のものとして欲しいものである。

 (在米ジャーナリスト)


 略歴

 しいな・あゆこ 上智大学新聞学科修士課程、ミネソタ大学ジャーナリズム学科修士課程修了。研究テーマは国際コミュニケーション論と、主にインドネシア、東南アジアにおける言論の自由。現在はニューヨークに在住し、リサーチャーとして活動する。