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寄稿論文

日本の平和戦略

(国際政治・軍事アナリスト 小川和久氏に聞く)

(2006年2月28日付)


日米同盟の重み使いこなせ

北朝鮮の暴発防止のシステムを


 揺れ動く国際情勢の全般について、長年、政治・軍事両面にわたる該博な知見をもとに、的確な分析を続けているアナリストの小川和久氏――。近著『日本の戦争力』(アスコム刊)では、日本の直面する重要課題に真正面から取り組みつつ、安全保障・平和戦略に鋭い洞察を加え、注目を集めている。今回のインタビューでは、日米同盟を主軸に、沖縄基地問題、北朝鮮の脅威と6カ国協議の行方などをめぐり、語ってもらった。(聞き手・光沢昭義記者)


米国に守られているだけではない

 ――まず、米国から見た「日米同盟の重要性」について、伺いたいと思います。「日本は米国に一方的に守ってもらっているから、日米安保は片務的である」との意見が根強い。近著では、それが「多くの日本人の“錯覚”であり、劣等感である」と指摘しています。

 科学的な見方ができない結果、そういう錯覚に陥ったのでしょう。

 米国はもちろん世界無比の軍事超大国であり、米側から見れば、双務的な軍事同盟はあり得ません。全部、片務的な関係と言ってよい。片務的な関係だけに、米国の方が何かと“持ち出し”は多いのに、それでも米国が同盟関係を結ぶ理由は、国益、つまり世界のリーダーであり続けるためにほかなりません。

 米国の同盟国は現在、約60カ国。日本はその中でも、最も重要な同盟国です。というのも、日本の存在がなければ、米国は世界のリーダーたり得ないからです。1984年に、私は米政府の許可を得て、在日米軍基地の調査をしました。日本の軍事的重要性は、その中で初めて明らかになったのです。

 日本だけが、米本土と同等の戦略的根拠地という位置付けにある。このことを理解するためには、日本側の錯覚から生じた問題をきちんと整理した上で、日米関係を健全な形に構築し直す必要があるでしょう。

 ――米国にとっても、日米安保条約は「国益」に適っている、と?

 日本列島が支える米軍の行動範囲は、ハワイからアフリカ最南端の喜望峰まで。地球の半分です。ここに展開する米軍は巨大な規模で、しかも世界の最先端のハイテク兵器で固められている。その軍事力を支えるには、一定の条件が求められます。

 それは、米国と同レベルの工業力と技術力、そして資金力があること。日本に替わる国はないから、日本が日米安保を解消すれば、米国は地球の半分の範囲で行動する軍事力を支える能力の約80%を消失する。その力を回復することはほとんど不可能ですから、米国は世界のリーダーの座から滑り落ちてしまいます。

「普天間返還」を再編の突破口に

 ――在日米軍基地に占める沖縄の基地負担の割合は約75%に上り、長年、議論の対象になっています。とりわけ、大学や病院などに隣接した「普天間基地」移設問題が焦点になっていますが、進んでいません。

 沖縄県民の少なくとも半数以上が、納得するような構想を描かなければならないでしょう。「普天間飛行場は市街地に隣接しているから危険」との理由で、普天間返還が決まったわけですから、一刻も早く仮の移設先をどこかに押さえ、航空部隊をそこに移転させ、危険を取り除かなければならない。これは官僚にはできない。政治の仕事です。

 もう一つは、普天間返還を突破口にして、沖縄の米軍基地全体を整理・統合するようなロードマップが、計画・実行されなければなりません。これができれば、米軍再編問題も前進するのではないでしょうか。

 また同時に、政治家は普天間返還を突破口として、沖縄の自立が可能となるような、抜本的な振興策を講じる必要があります。しかし、何一つできていない。

 ――米軍再編(トランスフォーメーション)問題で、米国は、ワシントン州にある「米陸軍第1軍団司令部」を、日本のキャンプ座間に移転する方針といいます。米国の戦略的見地から見て、この司令部はどのような意味を持つのでしょうか。

 端的に言えば、「頭脳」です。これまで、日本列島が支える米軍のあり方はずっと、冷戦期の構造に基づいてきました。そこで最も重要だったのが、海軍でした。海軍は海兵隊とともに、横須賀を拠点として、地球の半分の任務区域を担当していました。空軍も海軍ほど広くはないにせよ、フィリピンまでの戦域を任されていました。

 その中で、陸軍は「地域陸軍」だった。キャンプ座間にある在日米陸軍司令部は、朝鮮半島だけを担当していた。ところが同時多発テロの後、新しい脅威に機動的に対処するため、米軍再編が一気に動き出します。在外基地や施設を整理・統合し、もっと効率化する必要が生じた。日本列島の重要性は、さらに高まりました。

 そこで、第1軍団司令部が日本にくるわけです。これまでの位置付けとは違い、司令部は陸軍だけでなく海・空軍、海兵隊も統合的に指揮します。横須賀を中心とする海軍に比重を置いた「頭脳としての機能」が、キャンプ座間と一体化し、さらに強力になるわけです。

6カ国協議で“軟着陸”目指せ

 ――北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議について、伺います。「北朝鮮の軍事的脅威にさらされているから、日米同盟が重要」との見方があります。状況はどの程度、切迫しているのでしょうか。

 北朝鮮は「朝鮮半島を統一したい」「日本にダメージを与えたい」という「意図」はあるかもしれないが、それを実行する「能力」はない。

 北朝鮮を安全な状態に押さえ込み、軍事的に冒険させないことが大事です。そのために、日米同盟を機能させなければならない。例えば「日本に一発でもミサイルを撃ち込めば、米国が全力をあげて反撃する」という現実を認識させることです。

 ――94年には、「朝鮮半島核危機」が起き、米朝関係は一触即発の状況になりました。今後、北朝鮮がミサイルを発射する可能性はありますか。

 「核弾頭型」は何としても避けなければならない。これは被害が大きい。それを防ぐには、政治的なシステムが必要です。日米同盟という「強制力」で押さえ込みながら、例えば6カ国協議によって、ソフトランディング(軟着陸)させていく。つまり、核兵器を放棄させるように努力すべきでしょう。

 米国は、日本が戦略的根拠地だからこそ、重視しているのです。米軍は「北の脅威」があるから日本に駐留しているわけではありません。

 ――最後に「拉致問題」の解決に向けて、大切な点は何でしょう?

 2度にわたる“小泉訪朝”の背景には、北朝鮮の日米同盟に対する認識があると思います。北朝鮮から見た日本の価値は、米国が北朝鮮に向けて軍事力を行使しそうな時に、日本がそれを押し止めてくれるかもしれないというものです。だから、拉致問題を、誤った冒険主義に走った“昔の悪者たち”の仕業にしてしまい、生存者の一部を帰すところまで譲歩した。

 現在の課題は、日本側が日米同盟を戦略的に使いこなせていないこと。日本の外交専門家は、交渉に必要十分なデータさえも頭にインプットできていない。それでは当然、交渉になりません。


略歴

 おがわ・かずひさ 1945年、熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊、航空学校を経て同志社大学中退。鳥取の地方紙『日本海新聞』、『週刊現代』の記者を経て84年、日本初の軍事アナリストとして独立。現在、危機管理総合研究所主宰。著書に『日本の軍事力』『日本は国境を守れるか』『危機と戦う』『ヘリはなぜ飛ばなかったか』、訳書に『アメリカの対テロ部隊 その組織・装備・戦術』『生物化学兵器』など多数。