Current Directory is http://www.seikyo.org/【Seikyo Media Page】Copyright (C) 1997-2006 by The Seikyo Shimbun.



メディアのページ

寄稿論文

関西で第18回人権と報道シンポジウム

(弁護士・太田健義)

(2006年2月14日付)


JR福知山線の脱線事故報道を検証

求められる本質に迫る取材



事故に遭遇した2人が登壇

 1月28日、大阪府商工会館で「メディアの役割とは? JR福知山線脱線事故報道を検証する」と題して第18回人権と報道シンポジウムが開催された(人権と報道関西の会、関西マスコミ文化情報労組会議が共催)。

 パネリストは、ビデオプレスのジャーナリストである松原明氏、毎日新聞経済部記者の久田宏氏、朝日放送情報技術センターの水原康雄氏、信楽列車事故の弁護団を務めた弁護士・桂充弘氏の4人である。

 冒頭、ビデオプレス制作の映像が放映された。過去にイギリスで保線不備を原因とする列車事故が発生したが、JRでも線路に多数のひび割れが入っている状態が映されていた。

 イギリスでは、鉄道運営が民間に任され、コストを削減するために保線がおろそかになった結果、列車事故が発生した。日本のJRでも全く同様の事態が進行していることを映像は物語っていた。

 その後のパネルディスカッションでは、各パネリストが意見を述べた。

 久田氏は事故車両の1両目に、水原氏は同じく6両目に乗車し、それぞれ事故直後に勤務先に携帯電話で連絡を入れたとのことだった。

 事故原因について、水原氏は、JRが当初発表していた踏切での衝突事故ではないこと、オーバーランは少なくとも20〜30メートルぐらいであることを勤務先に伝えたが、一部ではJRの発表どおりの報道がなされ、その後、修正せざるを得なくなったのは周知の事実である。

被害者の匿名めぐって議論

 久田氏は、新聞休刊日を見越して、現場での取材記者が少ない5月5日に事故現場を献花のために訪れた。それでも事故で怪我をしたことが傍目にも分かったためか、数人の記者に囲まれたが、とてもコメントが出来るような心境ではなかったとのことであった。

 桂氏は、信楽事故と今回の事故とを比較し、マスコミは事故の報道はするが、その場限りの報道が多く、その後の継続的な検証がなされていないことを指摘した。

 今回のマスコミ報道では、JRバッシングともいえる状況が見られ、JRの金儲け主義に対する批判も強くなされていた。しかし、国鉄からJRへの移行に際しては、マスコミはむしろ民営化を礼賛する一方、大々的な国労バッシングを行っていた。松原氏は、国労解体がマスコミキャンペーンの走りであると指摘した。

 今回は、被害者の氏名が一部匿名になったようであるが、被害者匿名については、桂氏が、実名を公表して欲しくないとの被害者側の意向を尊重すべきであると述べる一方、久田氏や水原氏は、やはり事実を報道する以上は、被害者の実名も報道すべきとの立場であった。松原氏は、映像の真実味を高めるためには、やはりモザイクや音声だけではなく、本人の同意を取った上で、映像化しているとのことであった。

安易なJRバッシングに疑問

 この被害者匿名問題に関しては、現在、犯罪被害者等基本法の基本計画において、警察側が被害者の実名・匿名発表の権限を有することになっている。これは、被害者側からの要望であり、マスコミ不信に端を発している。

 本来、警察が発表権限を握るべきではないと思うが、そのためには、マスコミ自身が、マスコミよりも警察を信頼するという市民の感覚に敏感になり、被害者報道の方向性を真剣に議論すべきである。

 終盤、会場から、マスコミには事故の本質に迫る報道がなかった、事故の検証や再発の防止を視点に据えた報道がなされなかったとの厳しい意見が寄せられた。この点に関しては、来場していたある配信社の記者から、JRの体質などに焦点を当てた取材を継続的に行っているとの報告があった。

 今回の事故報道は、被害者実名問題、現場での過剰取材、JRバッシング、事故報道そのものの迷走など、多くの問題をはらんでいる。今回のシンポジウムを一つの契機として、今後も報道に対する継続的な検証が必要であろう。(弁護士)


略歴

 おおた・たけよし 1966年、神戸市生まれ。東京大学法学部卒。98年4月、大阪弁護士会に登録。人権と報道関西の会メンバー。訴訟では、フォーカス法廷写真報道・イラスト報道で報道された側の弁護団の一員として関与。