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寄稿論文

インタビュー 国連加盟50周年に思うこと

(佐藤行雄・日本国際問題研究所理事長に聞く)

(2006年2月7日付)


いきづく重光演説の理想主義

“幻想”でなく“実態”に即した行動を


 今年は日本の国連加盟(1956年12月18日)から50周年にあたる。ここでは、元国連大使の佐藤行雄・日本国際問題研究所理事長に、国連が改革すべき様々な課題と日本の果たすべき役割などについてインタビューした。

 (聞き手・野山智章論説委員)


「国連の三つの顔」仕分けて考えよ

 ――56年の重光葵外相の加盟演説以来の「理想主義」といいますか、日本は諸外国と比較しても国連への期待値が高いと思いますが……。

 <重光外相は、加盟演説で「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」などの憲法前文を引用し、日本国民の信条は国連憲章の目的、原則に合致すると強調した>

 戦後の日本にとって、国連加盟は国際的な地位の回復という大きな象徴的な意味があり、外交政策上の大きな目標だった。それが、(米ソ冷戦下にあって)ソ連の拒否権のためになかなか実現しないでいた後に、やっと加盟が叶ったという思いが重光演説には込められていたのであろうと思います。

 それにもう一つ、当時はまだ、国連憲章や、平和憲法とも言われる今の『憲法』をつらぬく一種の理想主義が強く意識されていたと思います。

 ただ、それから数十年を経て、私が大使として赴任して直接に見聞した国連の実態と日本人の国連観との間には、相当のギャップがあると感じました。最近はそれほどでもありませんが、日本の世論は長い間、“幻想”と言えるほどに国連を理想化していたと思います。

 ――佐藤理事長は、講演などで、しばしば「国連の三つの顔」という話をされていますね。

 三つに限るわけではありませんが、一口で「国連」と言っても、いろいろな面があるので、そこを仕分けて考えないと議論そのものが的はずれになってしまいます。

 例えば、一つは、明石康(元国連事務次長)さんとか、緒方貞子(元国連難民高等弁務官)さんなどに象徴される、国連の事務局や関係機関の人たちが、国連憲章の理想を追求して、世界各地で困った人たちを助ける活動をしている姿。これも国連です。それに対して、私(国連大使)がやってきたような、加盟191カ国が1票をにぎって国益を追求し、せめぎ合っている国連総会の世界も国連です。また、五つの常任理事国が拒否権を持って牛耳っている安全保障理事会も国連の一つの姿です。

 やみくもに国連を理想化して考えるのではなく、その実態を等身大に見ることが大切です。日本の対応についても、安全保障理事会を別にすれば、すでに国連の中で大きな存在になっているわけですから、指導力をもって国連を動かしていくような役割を果たしていくべきだと思います。

前進もあった昨年 創設60周年の議論

 ――戦後の日本は、自由主義陣営の一員、アジアの一員、国連中心主義、を外交3原則として掲げました。加盟50周年を迎えるにあたり、国連中心主義の現状をどう評価しますか。

 <外務省は57年の『外交青書』第1号で、外交活動3原則のトップに「国連中心」を掲げた。国民レベルでも、国連憲章の「われら連合国の人民は、われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い」との平和への叫びが、敗戦で打ちひしがれた人々の感情と共鳴し、賛同を集めた>

 日本が国連の「優等生」たらんと努力してきたことは事実でしょうが、本当に国連中心主義で行動してきたかどうかについては、率直に言って疑問を持ちます。例えば、国連の会議で多くの国から首脳や大臣が出席する時に、日本の代表が副大臣だったり、政務官だったりすることが少なからずあります。国会の都合と言われますが。

 ――国連創設60周年の昨年、日本政府は(1)安保理の拡大(2)国連分担金の見直しを含めた行財政改革(3)旧敵国条項の削除という、3点の改革に力を入れましたが、いずれも十分な成果をあげるまでには至りませんでした。

 そうでしょうか。例えば、(日本を含む第2次大戦の枢軸国を敵国視する国連憲章の)敵国条項の削除については、具体的に前進したと思います。95年の決議で「敵国条項は死文化している」とされていましたが、それは前文に書いてあるだけで、本文では、できるだけ早い機会に削除のための手続きを開始しようとの記述にとどまっていました。

 それに対して、創設60周年首脳会議の文書では、加盟国全体の意思として、敵国条項を削除すると書かれたわけで、95年の決議より、削除するという共通意志がより明確になったと思っています。

 ご指摘の予算分担率は3年ごとに交渉があり、もともと60周年の課題ではなかったと理解しています。むしろ今年(2006年)が交渉年です。

 安保理改革については、成果文書でどうしたというよりも、過去10年間以上にわたって総会の下に設けられた作業部会で議論されていた問題が、総会の決議案をどうしようかという次元で議論されるようになったことが一つの前進ではないでしょうか。

 ニューヨークでの安保理改革の議論が現在どのように行われているかについて全く承知しておりませんが、そもそも安保理改革という課題には各国の思惑が複雑に絡んでいるので、その実現には長い時間がかかることを覚悟しておく必要があると、私は考えています。

 他方、第2次大戦の戦勝国とその後継国が今もなお常任理事国として安保理を牛耳っていることには、多くの国が納得していません。ですから、時間はかかっても、安保理改革を追求することが大事で、そうすることが、現在の常任理事国に対する圧力にもなると思っています。

SGI提言でも「成果文書」に言及

 ――池田SGI(創価学会インタナショナル)会長は、1月25、26日に発表した「SGIの日」記念提言で、いくつか国連改革への提案を行っております。

 <SGI提言では、昨年、国連総会の特別首脳会合で採択された国連改革のための「成果文書」にもられた、人権理事会の設置、平和構築委員会の創設、さらに“人類の議会”として国連総会の活性化、の3点について具体的に言及している>

 60周年首脳会議の成果文書にある「人権理事会」について、安全保障理事会、経済社会理事会、信託統治理事会などと並ぶ「理事会」として創設するのであれば当然、憲章改正が必要となるでしょうが、その点がどのように考えられているのか、私は承知しておりません。もし、憲章を改正するのであれば、その機会に、敵国条項の削除も安保理改革の実現も追求すべきでしょう。

 二つ目の「平和構築委員会」については、これは開発、復旧、復興の分野で経験を積んできた日本にとっても大いに活躍の場が広がると思っています。

 <平和構築委員会は、紛争後の平和構築から復興にいたるまで、一貫した国際支援を進めるために総合的な立場から助言や提案を行う機関で、昨年末の国連総会と安保理での決議を経て正式に発足が決まった>

 三つ目の「国連総会の改革」ですが、確かに現在の総会には多くの改革が必要だと思いますが、効率化を図るあまり、大国が当面重要だと思っていることだけを、てきぱきと処理していけばよいという考え方には賛成しかねます。国連総会がどんな小国にも関心事項を発言する場を与えているということも大切だと思います。

 ――たしかに、総会や特別総会で結構ものごとが進んでいますね。

 そうです。貧困、女性、こども、環境などの問題への対応についての国際社会のコンセンサスをつくる上で中核的な役割を果たしてきています。国際法体系の形成でも大きな役割を果たしています。

 国連総会は、やはり、大国、小国を問わず、世界の国々の立場を反映する場であり続けるべきです。

 ただし、表決の仕方については、国連分担金を2割近く払っている日本も、1%の10分の1や100分の1程度しか払っていない国も、常に平等に扱われてよいかと言えば、そうではなく、例えば予算にかかわるものと、そうでないものを仕分けて、予算については、拠出率がよりよく反映されるように表決の仕方を変えることが必要と、私は思います。


略歴

 さとう・ゆきお 1939年、神奈川県生まれ。東京大学法学部3年在学中に外交官試験に合格し、61年、外務省入省。主に安保畑を歩み、情報調査局長、北米局長、オランダ、オーストラリア大使、国連常駐代表(大使)などを歴任。2003年から(財)日本国際問題研究所理事長。国家公安委員会委員。