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(2006年1月17日付)
目に余る視聴率狙いの低俗化競争 |
年末年始のテレビの空騒ぎと手抜き番組に、日ごろは仲間褒めが目立つ新聞のテレビ批評家たちも、さすがに嫌気がさしたようだ。が、これはいまに始まった異常現象ではない。
視聴率狙いの低俗化競争路線が、必然的に行き着いた姿である。ただ今回は、何を勘違いしたか、NHKまでが空騒ぎに加わって、花を添えた。テレビの暴走にブレーキをかける検証機能が、業界にも社会にも、ない。日本のテレビ危機の特徴と病理の深さが、ここにある。
テレビは20世紀最大の発明だという。心配は、赤ん坊、病弱者を含めた家庭の全員を、半強制的に、朝から晩まで、情報漬けの人工環境に置くことだ。人類の誕生以来、私生活への人工環境の支配は、初めての体験である。情報の人工環境は、自然環境と比べると絶えず自己主張をし、私生活への影響は比較にならぬほど大きい。
テレビ放送が始まったころ、評論家の大宅壮一氏は、日本人全体が「白痴化」することを恐れた。当時はまだ、教養主義文化が支配的な時代であった。彼が恐れたのは「知的な退化」であった。
いま若者と接していて、知的な退化が更なる段階に移ったのを実感する。「人間の退化」である。映像メディア漬けで育った子供が、一部で知的・性格的な障害の症状を見せている。子供をテレビ・ビデオ漬けから離すと、多くは症状が改善する。
筆者は最近の学生に顕著な、三つの生態の変化を見つけた。
(1)教室の私語が常態化した。後で問いただすと、意外と講義を聞いている。彼らにとって教師は、面白いときにだけ目を向けるテレビである。彼らは私語と講義の二つを、同時に聞き分けている。バイ・ヒヤリング族の誕生である。私語を悪いと思う感覚がない。
(2)青い顔で教室へ来て、すぐうつ伏して熟睡。横かぶりのテレビ風俗の野球帽は、このとき便利だ。朝までテレビやビデオを見ていた。体内時計は25時間周期で動く。朝寝坊続きだと、体内時計は生活とのずれを修正できない。体調は昼夜が逆転したりする。
(3)メディア論でテレビの影響について話しても、関心がない。ラジオからテレビへの移行を体験した「テレビ第1世代」の祖父母、テレビ草創期に生まれた「テレビ第2世代」の父母、対して彼らはテレビにどっぷり漬かり、これを環境として育った「テレビ第3世代」だ。テレビは環境の異物ではない。新聞は読まない。
若い親がテレビの影響に関心が薄いのも最近の特徴であろう。いじめや差別禁止、人権尊重は建前としては頭にある。がテレビは年中、無知、無作法、肥満、大食い、おべっか笑い、絶叫タレントを、この上ない醜悪なやらせで演出し、あざ笑い、差別し、殴り、なぶりものにする。人間は限りなく卑劣な動物におとしめられる。
日本で育児経験のある、デンマーク人の母親の言葉が忘れられない。
「一刻も早く日本から逃げ出したかった。子供がテレビに釘付けになる。番組が朝から晩までおもしろ過ぎる。育児にとってこれほど怖い環境はない。子供にはテレビや受験勉強よりも、人を愛し、助けるという、はるかに大切な人間としての学習があるんです」
<欧州> グローバル化時代の今でも、メディア情報、音楽、絵画、教育、福祉は、ガスや水道、交通、農業、環境と同様に政府が守るべき不可欠の公共的社会基盤だとする強い合意がある。公共メディアに対する国民の信頼が、驚くほど高い。英国営のBBCは六つのテレビ局と五つのラジオ局を持つ。新聞経営に補助金を出す国さえある。政府に対する国民の信頼が薄ければ、不可能な政策である。
<米国> 私企業の自由競争によって報道の自由と健全性を守る。メディアの自己検証能力が抜群に高い。2万人もの市民会員による第三者機関が、テレビ番組を監視する。インターネットによる市民のテレビ批判が、キャスターを番組から降ろした例もある。
<日本> 政府が情報の公共性を支える欧州型ではない。自己検証と市民監視の相互作用でメディアの公共性を守る米国型でもない。
欧米ではテレビ批判の主役は新聞と知識人である。日本の新聞は民放を系列化した時から、メディア批判の自由を自ら捨てた。
人類の公共財産である環境は、自然環境であれ人工環境であれ、何人にも損なう権利はない。放送事業者の責任は重い。電波の公共責任は当然、全放送時間を通じて問われている。一部番組の良心で、他の日常的なマイナスが、すべて免責されていいわけはない。メディアの公共性を監視し、育てる日本型システムを、どう構築するか。一過性のメディア批判は、明らかに限界にきている。
(ジャーナリスト)
略歴やました・くにつぐ 佐賀県鳥栖市生まれ。九州大学(社会学)卒業。西日本新聞社で論説委員、編集委員。鹿児島大学、福岡国際大学で情報社会論、ジャーナリズム論、地域計画論、産業社会学を担当。著書に『日本型ジャーナリズム――構造分析と体質改善への模索』(九州大学出版会)ほか。