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寄稿論文

特別寄稿 自然と人間

(本紙客員論説委員・ユーリー・ペトロシャン)

(2005年12月20日付)


米国の大水害とパキスタン大地震に思う

“環境の脅威”こそ最重要課題



前代未聞のハリケーン

 今春、「聖教新聞」紙上に、環境問題に関するテーマで寄稿させていただいた(4月7日付)。その時は、それで環境問題に関して自身の思うところのすべてを述べたと思っていたのだが、この夏の終わりと秋の出来事、つまり、ニューオーリンズの大水害と、パキスタンとインドでの大震災が、再び、極めて複雑で多面的なテーマに私を呼び戻した。

 本年8月末に北米の都市ニューオーリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」の威力は、一都市がほぼ完全に浸水し、メキシコ湾岸の多数の採油やぐらが破壊あるいは故障し、米国南部に集中する製油所の大部分が被害を受けるほど強大なものであった。

 この大惨事の反響は世界に広がり、起こりうる石油危機の脅威について、世界中のマスコミが執拗に語り始めた。このような状況のもと、米国政府は備蓄石油に頼らざるを得なくなった。事態はあまりに深刻で、世界最強の最も富める国アメリカを、一時、パニックの空気が支配したのである。

 ハリケーンがかくも強大な勢力に達しようとは、また、かくも甚大な被害をもたらすとは誰も想像し得なかった。ハリケーンと言えば、米国南部では、ごく普通の出来事であり、お馴染みですらあったからだ。

 米国を襲ったハリケーンのもたらした生態学的大災禍に、また、緊密に依存し合う人類共同体へのその強大な影響に、世界が驚愕した。この大惨事に深く思いを致すとき、人間をはるかに超えた強力なるものが、前代未聞の勢力を有するハリケーンによって、あたかも何かを人類に語ろうとしているかのように、その存在を思い出させているのではないかと思わざるをえない。

地球温暖化が異常現象の要因

 かつて、20世紀初頭、海の猛威にも難攻不落であると自負していた遠洋航路船「タイタニック」号が、あらゆる予想を覆して、巨大氷山との衝突で沈没したとき、ロシアの詩人アレクサンドル・ブロークは、熱狂的な慄きをもって、「海は生きている」と日記に書き留めた。

 私はその言葉を、自然が、技術的全能に溺れている人間たちに対して、彼らよりもはるかに強力な力が存在することを、あたかも意識的に思い出させたという意味に受けとめている。

 私たちは、台風や地震、洪水、火山の噴火に関する分析は、学者が支配する領域であると思ってきた。学者たちは今回、すべての原因は、猛烈なハリケーンやその他の異常な自然現象をたびたび引き起こしている地球の温暖化にあるとの厳しい科学的審判を下したのである。

 この温暖化は、私たちがまだ知らない地球規模の自然上の要因だけではなく、人間のとめどない生産活動の結果によるものでもある。私たちは、経済や政治だけでなく、モラル――個々の人間や人類共同体がその振る舞いにおいて賢明であるか浅薄であるか――という極めて難しい問題に立たされているのだ。ここでプラスの役割を果たしうるのは、人類と地球の運命に無関心ではいられない人間一人ひとりの声ではなかろうか。

 ハリケーン「カトリーナ」の襲来がもたらした結果を分析し、この米国南部で起きた大惨事の「人為的」側面と倫理的側面について少々触れておきたい。ニューオーリンズでの出来事は、ずいぶん前から必要に迫られていた市の堤防の修理に、米国政府が十分な予算を割り当てていたら、市がかくも破滅的に浸水することはなかったであろうことを露呈した。堤防修理費用が、イラクでの軍事活動にあてがわれたからだ。

人類の傲慢さ糾すシグナルか

 また、もし救助機関や行政機関が、迅速で効果的な活動を行うべく、十分に規律が取れ足並みが揃っていたら、いや単に良識さえあれば、ニューオーリンズの多くの人々を救えたであろうことも明白だ。さらに、ニューオーリンズの悲劇の日々のなかで、最高水準の法整備も国内秩序維持体制も、世界で最も進んだ国の市民の攻撃的で破壊的な本能――殺人、暴行、大規模な掠奪――を抑えるのに十分ではなかったことが浮き彫りになった。

 様々な法律や決まり、世間的な偏見の鎧に身を固めた人間たちの本性が露わになる非常事態での人々の行動に、私はいつも関心をもってきた。これは言ってみれば、「人間関係の生態学」とでもいえよう。

 世界最先端の国が、非常事態下、世界規模の経済的ショックをもたらしうる効率の悪さと生態学的脆さを露呈してしまった今、私たち人間社会は十分によく組織されていると言えるだろうか? 最近の一連の自然の一撃の結果に思いを巡らすと、こうした疑問が湧いてくるのである。

 これらの一撃には、さらにより恐るべき危険なものが私たちを待ち受けていることを世界に知らせ、生き方が間違っていないかを振り返るよう人類に呼びかける、自然そのものからのシグナルが込められていると思われてならない。

 今こそ人類は、自然災害を効果的に防ぐために、研究者や政治家の力を結集させなければならない。環境の脅威への抵抗が、各国政府の最重要課題とならなければならない。これは非常に難しいことであるが、何百万という人間の生命を守るために、また人類の未来のために、必ず成し遂げられなければならない課題なのである。

略歴

 ユーリー・ペトロシャン 1930年生まれ。歴史学博士。中世・近世のトルコ史、オスマン帝国時代の近東諸国史、東方の文化史、宗教史全般にわたる諸問題を専攻。ロシア科学アカデミー・サンクトペテルブルク学術センター前副総裁。