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(2005年12月13日付)
日本にも欲しい同様の試み |
JAWS(ジョーズ)と聞けば、何を連想されるだろうか? 恐らく1975年に公開され、大ヒットしたスピルバーグ監督のあの人食い鮫の映画を思い浮かべるだろう。
ここで報告するJAWSはJournalism & Women Symposiumの略で、映画とは直接の関係はない。しかし、JAWSのシンボルマークは赤い唇もなまめかしいピンクの肌をした鮫である。セクシーだけれど「なめると危険よ」というメッセージも込められているように思えた。
JAWSの存在を初めて知ったのは、10年以上前のことである。当時は最初の自著である『ニュースペーパーウーマン』の取材と執筆に格闘していた。「ニュースルームの誉れ」とまで称されたニューヨーク・タイムズ史上初の女性デスクだったベッツィ・ウエイドを取材したとき、彼女が教えてくれたのだった。
女性としてただ一人、『ペンタゴン・ペーパーズ(マクナマラ国防長官が1967年に作成を命じたベトナム介入過程の秘密報告書)』暴露報道の副デスクも務めたベッツィは、才気あふれる敏腕ジャーナリストで、その後、外報部の副デスク、主席コピーデスクに昇進。ここまで上り詰めた女性はいなかった。
しかし、タイムズで働く女性6人とともに原告として女性差別の改善を求めて1974年、タイムズ社の告訴に踏み切った。最終的には4年後、和解で幕を閉じたが、この一件でベッツィは後に続く女性たちのために輝かしいキャリアを犠牲にしたと思う。本人は一笑に付したが、その勇気に今でも畏敬の念を禁じえない。
なぜ女性ジャーナリストのための組織が必要なのだろうか。名門ノースウエスタン大学のジャーナリズム大学院准教授は「女性同士が情報を交換し、助け合うことは絶対に必要。男性にはこうしたネットワークがあるのに女性にはないからだ」と強調した。なければ自分たちで作ってしまおう。アメリカ女性特有の行動力を感じた。
JAWSの記念すべき20回目の秋キャンプに昨年やっと参加することができた。開催地はオレゴン州ポートランドから東へ車で約1時間の山中のマウント・フードというキャンプリゾート地である。週末を利用して全米各地から著名な元コラムニストをはじめ、新聞記者、デスク、編集者、フリーランス、ジャーナリズムの教育に携わる女性など総勢100人以上が参加した。
3日間の日程は早朝のヨガのクラスから、ワークショップ<女性史、ビジネス記事、ナラティブ(物語)・ライティングなど>や、ゲストスピーカーの講演(元オレゴン州知事の政治とプレス、有名人の裁判について、ゲイの聖職者を取材した記者の文化戦争と題するもの)など盛りだくさんである。女性の視点が、すべてに貫かれているのが印象的であった。
例えば、アメリカの女性スポーツ記者は、試合後ロッカールームで取材をする。選手の根強い反対があったが、女性たちが勝ち取った。こうした取材が可能となった当初、ボストンで地元紙の女性記者が選手の嫌がらせにあい、全米ニュースとなった。元ワシントンポストのスポーツ記者でベストセラー作家は、「今でも選手にプロとして認められなければロッカールームの取材は大変」という。詳細は省くが、自身が「窮地に陥ったとき、最大の武器はユーモアのセンス」だと語った。
マイケル・ジャクソンの裁判を担当したAP通信社のベテラン記者は、裁判の取材は女性には不利と言う。しかし、判事に進んで自己紹介を試み、特に関心のあるイシュー(事柄)を伝えるという地道な努力はベテランといえども不可欠という。参加者からは2001年の9・11同時多発テロ以降の秘密主義に対する批判が相次いだ。リーク(情報漏洩)に頼らざるを得ない現状は「ジャーナリストにとって非常に危険な時代である」という点で意見が一致した。
ホテルの会場ではJAWS奨学金のためのオークションが開設され、盛況だった。参加して早朝から深夜までざっくばらんな雰囲気で、アメリカの女性ジャーナリストの本音が聞けたことが大きな収穫であった。加えてフリーのジャーナリストとジャーナリストを目指す学生への積極的な支援は素晴らしいと思った。
女性記者が増えればよいのか、女性の積極的な登用は逆差別ではないのかという議論は依然としてなくならない。しかしJAWSのメンバーの答えは明快だ。人口の半分を占める女性たちが少数者(マイノリティー)とされる現状こそがおかしい。社会の声を正確に反映させるためにも女性記者の存在は大切という。
ひるがえって、日本の現状はどうであろうか。女性記者はまだ少ない。自分の職務を全うすることに全力を注ぎ、そのためか所属の報道機関を超えての連帯はまだ見られないように思う。しかし女性の視点を失わないでほしいと願っている。
(中部大学教授)
略歴
くりき・ちえこ ノンフィクション作家、ジャーナリスト。元シカゴ・トリビューン紙東京支局記者。著書に『ケネディの遺産』『地球市民をめざして』(ともに中央公論新社)など、共著に『メディア・リテラシーの現場から』(風媒社)、『日本のジャーナリズムとは何か』(ミネルヴァ書房)などがある。