Current Directory is http://www.seikyo.org/【Seikyo Media Page】Copyright (C) 1997-2005 by The Seikyo Shimbun.



メディアのページ

寄稿論文

在日米軍再編 中間報告を読む

(スティムソン・センター・リサーチ・フェロー・辰巳由紀)

(2005年11月15日付)


日米同盟変容の青写真

地方自治体から反発の声も



「中間報告」ではない?

 10月29日、日米両国政府は安全保障協議委員会(通称2プラス2)終了後に「日米同盟:未来に向けた変革と再編」という名の共同文書を発表した。

 この文書は、(1)21世紀の安全保障環境の中で、日米(特に自衛隊と米軍)の間でどのような役割分担が行われるべきか、(2)米軍の再編(トランスフォーメーション)に伴い海外駐留米軍配備見直しも行われる中で在日米軍がどのように再編されるべきか、の2点に関する日米間の合意事項を盛り込んだものである。

 日本では今回の共同文書は「中間報告」として捉えられており、特に在日米軍基地再編問題の議論の際にこのような論調が取られることが多いようだ。ところが、実際の共同文書には「中間報告」という言葉は出てこない。

 在日米軍基地再編を扱う個所に唯一「事務当局に対して、これらの個別的かつ相互に関連する具体案を最終的に取りまとめ、具体的な実施日程を含めた計画を2006年3月までに作成するよう指示した」という文があるのみである。

 なぜか? それは、関係者間では今回の共同文書を日米同盟を変容させていくための将来像について現時点で両政府が原則上合意できることはすべて文書に盛り込んだ、実質的には「最終文書」と同じ重みを持つものだという認識が存在するからである。

 国防省や国務省の関係者に話を聞くと、ある時点までは確かに「中間報告」という言葉が文書案に入っていたが、最終段階でこの言葉は文書案から消えたようである。そして筆者が話を聞いた今回の交渉の米側関係者はほぼ全員が異口同音に「我々はこの文書が本文書(The report)であると考えている」と述べている。

同盟の将来像

 それでは、今回の文書は日米同盟の将来像についてどのような示唆を与えてくれるのだろうか。

 メディアの関心を集めがちなのは、在日米軍再編について触れた第3項であるが、日米同盟の将来を示唆するという意味で今回の文書で重要なのは、自衛隊と米軍の役割分担について触れた第2項であろう。ここでは、今年2月19日に発表された安全保障協議委員会共同声明で示された共通戦略目標に向けて両国が努力するにあたり米軍と自衛隊がどのような協力関係を築いていくべきかについて述べられている。

 この個所を読むと、あくまでも日本の防衛と日本周辺における有事への対応における日米協力を基本にしつつも、大量破壊兵器拡散、テロ、ミサイルといった安全保障上の脅威への対応から復興・災害支援や捜索・救助活動などの非戦闘活動まで幅広い分野において日米がおのおの能力に見合った貢献をし、協力を深める同盟関係の将来像が浮かんでくる。

 また、「国際安全保障環境を改善するための国際的な活動に寄与するため、他国との関係を強化する」ことが謳われていることからも、日米同盟をグローバルなものに変容させようとする日米双方の政策決定者の意思が汲み取れる。

 その意味では、この文書が、1996年に日米安保宣言が発表されたあと、97年の新日米防衛協力の指針設定や、今年2月の2プラス2終了後の共同声明など、日米間の実績のみならず、自衛隊のインド洋及びイラクへの派遣、昨年10月の防衛力と安全保障に関する懇談会報告書発表や、12月の防衛大綱の見直し及び弾道ミサイル防衛導入決定など、日本国内の状況の進展の上に立つものとして位置づけられていることは間違いない。

履行がカギに

 しかし、今後、今回の文書の内容を具現化するための道のりは平たんではない。在日米軍再編に関しては、各地方自治体から既に強い反発の声が聞かれる。特に、最後まで揉めた普天間飛行場の移設先については日本側から実現が可能だという保証があったからこそ、日本の立場を受け入れたというのが米側の言い分であり、実施計画策定が遅れた場合、両国間に緊張をもたらす可能性がある。

 さらに、この文書の内容を履行するために必要な日本の現行制度の変化に関し、日米の見解に差がある可能性もある。

 共同文書内の「現行の法律その他の制度の枠内で」や「適切に」という言葉や、日本の防衛力の「防衛大綱に沿った」強化を継続するという記述などを見ると、今回の文書を作成するにあたっての議論は、昨年12月に見直された防衛大綱の枠内で行われたもので、したがって、現行憲法の範囲内の議論であるというのが日本側の言い分だろう。

 しかし、米国側はそうは捉えていない。むしろ、今回の文書の内容を日本が本気で履行する気があるならば「憲法第9条の問題は不可避(某米政府関係者)」、つまり、今回の文書の内容に日本側が合意したことを、「集団的自衛権の行使」に向けて日本が舵を切った明確なシグナルとして米側が捉えている可能性が高いのだ。

 さらに、日中・日韓関係が緊張を続ける今の時期に、この共同文書が発表されたことを東アジアがどのように捉えているのかという問題も、考慮しなくてはならない。「今回の文書はこれまで“張り子の虎”だった日米同盟に中身を与えるという意味合いしかない」とする日米関係者もいる。

 しかし、国内外の慎重論を無視して靖国神社参拝を続ける小泉総理の下で、日米同盟をグローバルなものに変容させることを目指す文書が発表されたことに中韓両国が神経を尖らせているであろうことは想像に難くない。同盟関係強化に向け努力する一方で、東アジアで日米同盟が孤立しないために日本は何をすべきかについても、きちんと議論する必要があるだろう。

 (スティムソン・センター・リサーチ・フェロー)


略歴

 たつみ・ゆき 東京都生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院より修士号取得。在米国日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)国際安全保障部研究員などを経て、2004年7月より現職。