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寄稿論文

あすから北京で、第5回6カ国協議 北朝鮮の核問題、北東アジア情勢の展望

(ケント・カルダー博士・米ジョンズ・ホプキンス大学ライシャワー研究所長に聞く)

(2005年11月8日付)


合意達成へインセンティブ(意欲刺激)を

各国の相互理解を進めるSGI運動に期待


 北朝鮮の核問題をめぐる第5回6カ国協議が、あす9日から北京で開催される。今回の協議は、9月の第4回協議で合意した「共同声明」の履行に向け、北朝鮮の核放棄への手順や査察・検証制度をどう具体化するかが最大の焦点となる。ここでは、同協議ならびに北東アジア情勢について米ジョンズ・ホプキンス大学ライシャワー東アジア研究所長のケント・カルダー博士にインタビューした。(聞き手・野山智章論説委員)


共同声明

 【第4回協議の「共同声明」】

 9月19日、第4回6カ国協議において全会一致で採択された「共同声明」の骨子は次の通り。

       ◇

 北朝鮮はすべての核兵器と現存する核計画を放棄、NPT(核拡散防止条約)に復帰し、IAEA(国際原子力機関)の査察を受け入れることを承諾。米国は、朝鮮半島に核兵器を配備しておらず、核兵器やその他の兵器で、北朝鮮を攻撃、侵攻する意思がないことを確認した。

 また、日朝関係については「日朝平壌宣言」にもとづき、段階的に関係を正常化していくことで合意した。

キッシンジャー外交の知恵

 ――6カ国協議は前回、難産の末に「共同声明」を採択しました。まず現状をどう評価していますか。

 総論で、核プログラムを廃止することで一致して、その後で詳細について交渉しようというアプローチはとてもよいと思います。

 北朝鮮には、ブッシュ大統領が北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しで非難したことなどから、米国はどうしても金正日政権を倒したいと考えているにちがいないとする“被害妄想”があります。

 一方、米国側には、北朝鮮との建設的な対話を支持する意見があまりありません。例えば、米中関係では、貿易・経済交流の観点から財界人などが平和的な選択を望んでいます。昔の米ソ関係においても同様な傾向がありました。ところが米朝間には、それがないのです。

 むしろ、友好的な決断に反対する勢力が両国に多い。要するに、すごく微妙です。米朝関係とはそういうものなのです。まず“被害妄想”を抑えるための協定が先にないと、交渉がうまくいきにくいということです。その意味でよかったと思います。

 ――朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)設立につながった1994年の米朝「核枠組み合意」では、ウラン濃縮計画疑惑が明るみに出るなど北朝鮮にだまされた結果になりました。そもそも北朝鮮は約束を守る気がないという批判がありますが。

 6カ国協議の米代表であるクリストファー・ヒル国務次官補は、かつてキッシンジャー博士が唱えていた外交原則をうまく使っていると思います。

 キッシンジャー外交の第1要件は、相手の意見を受け入れて、どこかに妥協点をみつけ、相手に合意を達成するインセンティブ(意欲刺激)を与えていくということです。

 ナポレオンのロシア遠征のように無理に攻めるようなやり方はうまくいかないと考えているのです。そのアドバイスをヒル代表は受け止めているのでしょう。

域内で強まる中国の影響力

 ――6カ国協議に向けられる、もう一つの批判は、北東アジア地域における中国の力を見せつけられる形になっているのではないかというものです。

 しばしば米国の外交は、他国にリードしてもらうことが自らの国益になるとの考えに立つ場合があります。これは、その具体的な例で、中国に面子を与え、責任感を与えることで地域全体にとってよい影響をもたらしています。

 もちろん、米国の国益と矛盾すれば別ですけれど、今回の場合は、地域の安定を求め、北朝鮮に核プログラムを中止させてほしいという目的があり、それを実現できれば米国の基礎的な利益とは矛盾しません。

 一つだけ気にしていることは、中国は、このプロセスによって北朝鮮に対する影響力を強化しようとしており、そうなると最終的には朝鮮半島の統一は難しくなってくるでしょう。それは、韓国や北朝鮮の国民には不幸なことです。中国の影響力を残す妥協的な選択も必要だと思いますが、朝鮮半島の統一が無理な状態を作ることは、長い目で不安の材料になるような気がします。

 ――今、米韓関係がよくありません。最近の世論調査によると、韓国で嫌米感情が高まり、米国でも嫌韓感情が高まっています。

 これは米国が、韓国民の南北統一に対する希望をよく理解していないことが一つの要因です。もう一つは、韓国の政治が構造的にこの10年間で変わってきたことも要因と言えるでしょう。いわゆる「386世代」(韓国の中核世代と言われる、1960年代に生まれて80年代に大学生として民主化運動を経験した30〜40歳の世代)が台頭し、革新的なエリート層が形成されました。

 加えて、韓国の若い人たちには、冷戦構造から生じる米韓の従属関係に嫌気がさしている傾向があり、ブッシュ政権がその感情を逆なでする路線をとれば反発が起こるのは当然でしょう。ただ、昨年8月、ヒル氏が駐韓米国大使に赴任してからは改善の動きがありました(今年2月、東アジア太平洋担当の国務次官補に指名された)。彼は自分のインターネットサイトで、韓国の若者と直接交流したりしています。

韓国はベネルクス型に学べ

 ――ところで韓国の盧武鉉大統領は今年3月、陸軍士官学校の卒業式で「これから私たちは韓半島だけでなく、北東アジアの平和と繁栄のため、“バランサー”の役割を果たしていく」とスピーチしました。

 <韓国政府高官は大統領発言の背景について「韓国が韓・米・日の南方三角同盟の一角を担っていた北東アジアの秩序は冷戦時代に作られたもの」とし、「我々がいつまでもその枠に閉じ込められていることはない」と解説した>

 私は今、韓国政治について論文を書いていますが、韓国は、かつて欧州統合の勃興期、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクがとったような、バランス役というよりは調整役の立場をとるべきだと思います。欧州統合に当初、フランスとドイツは抵抗しました。二度にわたる世界大戦の経緯もあり対立感情が強かったからです。(国際協調主義による国家の安全をめざす政策を掲げた)ベルギーがその間に立って、特にスパーク外相が重要な役割を果たしました。韓国は、このようなベネルクスモデルの役割を担うべきだと思います。

 ――1970年代にドイツ統一を目指して「東方政策」を推進したウィリー・ブラント西ドイツ首相の場合は、ソ連や東ドイツとの外交を行う際にも、西側諸国との同盟関係を固めることが基礎であるという戦略観があったと思うのですが。

 その通りです。当時のドイツと同じく、民族が分断状態に置かれている韓国の場合は、特に日韓関係を強化しなければ、韓国の外交は難しいと思います。そういう意味で、国と国の間の相互理解を進める、皆さん(創価学会インタナショナル)のようなグループの役割が大事だと思います。日韓関係に関しては、もちろん植民地支配のつらい記憶もありますが、それでも相互理解を深めていくことが肝要です。

新たな戦没者の追悼施設を

 ――今年は、日韓の国交正常化40周年を記念する友情年で、「韓流ドラマ」ブームなど非常にいいムードが流れていたのですが、竹島(独島)問題や靖国神社参拝問題などでギクシャクし、残念な現状になっています。

 私の恩師であるライシャワー教授は、日韓関係の正常化に直接関与しました。さまざまな外交上の出来事の中でも日韓関係の正常化は、恩師の一番喜んだ出来事だと記憶しています。ですから、私個人としても日米韓関係を強化することを非常に大事に思っているのです。

 小泉首相の靖国神社参拝に抗議し、韓国の潘基文外交通商相が当初、訪日をキャンセルすると言っていたのを撤回して、日本に来るという動きになりました。潘外相の訪問がキャンセルせずに日韓両政府間レベルの対話が維持されたことは、すごくよかったと思います。

 ――来日した潘外相は10月27日、日韓外相会談で「靖国参拝への抗議」とともに、靖国神社に代わる国立の戦没者追悼施設設置を働きかけたと報道されています。また、翌日には新たな戦没者追悼施設のあり方について検討する超党派の議員連盟の設立発起人会が開かれました。このような動きについてどう思われますか。

 とても大事だと思います。北東アジア地域の将来のために日韓関係の強化が不可欠です。ベーカー前駐日米国大使や恩師ライシャワー教授もそう考えていたのを強く覚えています。

 ですから、日韓関係を強化するために、(米国の国立墓地である)アーリントンのような施設をつくることは、たいへん建設的な選択だと考えます。


略歴

 Kent E. Calder

 1948年、米国ユタ州生まれ。72年、ハーバード大学に進み、エドウィン・ライシャワー教授(元駐日大使)のもとで日本の政治経済を研究。76年、政治学博士号を取得。プリンストン大学日米研究所長、ワシントンDCの戦略国際研究センター(CSIS)日本部長、駐日米国大使の特別補佐官などを歴任。著書に『戦略的資本主義』『アジア 危機の構図』など多数。