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寄稿論文

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「政治改革」の初心忘れた自民党

河合 秀和
(学習院大学教授)

(1998年7月4日付)




公選法連座制で当選無効の野田議員弁護団に5議員

参院選前に国民なめた傍若無人さ

橋本首相 見直し論に「議論することが悪いかい」

司法への政権党の“圧力”との批判も

 公職選挙法の拡大連座制によって今年五月、大阪高裁から当選無効の判決を受け、最高裁に上告している自民党の野田実衆院議員(和歌山三区から立候補し落選、重複の比例代表近畿ブロックで当選)の弁護団に、弁護士資格を持つ自民党の国会議員五人が加わっていたことが明らかになった。自民党では野田氏の裁判を契機に連座制見直しの機運が生まれ、参院選後に改正に向けた小委員会を発足させるという。「政治改革」の理念に逆行する自民党の動きを受け、政治学者の河合秀和氏に意見を聞いた。(野山智章記者)

佐藤孝行氏の閣僚任命以来の大失策

――今回の事態への概括(がいかつ)的な感想を。

 だれ人も裁判で弁護人をつける権利を有しており、国会議員であろうと弁護活動をするのは自由だ。しかし、自民党の国会議員が弁護士として加わり、しかも参院選前にあからさまに拡大連座制の緩和という方向で弁護に当たるとなれば、これは自民党から党としてどう考えるかの「声明」が出ないといけない。

 本来、自民党総裁である橋本首相は「拡大連座制の緩和は考えていない」と明言すべきだ。ところが、党内の見直し機運について首相は「制度自体の議論をすることが悪いかい」と記者団に答えている。これでは「選挙違反の規定を緩(ゆる)めろ」と言わんばかりだ。これは橋本首相にしたら、ロッキード事件で有罪が確定した佐藤孝行氏を昨年閣僚に任命したとき以来、二回目の大失策と思う。

――「公明・適正な選挙」を目指したルールを後退させることがまかり通る日本の民主主義は病気ですか?

 公職選挙法の規定を緩めるように主張する線で議員弁護士団を作るというのは言語道断だ。倫理感覚の無さを示していると思う。おまけに、小選挙区制になって、選挙区の候補者は、党の代表ということになっている。また、比例区は党を中心にして活動をしていく。だから、最終的に党が責任を取ることをはっきりさせなければならない。その点の政治改革の原則について、全く自覚がないと思う。

 連座制が英国に導入されたのは選挙権が拡大された一八六七年。選挙運動を党営で行うという建前ができ、初めて連座制が出てきた。それまでは個人で選挙をやっていたから、親族だけが連座したけれども、親族よりも党の活動家が連座するのが当たり前になっている。

一党与党に戻り古い体質が出てきた

――小選挙区比例代表並立制を導入すれば、選挙は政党間の政策競争になり、腐敗はなくなるという話だったが。<> 一昨年の総選挙では、中心的な問題は消費税の三%から五%への引き上げだった。ところが当選した自民党議員の八〇%までが選挙公報で消費税五%を凍結するか、見直しを公約している。第二次橋本内閣の大蔵大臣に選ばれた三塚博氏も「凍結」を言っていた。つまり、党の政策と候補者の公約の違いを見逃すことで、責任の所在を曖昧(あいまい)にしてしまった。これは政治改革の理念に対する裏切りですよ。

 自民党は(リクルート疑獄直後の)八九年参院選挙で惨敗するという手酷(てひど)い罰を受けた。その罰を受けての政治改革だったが、すぐに忘れてしまったようだ。そして元の体質が表れてくる。しかもそこで、与党をたたく野党勢力が弱い。皮肉なことに、小選挙区制が導入されたことで、自民党内の派閥の力が抑え込まれ、首相の支持率が三〇%を切っても党内抗争が起こらない。今、「最大の景気対策は首相を代えること」と言われるにもかかわらず、そうはならない事態だ。
  

――選挙前は世論の批判を浴びるような動きを控えようという回路が働くものだ。自民党の傍若無人さには驚くが……。

 野田議員には上告させるべきでは無かったし、上告しても自民党は支持しないという声明を出すべきだった。これでは「この次の選挙もこれまで通り腐敗して戦います」と言わんばかりだ。何が悪いのかというと、一つはマスコミがなめられている。そして当然の道義がなめられている。
  

――今回の問題点として、最高裁に対する政権党の「政治的圧力」になりかねない動きとしても批判を浴びています。憲法上の三権分立への挑戦ではないかと。

 もし自民党が、こうした行為で裁判所に圧力をかけられると思うならば、裁判所に対する最大の侮辱だろう。裁判所もなめられているということだ。

 自民党が、社民・さきがけとの連立を解消し一党与党体制に戻ったタイミングの出来事で、古いものが出てきた感じがする。

(学習院大教授)



拡大連座制

 候補者の関係者が選挙違反を犯した場合、当選を無効にする制度。1994年の公職選挙法改正で連座制が強化された。  連座対象者の範囲がそれまでの「総括主宰者」や「出納責任者」らから、「秘書」や選挙運動の指揮・監督を行う「組織的選挙運動管理者」らまで広がった。対象者が、執行猶予付きでも禁固以上の刑が確定した場合、候補者本人の当選無効と、同一選挙区での立候補が5年間禁止される。  野田議員の場合は、事務所職員が買収で有罪確定したのを受けて検察が行政訴訟を起こした。当選した国会議員に対し、改正公職選挙法の連座制の適用で当選無効とした司法判断は初めて。



取材メモ

「日本売り」の元凶ここに

 当初、野田実氏の弁護団に参加した自民党議員は、公職選挙法の改正に向けた党内小委員会の中心メンバーである白川勝彦(前自治相)をはじめ、杉浦正健、山本有二、棚橋泰文の四衆院議員と服部三男雄参院議員。野田氏は六月五日、最高裁に上告。同十二日、五議員を訴訟代理人に選任する届を提出した。複数の報道によるとその後、“司法への政治的圧力”との非難をうけてか、さすがに訴訟代理人の名簿を変更した模様だ。

 河合教授は英国政治史を引き合いに今回の事態を批判したが、日本以外の先進国のどこに、腐敗選挙への逆戻りを政権党が公然と画策するような事例があるだろうか。アジア経済に暗い影を落とす近年の「円売り」「株売り」「債権売り」のトリプル安、ひいては「日本売り」を招いている“元凶”を見る思いだ。政治の貧困ここに極まれりと言わざるを得ない。



略歴 かわい・ひでかず  1933年京都府生まれ。56年東京大学卒。62〜65年、73〜75年オックスフォード大学で研究。英国議会政治の研究で知られ、現代世界の社会主義の発展と挫折を分析。学習院大学教授。著書に『現代イギリス政治史研究』『レーニン』『チャーチル』『国民国家と市民的権利1・2』『政党と階級』、訳書に『バーリン選集』(共訳)など。