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(2005年8月16日付)
「皆の心と祈りで完成した作品」 |
イランのクルド人監督バフマン・ゴバディ氏の新作『亀も空を飛ぶ』(ベルリン国際映画祭平和映画賞など受賞)が9月17日(土)から、東京の岩波ホールで公開される(順次全国で上映)。戦争で荒廃した大地にたくましく生きる子どもたちと、彼らが経験する破局を描く。来日したゴバディ監督に、戦争で傷つく子どもたちと平和への思いを語ってもらった。(聞き手・岡本佳之記者)
<2003年春、イラク北部のクルディスタン地方の小さな村が舞台。イラン・イラク戦争、湾岸戦争で荒廃したこの地方に、再び戦争が訪れようとしている。村の子どもたちは掘り出した地雷を売って生計を支えている。その元締めで、孤児の少年サテライトは、アメリカ軍の動向を知りたがる大人に応えて、衛星放送のアンテナを買いに行く……>
――子どもの視線で戦争の悲劇を描いていますね。
イラク戦争後の2003年、前作『わが故郷の歌』を上映するためにイラクを訪れ、子どもたちの惨状を目の当たりにしたのです。特に戦争によって身体に障害を負った子どもたちの姿に打ちのめされました。行けども行けども地雷が続き、子どもが殺されたり、傷つけられています。
――戦争による一番の犠牲者が子どもであることを教えられます。同時に、クルド人のたくましい生活も描かれています。
<国家を持たない世界最大の少数民族クルド人は、トルコ、イラン、イラク、シリアにまたがる山岳地帯(クルディスタン)に居住。人口は3000万人と推定され、イラクの全人口を超える>
戦後のイラクを舞台に映画をつくりたいと思っていました。
世界の有名な放送局は、多くのイラクの映像を流しますが、ブッシュとサダム・フセインのものばかり。そこには、現実にイラクに住む普通の人々の暮らしがありません。悔しいという思いもありました。自分なりに、小さいかもしれないけれど怒りを伝え、世界に向かって叫ばなければならないと思って、映画をつくりました。
――監督のどの作品にも、家族の絆が描かれていますね。
両親が離婚し、長男の私は11歳から父親役をしてきました。家族一人ひとりの面倒をみて、姉たちが結婚して家庭をつくった今も、皆のことを考えている。そういう気持ちが、最初の長編作『酔っぱらった馬の時間』に表れています。
イラクを訪れて、「クルド人は私の大きな家族だ」と思いました。今作でも、家族を思う気持ちは同じです。家族が大きくなったのです。
撮影現場で一人でもいじめたり、泣かせたり、悲しませたら、絶対いい映画はできない。私もスタッフも、一人でも傷つかないように気を配りました。出演した子どもたち一人ひとりの将来のことも考えました。
「心から立ちあがった人の思いは、必ず人の心にしみる」という、ことわざがあります。こちらの気持ちは、必ず人の心に伝わるものです。皆の心と祈りがあってこそ、この映画が完成したんだと思います。
――悲惨な現場をみてきた監督にとって、平和とは?
クルディスタンの人たちは、苦しい生活に耐えながら、生き延びないといけない。その戦いの中で強くなっていきます。必要としているものがパン一切れであり、勉強したくてもできない。そのような子どもたちと、何でも手に入る国の子どもたちとでは、平和の考え方も違ってきます。実際、その場にいないと分からない、感じられないものがいっぱいあります。
――映画の力をどう思いますか?
文化は、平和に一番影響を与えます。平和を保つためには、文化的な活動で基礎を築かなければいけない。中でも映画は役立つと思います。映画は、一人の人の心を打つことができる道具だからです。
経済的でも、表面的でもなく、文化的に心が通じ合えば、ずっと友達でいることができます。経済的に豊かで友達になっても、文化的にぶつかれば、友情は続きません。文化によってこそ、平和と安全な暮らしの基礎が築かれると思います。
――監督が描くクルド人の未来は?
安全な地域で、皆が平和な暮らしを送ることを願っています。今までは、いろんな世代で苦しんできたけれども、せめて、これから大きくなっていく子どもたちの世代は、明るい将来を迎えられるように願っています。
だから、子どもたちの未来のために、その地域でもっと映画を撮り続けたい。映画学校をつくり、映画館をつくってあげたい。
略歴1968年、イラン生まれ。88年からラジオ局などで働きながら短編映画の製作に励む。初の長編作『酔っぱらった馬の時間』(2000年)はカンヌ国際映画祭でカメラドール新人監督賞と国際批評家連盟賞を獲得。02年、同映画祭の審査員を務める。長編2作目『わが故郷の歌』(02年)はサンパウロ国際映画祭グランプリなどを受賞。『亀も空を飛ぶ』は、サンセバスチャン国際映画祭グランプリ、ベルリン国際映画祭平和映画賞をはじめ、欧州、アジア、北南米の映画祭で受賞している。
取材メモ伝わる不戦への思い
兵士に凌辱されて産んだ赤ん坊を憎む難民の少女アグリン。両腕のない兄ヘンゴウが、赤ん坊と一緒に姿を消した妹の靴を断崖の上に見つけ、口でつかむ……。その撮影の瞬間、現場で監督は泣き崩れ、スタッフも泣いていたという。涙を浮かべ撮影のエピソードを語るゴバディ監督の姿に平和の重みをかみしめた。