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寄稿論文

アジア新時代における留学生諸問題

(京都外国語大学教授・川口 榮一)

(2005年8月2日付)


10万人超えた日本への受け入れ

安心して勉学に取り組める環境整備を


 1983年、当時、内閣総理大臣の職にあった中曽根康弘氏の指示に基づき、「留学生受け入れ10万人計画」という総合的な留学生政策が実施されました。これは、「留学生は未来からの大使であり、国と国との架け橋である。世界から信頼される国家を目指すわが国にとって、留学生の受け入れと派遣とは、諸外国の人材育成に寄与する知的国際貢献である」といった趣旨の留学生政策です。いわば、わが国の安全政策の一環ともいえる重要な政策、国策として認識され、実施されたわけです。

 この「留学生受け入れ10万人計画」が策定された83年当時、留学生受け入れ数は1万428人、派遣は、1万66人にすぎませんでしたが、2003年には受け入れ10万9508人、派遣7万6464人に増加しました。今日、国際交流の進展に伴い、全世界で学んでいる留学生は160万人を超えているともいわれています。わが国のこの数字は、国際的にはまだまだ十分な水準ではありません。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの先進国では着実に増加傾向をたどっています。

 高等教育機関在籍者数に対する留学生受け入れ数の割合をみても、わが国では3%と先進国と比較しても依然低い数字となっています。

 一方、留学生受け入れの数は急増しましたが、半面、大学等の受け入れ態勢が対応できず、留学生の質への懸念が増し、不法就労などの問題が表面化し、ゆゆしき社会問題となっていることも疑いのない事実です。また、国の政策として国際貢献という観点から留学生受け入れに重点が置かれすぎたため、逆に日本人の海外留学への政策的対応が不十分であったということも否定できません。

 2003年の時点でのわが国の大学等で学ぶ留学生は、2002年に比べ、1万3958人増加し、14・6%の増でした。これを出身地域別にみると、アジア地域からの留学生が全体の約9割を占めています。

 わが国の地理的、文化的状況を考えれば、この数字はうなずけるのではないでしょうか。出身国、地域別留学生数をみると、中国が圧倒的に多く、7万814人で、次に韓国が1万5871人、以下、台湾、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナムと続いています。アメリカ合衆国など欧米からの留学生が多いように思われがちですが、受け入れ数においては、アジア諸国からの留学生の比ではないということになります。

 さて、21世紀を迎えて、わが国への国際的な期待は、いっそう強まっています。わが国の国際的に果たすべき役割も、ますます重要度を加えているということです。

 特に、国の存立と繁栄を諸外国との円滑な関係の維持・発展に依存しているわが国としては、各分野における国際交流を通じて諸外国との間に相互理解を促進し、友好関係を築いていくことがきわめて重要となります。

 また、「留学生受け入れ10万人計画」に見られるように、国家、社会の発展にとって人的能力の開発は、その基盤となるものであり、開発途上国における人材育成への協力は今日ますます重要性を帯びてきています。

 留学生交流は、人材の育成を通じた知的国際貢献として位置づけられ、国際的に開かれた社会への実現に結びつくものです。わが国の大学等に求められている国際化や、国際競争力の強化のためには、諸外国との知的交流の強化にもつながる留学生交流の拡大がきわめて重要だというわけです。

 日本で学ぶ留学生のうち、アジア地域からの留学生が全体の約9割を占めているという実情からして、アジアの中の日本、日本の中のアジアといった視点の重要性が改めて指摘されています。脱亜入欧から脱欧入亜。アジアに向けての発信こそが、これからのわが国に課せられた国際貢献なのではないでしょうか。

 資源の乏しいわが国において、人材育成が非常に重要であり、わが国への留学を通して多くの知日派の人材を育成することが戦略的にも求められています。

 留学生の受け入れを実施・推進するにあたって、特に肝要なことは、留学生が安心して勉学に取り組める環境をすみやかに整備することにあり、具体的な項目として、授業料の負担額、奨学金制度の有無とその充実度、留学生宿舎の有無、留学生に対する医療費等の保障などがあげられます。

 この「留学生受け入れ10万人計画」の実現にあたっては、私立大学の貢献が大きく、達成された留学生の10万人のうちの約9割が私費留学生であり、その私費留学生の約7割のほとんどが日本語教育機関を経て、私立大学が受け入れています。

 このように私立大学に在籍する大半の私費留学生にとっての留学生活は非常に厳しい環境を強いられているのが現状であります。

 この厳しい現状を改善することが、これからの留学生問題の核心とならなければならないと思います。

 (京都外国語大学教授)


略歴

 かわぐち・えいいち 1943年、兵庫県生まれ。京都外国語大学卒。国立台湾大学修士課程修了。大阪市立大学大学院博士課程単位取得退学。専攻は中国現代語法と音韻学。主な著作・訳書に、「現代中国通俗読物選I」「現代中国通俗読物選II」(ともに朋友書店)、「到北京去」「到西安去」「到上海去」(いずれもKJA出版)がある。