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寄稿論文

16年目を迎えたPMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)

(指揮者サッシャ・ゲッツェル氏に聞く)

(2005年8月2日付)


世界の若手音楽家を育成

平和のメッセージを届けたい


 20世紀を代表する音楽家レナード・バーンスタインの提唱で1990年に札幌で創設された国際教育音楽祭『パシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)』。世界の若手音楽家を育成する演奏会が7月9日から今月4日の日程で繰り広げられている。ここでは、今年のPMFオーケストラ初公演を成功裏に終えた指揮者サッシャ・ゲッツェル氏へのインタビューを紹介する。(聞き手・野山智章記者)


 ――PMFはバーンスタインの音楽教育への熱意から生まれました。“創設の精神”について、どのような印象をもっていますか。

 世界各地から集まった人々が言語や宗教、来歴は異なっても音楽を通して世界を一つに結びつけることがPMFの精神だと思います。今年も24カ国からの芸術家が皆でエネルギーを共有し、新しい音楽を生み出そうとしています。

 ――ロンドンで同時多発テロ事件が起こり、国際社会は混乱しています。何らかのメッセージを発信しようと考えますか。

 音楽は、世界共通の言語であり、「愛の言葉」「平和の言葉」だと思います。音楽は、人々に怒りや否定的な感情を呼び起こすものではありません。人々は音楽を聴くことで自身を見つめることができます。演奏会に行くことは一つの旅にでるようなものです。音楽によって人類がつながり、平和的にお互いが出会える場です。とりわけ出身地にこだわらず皆が共同で音楽を作り上げるPMFは最もよい試みだと思います。

 <PMFのパシフィックは、太平洋であると共に平和を意味しており、音楽教育を通じて世界平和を希求したバーンスタインの願いがこめられている>

 ――初公演の曲目は、ベートーベンのヴァイオリン協奏曲とマーラーの交響曲第1番「巨人」でした。しばしばマーラーは「時代の疎外感を反映している」と評されますが。

 偉大な作曲家は様々な解釈をされるものですが、マーラーの曲は、彼自身を反映していると思います。すなわち、頭脳は冴えわたっているのに情緒は憂鬱である。彼の内面は分裂していて、多くの色彩と可能性をもっていました。私のマーラー解釈は、何よりも彼の思想面を忠実に表現することを重視しています。私は20世紀後期の生まれで、マーラーの生きた時代とは隔たっていますが、ステージ上で彼との共鳴(バイブレーション)を表現できればと思っています。

 ――音楽の分野でも世代交代が顕著です。PMFが21世紀の音楽界に豊かな果実をもたらす手ごたえを感じられていますか。

 PMFはこれまで15年間、バーンスタインの精神を受け継ぎながら活動を続けてきましたが、教育と演奏活動によって新しい世代の中に“縁”をつくっていく時期にきていると思います。私自身も(米国の教育音楽祭である)タングルウッド音楽祭に参加したことがありますが、PMFを世界でも著名な音楽祭にしていきたいですね。


略歴

 Sascha Goetzel ウィーン生まれ。オーストリアのグラーツ音楽大学卒。ズービン・メータ、リッカルド・ムーティ、小澤征爾など著名な指揮者から指導を受ける。フィンランドのシベリウス音楽院で学ぶ機会も得、指揮者活動に専念する決心を固める。近年、ウィーン国立歌劇場デビューを果たした。PMFオーケストラ・レジデント・コンダクター。

取材メモ

脈打つバーンスタインの精神

 1989年10月、ニューヨーク・国連本部で開催された「戦争と平和展」(創価学会インタナショナルなど主催)取材のため同地に滞在していた際、晩年のバーンスタイン(90年10月死去)が指揮するコープランドのクラリネット協奏曲を聴く機会があった。その折の若い独奏者を激励する姿が今も忘れがたい。彼はPMF創設にあたり、“残ったエネルギーと時間を教育に捧げたい”とスピーチしている。その深い思いは脈々と受け継がれている。