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(2005年7月19日付)
日本も国際協力体制を取る必要 |
ロンドンの爆破テロで犯人たちが北からの列車を降り、それぞれ別の地下鉄へと分散したキングズ・クロス駅は数年後にはパリからのユーロ・スターの終着地にもなる大きな駅である。私は当日ロンドンに滞在していたが、テレビニュースを見なければ、キングズ・クロスを通過する地下鉄に向かうところだった。今、駅前には花束の公園ができている。
ロンドンでのテロは、いくつかの教訓を与えている。
今回の事件で、自爆テロが、とうとう欧州をも襲ったことになるが、犯人たちには特徴がある。専門家たちによれば、彼らははっきりとした政治的目的を持つハマスやアイルランド過激派などとは違い、死によって天に到達すると信じており、こうした自爆テロリストとは交渉の余地はない。
犯人たちは、犠牲者を選択することもない。ロンドンでの爆破の被害者の中にはもちろんイスラム教徒もいた。一方、国際化が進むことにより、人の移動はますますたやすくなり、爆弾製造の知識や材料は簡単にインターネットで入手できる。
犯人が、こういった人々であること、そして犯行を可能にしている環境は特異なものではなく、日本も謳歌しているグローバライゼーションを利用していることは、残念ながらどこの国もまた誰であろうとテロの対象となることを認めざるをえない。
次に、犯人は非常に迅速に特定され、単なる爆弾テロではなく自爆であったこと、パキスタンで訓練を受けたことがすぐに判明した。また同時にこれまで何件もテロを防いできたことも改めて一般の市民の知るところとなった。
こういったことが可能であったのは、英国の警察や情報機関のMI5が国内での情報収集・分析をしていたからばかりではない。国際的な警察や治安部隊の相互の協力や情報交換が日ごろから行われ、いざという時にはすぐにこのネットワークや知識を利用できたからである。
今回、英国は異例といわれる程、迅速に国際的な協力を求めた。テロの直後、各国の警察や治安当局者、イスラム過激派テロの専門家の会合を開催したが、そこでの情報交換や分析は、犯人グループや支援組織の解明、捜査のあり方などに大きく貢献した。例えば自爆であることは、自爆現場を目撃した経験があれば、遺体の特徴などから判断できるという。
欧米はまた、イスラム過激派を対象としてより組織だった国際協力体制を築いている。CIAの資金で運営され、パリに本部を置く「アライアンス・ベース」は国境をまたいで動くテロリストを捕らえるために作られた組織で、米、英、仏、独、オーストラリア、カナダの専門家で構成されている。サウジアラビアで活動していたドイツ人ガンザルスキーの拘束など何件も成果を挙げている。
日本は、とかくこういった国際的な動きから遅れがちであり、また一方で日本ではこの種のテロは起こらないという考えもある。しかし無差別の犯行から完全に逃れられる国はない。日ごろから国際的な治安組織から情報を得ておくと同時に、そういった国際ネットワークに食い込んでおく必要がある。
また、ロンドン市はテロの準備態勢の良さで今回非常に高い評価を得た。これは特に9・11後、現実を直視した準備態勢を整えた成果である。大都市には人口の多さ、通信・交通網、大規模な金融活動といった大都市ゆえの弱点がある。万が一の場合の非常体制を整えておく必要がある。
ロンドンのシティーは築いていた非常体制を発動し、警察や病院は繰り返し行われていた訓練を実行したという。一般の市民も冷静で協力的であった。惨事をさらに大きくしないためにも、必要な態勢を整え、訓練をし、また市民にテロの実態を知らせ、覚悟と準備をしておく必要もある。
最後に、英国育ちの自爆テロリストの出現は、英国の法体制にも光を当てた。英国はアメリカでの同時多発テロ以前に既に欧州でも最も総合的と評価されるテロ対策法を制定していた。しかし一方で、言論の自由を重んじ、イスラム教徒以外の撲滅や自爆の推奨も含めた過激な発言にも寛容な態度を見せてきた。
他国では受け入れられない「政治亡命者」も受け入れてきた。思想や言論の自由を守りながらも社会に不満を抱く若者を過激な行動に導く人物やその言動をどこまで取り締まるかは、民主主義を尊重する国々の大きな課題である。
日本も言論の自由と、取り締まりのバランスを逸しないよう配慮しながら、機密保持にかかわる法律やテロリスト取り締りの法体制を整えなくてはならない。
(アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員)
略歴かせ・みき 東京生まれ。上智大学外国語学部卒。米国フレッチャー外交法律大学院修了。1978〜94年、東京銀行勤務。スタンフォード大学ワシントン校客員研究員を経て、現職。著書に『大統領宛 日本国首相の極秘ファイル』(毎日新聞社刊)がある。現在、西側同盟をテーマに日本、アメリカ、ヨーロッパで調査、インタビューを行っている。