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(2005年7月19日付)
光栄だった池田SGI会長の評価 |
欧州の共通歴史教科書について取材するため、その編集者であるフレデリック・ドゥルーシュ氏にインタビューを申し込んでいたところ、本欄6月14日付の関連記事掲載後、本人から直接電話をもらった。早速、記事のフランス語訳を送ったところ、パリで会う約束ができた。しかし、ロンドン同時多発テロ事件が起こり、氏が休暇先のフランス・カルバドス地方から急きょロンドンに戻らねばならなくなったため、13日、電話インタビューを行った。
(聞き手・満足圭江=東洋哲学研究所ヨーロッパ・センター研究員)
――初めに欧州共通教科書ができるまでの経緯をうかがいたいと思います。
この歴史教科書が、一国のためにつくられたと思われないように、私は、様々な国から14人の歴史家を集めてチームを結成しました。彼らは、これまでの偏見を捨てて、欧州の文化遺産を共有することに努めました。
もちろん、各国の歴史解釈が異なっているための困難もありましたが、最終的に、私たちは国家を超えた教科書をつくることができ、執筆者全員が教科書全体に書かれていることに同意しました。
作業の過程を説明しますと、この本は、初版では14章、再版では16章建てとなっています。各歴史家が1章ずつ執筆しました。しかし、各自が他の歴史家が書いた全章に目を通し、問題があると思ったら、訂正を提案します。その後は、歴史家同士の交渉となります。
この本の目的は、国家的な視点を廃して、正直に、どのように欧州が発展してきたのか、そして、欧州の基本的価値を明らかにすることです。1992年に初版が、そして98年、東欧の共産圏が崩壊した後に再版が出ましたが、その当時の欧州の歩みを示すことができたと思っています。
――作業中の困難は、歴史家同士の交渉にあったということですか?
例えば、執筆者チームにドイツの歴史家がいます。ドイツの近代史解釈と、戦争でドイツに負けた国との歴史解釈は同じではありません。ですから、私たちはできるだけ簡潔に説明するよう心がけました。
また、ナポレオンに、ほとんど1章を費やしました。ナポレオンが欧州を統一したのは、罪ではありません。反対に、彼は、知性、特に、教育、相互理解という武器を使い、民衆を結び付けようとしました。
第2次世界大戦後、欧州では、すべての国の元首が和解を進めるために最大限努力しました。ドイツは謝罪し、莫大な賠償金が、特に苦しんだユダヤ人やその他の人々に支払われました。また、フランス、英国など他の国の元首も反省した。ドイツ問題は、今では解決したといえるでしょう。
だからこそ、私は今、日本が、中国、韓国との和解に努力するかということにたいへん関心をもっています。教育によって、東アジア諸国の紛争が未然に防がれ、関係が改善されることを私は願っています。
――現在、ロシアだけで公式に使われているそうですね。
私たちが編纂した歴史教科書の目的は、民衆が、自国の視野だけではなく、広い欧州的視野を得るということです。残念ながら、この点については進歩していません。欧州のすべての国の教育省は極めて国家主義的です。
私がたいへん光栄に思ったのは、創価学会インタナショナル(SGI)の池田会長が、私たちの教科書について語られていることです。アジアでも同じような共通教科書をつくるように提言されています。なぜなら、教育、とくに歴史教育は、民衆を和解させる唯一の方法だからです。それによって自己を知り、偏見を克服することができます。
――あなた方の歴史教科書について池田会長が言及しているのを、どのようにして知りましたか?
友人がインターネットで私の名前を検索したら、池田会長の提言にヒットしました。2002年の平和提言です。たいへん興味深いものです。
<第27回SGI記念提言「人間主義――地球文明の夜明け」において、池田会長は、ドゥルーシュ氏編集の教科書を紹介しながら、「私はアジアにおいても、同様の挑戦が行われてしかるべきだと考えます。真摯に過去を見つめることは、真摯に未来と向き合うことと同義です。『対話』を軸に共通の歴史認識の土台を築く努力を積み重ねていくことは、アジアの平和を展望する上でも欠かせないと信じるものです」と述べている>
――あなたは、アジアでの共通教科書出版も企画されたとうかがいましたが?
8年ほど前、日本の出版社に、歴史学者の故・家永三郎氏(東京教育大学名誉教授)を中心に、北京大学歴史学部の教授やソウル大学教授など、数人の歴史学者を集めて共通教科書をつくることを提案しました。しかし、日本の出版社からの返事は、まだ機は熟してないし、複雑であり難しいというものでした。
最近でも日本の歴史教科書は、第2次世界大戦について反省が足りないところがあると思います。この問題は手付かずのまま残っています。ですから、今こそ、共通歴史教科書をアジアで出すべきです。共通教科書は和解のための資料です。
欧州でも、和解のために大変な努力が払われ、いろいろな分野で交流が行われました。私は、世界のほかの地域でもこのような和解があることを望んでいます。経済大国である日本も、未来のために和解に努力し、できることは、すべてやってみる必要があると思います。
略歴Frederic Delouche 英国生まれの65歳。英国、フランス、ノルウェーの国籍をもつ。ケンブリッジ大学法学部で学位を取得後、世界の金融・経済界で活躍する一方、2冊の欧州の共通歴史教科書の編纂・刊行を推進。特に、1992年に出版された『欧州の歴史』は、世界28カ国で翻訳され、数々の賞を受賞している。97年、欧州の教育に貢献した活動により、ドイツ連邦十字勲章を受章。
取材メモ不屈の信念で相互理解めざす
6月29日、ドゥルーシュ氏から初めてかかってきた電話は、開口一番、「日本人で私と同じように、アジアでの共通歴史教科書出版を提案している創価学会インタナショナルの池田会長をご存じですか」との質問から始まった。
そして13日のインタビュー電話では、やさしく、ていねいに語ってくれた氏の声に、どんな障害があろうともあきらめず、共通歴史教科書、すなわち教育という平和的手段で、世界の人々の相互理解と不戦のネットワークを築いていこうとする不屈の信念を感じた。