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寄稿論文

フレンドリー・ネットワークの社会を――日英の文化比較から

(エッセイスト・歌人の渡辺幸一氏に聞く)

(2005年6月7日付)


人に優しい仕組みをどう築くか

閉塞感を破る叡智が英国に


 大都市に高層ビルが林立し、デパートには高価な商品があふれる半面、わが子への虐待の増加、自殺者が7年連続3万人台という異常さの目立つ日本。新著『イギリスでは なぜ散歩が楽しいのか?――人にやさしい社会の叡智』(河出書房新社)の出版を機に、一時帰国したエッセイスト・歌人の渡辺幸一さんに、日本の現状について聞いた。


豊かさの中で増える自殺者

 ――渡英して15年。今回は1年半ぶりの帰国ですね。新著には「フレンドリー・ネットワーク」について書かれています。

 イギリス人は、環境や人にやさしいと言うとき、「フレンドリー」という言葉を使うのですが、イギリスの“人にやさしい社会”の仕組みや制度を、私は「フレンドリー・ネットワーク」と名付けました。社会的弱者を支え、助けるシステム(仕組み)が網の目のように張りめぐらされています。

 イギリスでは商店で注文したものがすぐにこないでイライラすることがあり、サービスは日本より10倍悪いのですが、人の命や生活にかかわることに関しては、とても一生懸命に取り組みます。

 ――例えば?

 ある障害児について問題が起きたとき、教育委員会、教師、社会福祉事務所、医師、心理医療士などに、すぐにその子の情報が渡り、親も含めて「ディスカッション(話し合い)しましょう」と集まってきます。実は、私の子どもが自閉症なのですが、その子をサポートしてくれるシステムがあり、何かあればすぐにそのシステムが動くことに驚かされました。

 ――著書では、日本には異常な現象が起き、閉塞感が漂っている、と。

 例えば、親がわが子を殺し、子どもが親を殺す事件が頻繁に起こっていること。もうひとつは、日本は物質的には世界でも驚くほど豊かな国ですが、自殺する人が、毎年3万人台。これは異常です。

 そして、この問題の取り上げ方が、国やメディアで十分でない。これもおかしい。自殺者の多くは中高年です。経済苦・生活苦がその主な原因といいます。豊かな国のはずなのに、なぜ自ら命を絶っていくのか? なぜ、自殺を防げないのか?

 その理由のひとつは、弱い人を支えるネットワークができていない、あるいは不十分だからではないかと思います。

他を尊重する多様な人生観

 ――日本人は周囲の人への配慮を持たない、とも指摘されていますね。

 今回帰国して、そうした人が増えていると感じました。

 かつて、日本人は周囲の人への気配りを大切にしていましたが、今は「自己防衛的」となり、自分の世界を築いて他をかえりみない人が増えています。

 繁華街を歩くと店の放送がうるさい。騒音です。けばけばしい看板と不揃いの建物と、所狭しと並んでいる自動販売機。人や環境へのやさしさ、配慮がありません。

 電車の乗降では身体がぶつかっても言葉を発しません。無表情です。どこでも携帯電話で辺り構わず話しています。周囲の迷惑を考えず、人のことに気持ちを働かせられない。社会全体が殺伐としているように感じます。

 ――著書では、イギリス人の個人主義にも触れていますが。

 イギリス人の個人主義は、自分自身の価値観を持ち、しかも他人の価値観を尊重する個人主義です。

 これに対して、日本人は「同質でなければならないという価値観」を持っているので、どうしても周りを見てしまう。そして、わずかな差を気にする。

 ――周囲の目を気にするのは、生きるための原理原則や価値観を持っていないからという指摘もあります。

 そう思いますね。規範がないため、周囲が気になる。そして、ともかく夢中になって頑張らないと仕事からはずされるとか、人に負けてしまうと思ってしまう。そこからは人や環境へのやさしさは生まれてきません。

 しかし、かつての日本には、周囲への気配りのあるやさしさがあったはずです。それを復興させる必要があります。イギリスの「フレンドリー・ネットワーク」のシステムや、そこに表れるイギリス人の多様な人生観は、日本の閉塞感の打破に、大いに参考になる、と私は考えています。(聞き手・藤原広記者)


略歴

 わたなべ・こういち 1950年、北九州市生まれ。北九州市立大学外国語学部卒業。90年、ロンドンに移住。以来、ロンドンの金融街シティに勤務。現在、英系銀行財務アナリスト。渡英後、文筆活動を開始、93年、朝日歌壇賞、95年、角川短歌賞受賞。著書に『ロンドン金融街で学んだ イギリス式仕事と人生の絶妙な知恵』(河出書房新社)など。