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(2005年5月31日付)
平和条約締結へ最大限の努力を |
江戸末期の1855年、伊豆下田において日露通交条約が結ばれた。日ロ間で初めて調印されたこの条約によって、両国は国境を定め、正式に国交を開始した。難しい交渉の末、条約をまとめた両国の全権代表プチャーチン提督、川路聖謨勘定奉行は、未来の両国関係にどのような想いをはせ、調印に臨んだのであろうか。
本年は同条約締結より数えて150年にあたるが、両国はこの1世紀半の間、日露戦争、シベリア出兵、第2次世界大戦と戦争を繰り返し、大戦後60年が過ぎた今日においても、領土問題は未解決のままであり、日ロ間には平和条約すら存在しない。
筆者も、日本の各地で日ロ経済交流の現状の話をする際、シベリアに抑留された方々の思いを聞くことは少なくなく、また、ロシアへ出張中、日本からの墓参団、遺骨収集の方々にお会いすることも多く、日ロ関係の複雑さを実感する。
一方、日ロ間の貿易経済関係は常に停滞していたわけではない。大戦後、1956年に日ソ国交回復共同宣言が締結され、翌年に通商条約および貿易支払協定が調印されて以降、日ソ貿易は毎年ほぼ一貫して増大し、日本はソ連の最重要貿易相手国の一つとなった。未解決の領土問題の存在にもかかわらず貿易が伸びたことは、両国経済関係が相互補完的であったことに他ならない。
しかし、91年末にソ連が崩壊した後、日本にとって新生ロシアとの新たな貿易経済関係の確立は決して平坦な道ではなかった。
国の制度が根本的に変わり、経済が混乱するロシアにとって、日本が主な輸出品とした機械設備、鉄鋼などの資本財は必要とされず、加えて、ソ連時代末期に成約した輸出代金が未払いのままとなり、両国経済関係は一気に冷え込んだ。89年に輸出入各30億ドル、総額60億ドルを数えた日ソ貿易は、ロシアの時代になって大幅に落ち込み、特に日本の対ロ輸出は99年には4億8000万ドルとピーク時の6分の1以下になった。
幸い、近年こうした状況にようやく変化が見られるようになった。その背景には、ソ連崩壊後10余年を経て、ようやくロシア経済が成長軌道に乗ったことがある。国際的にもロシアは、ブラジル、インド、中国と共にBRICsと呼ばれ、高成長が見込まれる国として評価されはじめている。日本でもロシア市場に対する関心が急速に高まり、昨年の日ロ貿易は過去最高額の88億ドルに達した。
貿易以外に、直接投資の分野でも両国関係の著しい活性化が見られる。4月末にはトヨタ自動車のロシア進出が正式に発表され、日ロ両国で大きな話題を呼んだ。150億円を投資してサンクトペテルブルクに工場を建設し、2007年内に年間2万台の生産を目指すという計画である。
エネルギー関連では、日本企業が参画し、1兆円を超える投資規模を誇る石油ガス開発プロジェクトであるサハリンIIが順調に進んでおり、日本への石油の輸出が始まっている。
4月にサハリン島の南端に位置するコルサコフ(旧・大泊)に近いプリゴロドノエの天然ガス液化プラントの建設現場を視察したが、現在4000人、ピーク時には6000人が働くという巨大な現場であった。北海道よりも広いサハリン州の人口が60万足らずであることを考えれば、人口1%に相当する人の新たな職場が生まれたことになり、その経済効果は計り知れない。
昨年末にロシア政府が正式に承認した太平洋パイプラインプロジェクトは、今後の日ロ経済交流の大きな柱になると思われる。同計画は、東シベリアのタイシェトから太平洋に出口を持つ沿海地方のペレボズナヤまで4200キロに及ぶ石油輸出パイプラインを建設するというものである。
やはり4月にペレボズナヤを訪れたが、こちらはまだ何もない静かな寒村で、同計画の実現までには紆余曲折があり、相応の年月が必要であろうことを予見させる風景であった。しかし、石油輸入の9割以上を中東地域に依存する我が国にとって、同計画は、サハリンプロジェクトに比肩しうる重要な対ロ協力案件になるであろう。
一方、最近になって、成功裏に事業を進めてきた既存の日ロ合弁企業に、税務問題や民営化に伴うトラブルが噴出している。ロシア側は、法に基づく解決を強調するが、こうした動きは、日本企業にとって、対ロ進出を躊躇させる新たな懸念材料になっている。
日露通交条約第1条には「今より後両国末永く真実懇にして」との一文がある。150年前の両国先人の想いを汲んで、信頼と相互利益に基づく新時代の日ロ関係構築のため、両国関係者は、今こそ最大限の努力をすべきであり、その条件は十分に整っている。
(ロシア東欧貿易会ロシア東欧経済研究所次長)
略歴おかだ・くにお 1986年、創価大学大学院文学研究科社会学専攻博士前期課程修了。在学中に南フロリダ大学、モスクワ大学留学。86年、ソ連東欧貿易会調査部研究員、91〜96年、同主任・調査役、96〜2001年、同モスクワ事務所長、01年より現職。著書に『ロシア・CIS経済ハンドブック』(全日出版)など。