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寄稿論文

サウジアラビアのマスコミ

(ジャパンタイムズ記者・大門小百合)

(2005年5月24日付)


王立キング・ファイサルセンターに研究滞在して

欧米メディア報道とかけ離れた実情


9・11テロで悪化したイメージ

 先日、私はサウジアラビアから帰国した。王立研究所であるキング・ファイサルセンターに研究員として夫とともに招かれ、首都リヤドに今年3月から約1カ月間、滞在していたからである。

 サウジアラビアはイスラム教国の中でもワッハーブと言われる派で、もっとも戒律が厳しいと言われている。夫婦以外は男性と女性は公共の場で同じ場所に座ることもできないし、女性の行動はとりわけ制限されている。女性はアバヤという黒いガウンのようなもので全身を隠さなければならず、女性の一人歩き、車の運転は禁止されている。

 この国のイメージは2001年の9・11の米東部同時多発テロ後、欧米を中心としたメディアによって悪化し、テロリスト国家、女性の人権を無視している国というレッテルが貼られるようになった。

 しかし、今回の滞在で、私はこの国の実態が欧米の報道とかけ離れていると感じたことが多かった。それは欧米だけでなく、欧米のメディアを通じてかなりの情報を得ている日本のメディアにもいえるようだ。

 あるサウジアラビア女性は、インターネット新聞を創刊し、日本人記者の取材を受けた。しかし、この記者がまず彼女に聞いたのは、「1日に何回あなたはご主人に殴られるのですか」という実態に全くあっていない質問だったという。

 この女性の夫は彼女のよき理解者だったので、このような質問が出てきたことに彼女はショックを受けたという。外国人のメイドが虐待を受けたとか、家庭内暴力の事件が報じられないわけではないが、それが日常茶飯事のようにとらえられるのはおかしい。

社会の各分野で女性が活躍

 女性はすでに社会の様々な場面で活躍しはじめていて、企業経営者、医者、新聞記者などその職種も多様である。首都リヤドだけでも女性が経営している企業数は商工会議所登録ベースで3500以上に達しており、登録されていない小さな商店などをあわせるとかなりの数になっていると見られる。

 また、最近、建国以来初の地方評議会選挙が行われたが、改革の争点の一つとして欧米メディアに報じられたのが、女性が運転できるようになるかということであった。しかし、多くの女性たちは、改革すべきことは生活面の向上や選挙権を女性に与えるなど他にたくさんあり、運転問題はそれほど重要ではないと言う。むしろ、交通事故にあいたくないとか、タイヤがパンクした時に自分で交換したくないので、男性に運転してもらった方がよいという女性も多かった。

 アメリカのアフガニスタン攻撃の際、女性のブルカ(体を覆う衣装)の問題が大きく取り上げられたように、運転問題はそのわかりやすさゆえに、欧米のソフトターゲットになったのではないかと思われるが、必ずしも実態を反映していない。

 では、欧米のメディアが伝えきれていないところをサウジアラビアのマスコミは伝えているのだろうか。報道の自由はどの程度制限されているのか。

 マスコミには依然タブーがあリ、王族サウド家については、批判的な記事は見られない。厳しいイスラム教の戒律ゆえに、女性の肌を露出する写真等は禁止され、ビキニ姿の女性などはご法度だ。

衛星放送で改革の機運も

 しかし、規制も少しずつ変わりつつあるという。新聞社や学者で作るサウジアラビアメディア協会の人によると、最近はイスラム教学者たちについて批判的な意見も紙面上でみられるようになり、女性問題、改革や外交についても積極的に議論されるようになったという。今まで対米関係はとても緊密なものだったので、アメリカ批判も避けられてきたが、9・11以降アメリカに批判的な記事も目立つようになったという。情報の受け手側の環境も過去10年で大きく変わった。

 1991年の湾岸戦争で、この国の人々は初めてCNN、アルジャジーラをみることができるようになり、衛星テレビ時代が幕をあけた。衛星放送は建前は禁止とされているにもかかわらず、2、3万円で受信装置をとりつけることができるので、多くの家庭に普及している。受信装置を持つ家庭では、エジプト、レバノン、ヨーロッパの放送など外国の放送を含めた250以上のチャンネルが見られ、保守的な思想に凝り固まっていた世論も影響されつつある。

 確かに法整備ではかなり遅れている面もあるが、サウジアラビアの女性が抑圧の中で生きているというのは必ずしもあてはまらず、この国の多くのマイナスイメージは慎重に語られるべきである。また、それらがそのまま日本にも浸透しているところを見ると日本メディア側の怠慢もあったのかもしれないと思う。

 しかし、その一方で、欧米メディアの報道や衛星放送の影響により、サウジアラビア社会では改革が声高に叫ばれはじめていることも事実だ。良くも悪くも、メディアが社会変革に大きく影響していることを実感させられた1カ月であった。

 (ジャパンタイムズ記者)


略歴

 だいもん・さゆり 上智大学外国語学部卒。ジャパンタイムズに入社後、国会、首相官邸、財務省、自動車など産業界を担当し、現在、報道部次長。2000年8月から1年間、米国ハーバード大学ニーマン特別研究員。05年3月から1カ月、サウジアラビアのキング・ファイサルセンターでサウジアラビア女性について研究。