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(2005年5月10日付)
日米同盟を弱体化させるとの懸念も |
ブッシュ政権の対日政策の窓口であった前国務副長官リチャード・アーミテージが、日本の「東アジア共同体」への参加にさかんに異議を唱えている。日本の主要紙とのインタビューなどでも自説を主張しているが、最もまとまった意見が日本の月刊誌「Wedge」5月号に寄稿された。
「東アジア共同体への参加は国益になるのか」という、そのものズバリのタイトルで、東アジア共同体への動きに関して、「日本がこの動きに同調することの実益はほとんどない」と主張する。
ライス国務長官やクリストファー・ヒル国務次官補(東アジア太平洋担当)など、現役のブッシュ政権高官も折に触れ、東アジア共同体構想、とくに米国やオーストラリアなどが排除されかねない経済の地域統合への懸念を表明するようになった。
昨年11月、ラオスの首都ビエンチャンで開かれたASEANプラス3(東南アジア諸国連合と日中韓3国)で、本年末にマレーシアで初の「東アジア首脳会議」を開くことを決め、東アジアの経済統合への流れを打ち出したことが、米国の懸念を呼び起こすことになったようだ。
この問題、展開次第では、将来の日本にとって、極めて死活的な問題となりかねない。日本は米国との同盟関係により自国の安全保障を確保しており、米国との同盟抜きの安全保障政策は現時点ではまったく政策オプションとして考えられない。
一方で、東アジア域内での経済統合は急速に進み、東アジアの米国への経済依存度は低下してきている。日本においても、2004年の貿易統計において、最大の貿易相手国が、これまでの米国(貿易総額20兆4800億円)から中国(22兆2000億円)となったことは、記憶に新しい。つまり、アジアの経済統合から除外された日本経済というのも、政策オプション上、考えられないというジレンマがある。
アーミテージ氏が懸念するのは、東アジア共同体への究極的な中国の意図である。彼は「東アジア首脳会議」の構想について、東アジア地域という参加資格にばかりこだわる一方で、会議の目的に関しては空白であることを指摘する。
そしてこの構想は、これまでの成功してきた同盟関係や、多国間の枠組みを成功に導いてきた共通の利益から出発するという要素に背を向けるものであり、地域から米国の影響力を排除したり、日米同盟を弱体化させようとする意図が見受けられると指摘する。中国の最終的な意図がわからない現在、日米が同盟関係を弱体化させる事態は避けねばならないと喝破する。
安全保障論上は、アーミテージ氏の考えは極めて正当であり、日本はアジアの経済統合のために、米国との同盟関係を犠牲にするわけにはいかない。しかし、よく考えれば、アジアの経済統合と日米の同盟関係をゼロサム関係にしてしまう問題の設定は不毛のシナリオである。
そもそも、現在の東アジアの経済繁栄を支えているのが、米国のミリタリープレゼンス(軍事的な展開)と同盟関係による安定的な地域環境である。また日中と同様に米中の経済相互依存関係は、両国の利益にかなっている。
日本としては、現在の東アジア首脳会議のイニシアチブを握る中国とマレーシアなどに対して、以下のような点を確認していかなければならない。
米国はともかく、なぜオーストラリアやインドなどの隣接するアジア国家の参加を排除する方向を打ち出しているのか。そして、最終的には東アジア共同体が外に向かって開かれた組織であることを、どのようにして担保していくのか。
そして日本は重要なパートナーである中国と韓国に対して、将来の東アジア共同体がどこに向かい、米国や欧州との関係をどうしたいのかという本質的な議論を形成する責任があろう。現在、難しい課題を抱えている日中と日韓だからこそ、このような将来を見据えた課題を話し合うことで、共通の利益を再確認していく良い機会となる。
さらには、東アジア共同体は、不透明な将来の中国のコースを、経済の相互依存関係でよい方向に誘導する枠組みともなろう。しかし、完結した軍事力を持たない日本が、核兵器を持つ巨大な中国を誘導する作業は荷が重過ぎる。どうしても利益を共有するパートナーが必要となる。
そこで日本の当面の課題は、東アジアサミットへの参加国の枠組みに関して、アジアの一員として積極的な動きをみせるオーストラリア、ニュージーランド、アジアの民主大国インドの参加を確保していくことで、排他的でない経済的共同体の担保を確保するよう働きかけることとなるだろう。
特にイラクに派兵し、米国の同盟国として重みを増してきているオーストラリアの参加を、日本の譲れない一線と設定しておくべきではないだろうか。米国のオブザーバー参加も一つの妥協点となろう。
東アジアの域内の経済が活発化することも、米国や南米、ヨーロッパとの経済関係が担保されてこそ大きな利益になる。アジアの経済ブロックに対抗してNAFTA(北米自由貿易協定)やEU(ヨーロッパ連合)が閉じてブロック化していくという戦前の悪夢を繰り返すわけにはいかない。
(三井物産戦略研究所 主任研究員)
略歴わたなべ・つねお 1963年、福島県生まれ。東北大学歯学部卒。米国ニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチで政治学修士号を取得。首都ワシントンの有力シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)日本部上級研究員を経て現職。アジアの安全保障と日本政治の研究に携わる。