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寄稿論文

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新聞労連 スタートした報道被害相談窓口

小林 亨
(新聞労連委員長代行)

(1998年3月28日付)



侵害された人権を回復するシステムの確立へ

昨年、採択した「良心宣言」の具体策第1弾

読者の信頼を取り戻したい

 読者のもとに毎朝確実に届く新聞が、読まれないベストセラーといわれて久しい。新聞産業で働く私たちは、この悲しい現実を何とか「打破」したいと思っている。

 読者の信頼を回復するために、何をなすべきか。新聞ジャーナリズムの強化を運動の柱にしている新聞労連(日本新聞労働組合連合、八十七単組、四万人)は今月十三日、新聞報道による被害の実態を把握するための「報道被害相談窓口」(報道被害ホットライン)を開設した。

 新聞界がこのような相談窓口を設けるのは初めてで、報道各社からの問い合わせが相次ぎ関心を呼んでいる。各新聞社とも独自に読者の苦情などを受け付ける読者相談室のようなものを持っているが、その対応や情報公開など決して十分な組織とはいえないようだ。

 新聞労連は昨年二月、私たちの行動指針ともいうべき倫理綱領「新聞人の良心宣言」を採択。新聞人として、日々、どのようなことに気を付けながら新聞制作に携わればいいかを具体的に提起した。相談窓口の開設は、良心宣言の具体策第一弾と定義している。

 私は一昨年九月から、宇都宮―東京を新幹線で通勤しているが、車内ではほとんど一般紙が読まれていない。スポーツ紙や経済専門紙を読んでいる乗客は何人か必ず見掛ける。新聞協会の新聞の信頼度調査でも、新聞の信頼は極端に落ちている結果をも考え合わせると暗澹(あんたん)たる気持ちになる。

 約一時間(宇都宮―東京間)の通勤の間、政治経済、社会、国際、文化、スポーツの速報から解説や企画などの情報が、スタンド売り百十円の新聞で、得られるはずなのに。

現状を理想に近づける努力

 読者の信頼を失っている責任は、送り手である私たちの側にある。松本サリン事件で第一通報者を容疑者扱いし続ける姿勢に猛省はみられず、神戸の小学生連続殺傷事件では容疑者捜しに血道を上げ誤報を繰り返した。

 また最近の例を挙げれば今年一月、栃木県内で起きた中学生による教諭刺殺事件では、被疑者の生徒に対して、教育関係者がいう「普通の生徒でした」とのコメントをそのまま記事にしたり、見出しにとって「普通の生徒」の特異性を強調した。

 少年事件が起こると「何故、あの子が……」「目立たない普通の生徒だった」という校長などの発言を待ってましたとばかりに飛びつく新聞記者。新聞社側に固定観念が出来上がってしまっているような気がしてならない。事実とは何か、読者に何を伝えるべきかの基本的な視点を見失っているのではないか。

 そこで新聞産業で働く私たち自身が自助努力を誓い、実践する以外に読者からの信頼回復は有り得ないとの結論に至った。その一つの到達点が「新聞人の良心宣言」だ。

 言論・報道の自由を守り、市民の知る権利にこたえるために「権力・圧力からの独立」や署名記事を推進する「市民への責任」など、私たちが今なすべきことを十項目にわたって明記した。現実離れした理想論すぎるとの批判もあったが、私たちは現実に甘んじることなく現状を理想に近付けるべきだとの思いも込めた。

 相談窓口は、報道被害に遭った本人かその家族からのファクスもしくは文書で受け付ける。

 最初は明らかな報道被害が判明した場合には、当該新聞社に対して謝罪文の掲載を求める措置をとることも考えていたが、「何の権限もない新聞労連がそこまでできるのか。謝罪文掲載の要求は報道評議会などの組織が行うべきだろう」「掲載を拒否された場合はどうするのか……」などもっともな意見が出た。

ペンの横暴には警鐘ならす

 一方、「単に聞き置くだけでは、相談者に対し無責任すぎる。勧告などを出し労連の姿勢を示さない限り意味がない」などの相談窓口の本来あるべき姿を明確にすべきだとの声もあった。

 日本の新聞報道の中で、どのような報道被害が生まれているかの実態調査をこそ優先させ、一日も早く行うべきだとの認識は共通していた。そこで、新聞社側への謝罪文の要求や勧告は行わないことにし、相談者に対してはこの趣旨を最初に説明し理解を求めることにした。

 手探りの状態での相談窓口開設に当たっては、相矛盾する二つの悩みがあった。

 一つは開設後、相談が全くこない場合の想定である。これでは、開設の意義そのものが問われることになる。現状から考えて、報道被害が存在しないとは有り得ないからだ。

 もう一つは相談が殺到し、対応ができなくなってしまうこと。相談数が多いために対応できないとはいえないため、専従スタッフを張り付けることなども想定した。

 実際の相談は十日間で数件だったが、いずれも深刻なものだ。相談者と連絡をとり、問題の記事を送ってもらうことから始まり、相談者がどのようなことを求めているのかを尋ねる。当たり前のことを一つ一つ確実に実行するしかないという思いを改めて強くした。

 今後は相談者のプライバシーを尊重しながら、とりあえず件数や相談の概略などを機関紙などで定期的に掲載し、警鐘としていきたい。

 報道被害は本来あってはならない。しかし報道被害を完全になくすことは至難である。そこで報道被害を出さないことを究極の目的としながら、万一、報道被害を出した時にはその人の人権をでき得る限り回復するシステムが必要である。そのためにも弁護士や学者、ジャーナリスト、市民の代表などからなる報道被害者の救済システムを確立したい。今後の大きな課題である。

(新聞労連委員長代行)


相談窓口の運営基準/ファクス、手紙などで受け付け

 一、相談者は、原則として被害を受けた本人またはその家族。

 一、個人の名誉、信用、プライバシーなど権利侵害に関するものに限る。法人および団体の相談は受け付けない。

 一、原則として新聞労連加盟の労組がある新聞社の日刊紙、もしくは通信社による配信記事で報道されたもの。

 一、受け付けは、ファクスまたは手紙など書面で行う。

 ◎手紙の送り先 〒101―0061 東京都千代田区三崎町三ノ五ノ六 造船会館五階 新聞労連「報道被害相談窓口」

 ◎ファクス番号 〇三―五二七五―〇三五九番



略歴 こばやし・とおる  一九五六年生まれ。法政大学卒。八一年四月、下野新聞社に入社し、報道、整理部門に携わる。九六年九月から新聞労連副委員長、九八年一月から現職。