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寄稿論文

メディアのページ



日本マス・コミュニケーション学会の半世紀

田村穣生
(創価大学教授)

(1998年3月14日付)



発足時の問題意識 「民主主義」には健全な世論形成が必要

ジャーナリズム論の焦点は人権問題に

テレビ、週刊誌の登場で状況激変

 日本マス・コミュニケーション学会は、およそ半世紀前の一九五一年に日本新聞学会として発足した。のち一九九一年に現在の名称に改称したが、ジャーナリズムとマス・コミュニケーションを研究する者の集まる学会であることに変わりはない。

 発足当時の主要な問題意識は「民主主義」であり、そのためには健全な世論が形成されなければならず、それはジャーナリズムおよびマス・コミュニケーションによるところが大きい、という認識が研究者のみでなく社会一般に共通していた。これは現在も基本的に同じである。

 しかしメディアの構造は大きく変わった。学会発足当時のマスメディア界は新聞がその代表的な存在で、そのほかは出版と映画であり、ラジオはやっと民間放送が始まる段階であった。そして、その後まもなくテレビと出版社系週刊誌が登場したことによって、日本のマスメディア状況は激変した。特にテレビの影響は大きかった。国民の生活を変え、高度経済成長を側面から支援し、他のメディアに深刻な影響を与えた。

 その後さまざまな新しいメディアが登場し、研究者やメディア業界もいろいろな刺激を受ける。しかもそれら新しいメディアの多くがテレビの縁辺に位置するものであったために、テレビの巨大なインパクトを連想して、先物買いふうなブームが巻き起こった。

 たとえば七〇年代半ばの「有線都市論」は第一次CATVブームのことだが、これが双方向性をもち、地域単位の狭いエリアに適していることから、テレビ研究者と地域研究者が注目した。しかしオイルショックとともにブームはいったん消える。

90年代後半はマルチメディアがブーム

 代わって八〇年代後半、こんどは「ニューメディア」ブームが起こった。CATV、ビデオカセット、キャプテン、文字放送、衛星などの実用化が実現し、これらがまたもテレビ周辺のメディアであったためにふたたび「新しいテレビ」「テレビを超えるメディア」への期待感が先走りした。この時活動したのは、テレビ関係者、マスコミ関係者のほか、ニュービジネスに意欲的な総合商社であった。

 そしていま、九〇年代後半はマルチメディアブームである。コンピューターとデジタル通信回線を組み合わせた新しいメディアシステムに対しては、多くの人々が「新しいメディア状況による新しい社会状況の発生」を予想している。これに関心を示しているのは、日常業務への適用を考える各種企業・組織を除くと、マスコミ・商社のほか通信系・コンピューター系から思想家・文化人まで広がっているのが特徴である。

 当然のことながら、当学会の研究者の中にもこれら新しいメディアの研究に取り組んだ人は少なくない。ただし研究として取り組む場合には「メディアやコミュニケーションの社会的役割」という視点が根底にあり、そして、事実を収集・分析・抽象化して、一般化・法則化を目指す、という方法上の原則があるから、研究成果はビジネス論や現場体験談とは異なるものであった。

他領域の専門家や市民の提言・批判求む

 試みにマス・コミュニケーション研究の分野をおおまかに整理すると、まず、送り手↓情報↓受け手、という流れのステップに対応して横に切ると、「メディア研究」(送り手研究)、「メッセージ研究」(情報そのものの研究)、「受け手研究」という分野がある。

 また、このようなステップで切らずに機能領域ごとに縦に見ると、たとえば「ジャーナリズム」「広告」「娯楽」などのさまざまな視点がある。そしてこれらすべてにかかわる「歴史」「文化」「ジェンダー(男女の社会的な性区分)」などの分野もある。

 最近の学会の研究動向を概観すると、「受け手研究」は新・旧いずれのメディアにも適用可能で、若者論などにも結びつけやすいために相変わらず活発である。「ジャーナリズム論」は常に問題が存在するので途切れることはなく、最近はとくに人権問題が多く取り上げられている。

 「ジェンダー」の問題は、一時期、問題提起としての意味もあって多くの研究発表があったが、最近は発表件数が少ない。しかしこの分野は人間の意識と社会システム全般にかかわるものであるから、研究者たちは新しい展開を目指しているものと思われる。

 「メッセージ研究」では記事や番組の一般的分析は少ないが、人権や差別に敏感になってきている。「メディア研究」は研究方法が確立されているとはいいがたいが、衛星デジタル放送など現実問題が山積していて、それを追いかけている状況にある。

 自己反省も含めて筆者の個人的な感想を言えば、日本のマス・コミュニケーション研究はまだまだ空白領域も多いし詰めの甘さも目立つ。他領域の専門家や一般市民からも提言や批判をいただきながら、更に発展させなければならないと考えている。

(創価大学教授)



略歴 たむら・みのる  一九三九年高知県生まれ。東京大学文学部卒業。専門はマスコミ産業論・マスメディア史。NHK放送文化研究所主任研究員を経て九二年から現職。日本マス・コミュニケーション学会企画委員長。共編著に『メディアと情報のマトリックス』、共著に『テレビ史ハンドブック』がある。