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寄稿論文

新任のシーファー米国大使のこと

(米パシフィック・リサーチ・インスティチュート所長・高濱 賛)

(2005年2月8日付)


日米首脳主導外交のキーパーソン(鍵を握る人物)

「同盟国には大統領の分身がいればいい」



キーワードは「忠誠心と実績」

 新駐日米大使にトーマス・シーファー前駐オーストラリア大使(57)が指名された。2月中に上院で承認されれば、3月にも東京に着任する。従来の感覚からすると、新大使が知日派でもなければ、大物政治家でもないことに違和感を感ずる向きもないではない。その点では、東アジア・太平洋担当の国務次官補に中欧専門家のクリストファー・ヒル前駐韓大使(5カ月半しか駐在していない)の人事に首をかしげるものもいる。

 ブッシュ大統領は、テロとの戦い、イラクの民主化、社会保障改革などを第2期政権の内外政の主要課題にすえ、閣僚人事でも「大統領への忠誠」と「政策の継続性・実績」を重視した布陣をしいた。実は、ホワイトハウス、国務省、ペンタゴンの主要ポスト人事でもこの二つのキーワード、「忠誠」「実績」が貫かれている。そうした脈絡でみていくと、ヒル次官補やシーファー大使を起用した理由が浮き彫りになってくる。

 ともに2001年の東部同時多発テロの報を任地で知り、ブッシュ政権がテロとの戦いを旗頭にアフガニスタン戦争を経て、イラク戦争に突入する中で、この二人は大統領の意を体して頑張った。両大使とも任地の政府を動かしてポーランドからは2350人、オーストラリアからは920人の兵隊をそれぞれイラクに派遣させた。

 もともと、ヒル氏は、ユーゴ和平交渉では抜群の外交交渉能力を発揮した。その能力を北朝鮮との交渉で発揮してほしいとの期待が大統領にあることは言うまでもない。シーファー大使も同じだ。オーストラリア世論は当初イラク戦争に反対、軍隊派遣には批判的だった。シーファー大使は、そうした状況下でハワード首相との親密な関係を軸にして、オーストラリア軍の派遣を実現させた。

日米豪韓こそアジア安定の礎

 新大使は生粋のテキサス人。シーファー家は代々、民主党だ。といってもテキサス民主党は保守派が多く、同氏の政治信条はブッシュ大統領と全く同じだ。テキサス大学在学中から州知事の秘書をするなど政治には強い関心を持っていた。大学院では国際関係論を専攻、25歳で州下院議員となり、3期務めている。その後、企業弁護士として辣腕ぶりを発揮、45歳の時にテキサス・レンジャーズ球団の共同出資者となり、ブッシュ氏と親交を深めた。

 1994年、ブッシュ氏が知事に選ばれて球団経営から手を引いたあともシーファー氏は社長として残り、レンジャーズの黄金時代を築き上げた。その経営能力は大リーグでも一、二といわれた。地元の教育活動や慈善事業にも熱心だ。

 民間人大使といえば、大統領選で候補者に多額の政治資金を出した見返りで大使になるケースが少なくない。

 ところが、シーファー大使の場合、ブッシュ陣営に寄付した資金は2000ドル、共和党、民主党双方に2000ドルずつ出している。カネで大使を買ったとはとても思えない。

 その新大使の外交スタンスは、一言で言えば、「アジア・太平洋の平和と安定は、アメリカと日本、オーストラリア、韓国の同盟国が緊密な関係を堅持し、協力関係を強化して初めて保たれる」(2003年7月10日の豪ナショナル・プレス・クラブでの演説)という基本姿勢に尽きる。それだけに北朝鮮に対しては手厳しい。

 「北朝鮮という『ならず者国家』は、頼りにしていたソ連が崩壊したのち、財政上、危機的状況に陥り、外交官がポルノを売り、輸出禁止の象牙を持ち出し、偽札を作り、ヘロインを売り、ミサイルや核技術を売りさばいている。国家というよりもマフィアまがいの無法者集団としか言いようがない」(同)

 当然、日本人拉致問題には同情的だし、日本国内に高まる対北朝鮮経済制裁にはもろ手を挙げて賛成する可能性大だ。

実質的には大統領特使の常駐

 着任を前に、日本国内には、「いくら大統領に近いとはいえ、日米関係の複雑さや日本人の機微には疎いのではないのか」といった懸念があることも確かだ。

 これに対して、ある米国務省高官はこう反論する。「今の駐日米大使館の公使らトップはすべて日本語が堪能、日本のことを知り尽くしているプロの外交官たちだ。シーファー大使は彼らが集めた豊富な情報を吸い上げ、大統領に報告し、大統領の意向を直々に聞いて、それを日本政府に伝える。いわば大統領特使が常駐するようなものだ」

 確かに今の駐日米国大使館は、その意味では、史上最高のスタッフとさえいわれている。べーカー大使を補佐してきたマイク・ミチャラク特命全権公使やデイビッド・ストラウブ政治担当公使らは日本各地の総領事を経験した日本通ばかり。

 シーファー新大使が、かつてモンデール大使(当時)がエド・リンカーン博士を特別補佐官にしたように、「補佐官ポスト」を置くかどうかは定かでないが、いずれにせよ、現体制でも新大使を補佐する体制は十分整っている。

 気心の知れたアーミテージ国務副長官やケリー次官補が辞任したことから外務省には「2期目の日米関係は、政権から知日派が去ったため首脳主導外交に傾斜しそうだ」との見方も出ている。

 だが、だとすれば、なおさらのこと、今後の日米関係が円滑に進むか否かは、「シーファー大統領特使」の双肩にかかってくるとみていいだろう。

 (米パシフィック・リサーチ・インスティチュート所長)

略歴

 たかはま・たとう 1941年、東京都生まれ。米カリフォルニア大学(バークレイ校)卒。67年、読売新聞社入社。ワシントン特派員、政治部次長等を歴任。95、97年、母校のジャーナリズム大学院客員教授。99年から現職。著書に『日本の戦争責任とは何か』『アメリカ教科書の中の日本』『捏造と盗作』など。