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寄稿論文

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米国の女性記者達
――ハンディをバネに成功勝ち取った先駆者/栗木千恵子――

栗木千恵子
(作家・ジャーナリスト)

(1997年10月18日付)



働く女性の進出、女性読者の増大が後押し

今、百花繚乱の観(ホワイトハウス記者会も約半数占める)/門戸開いたのはベトナム戦争以後

歴代大統領取材した最古参記者も

 拙著『ニュースペーパーウーマン』の取材でニューヨーク、ワシントンDC、シカゴ、ボストン、アトランタ、フロリダ、ロサンジェルスのアメリカ人の新聞記者、ジャーナリズムの教授等、百三十名以上を取材した。そのほとんどが女性記者であった。

 執筆を終えて改めて驚いたのは、女性記者の進出は比較的新しく、ベトナム戦争以後のことであるという事実だった。もっと正確に言うと、ベトナム戦争が女性記者に戦場取材の門戸を開き、やる気のある女性達にチャンスを与えたのである。歴史の皮肉であるが、宣戦布告なきベトナム戦争は、戦争特派員の資格を取得するのが容易であったためである。ベトナム以前は女性記者達は、新聞社の幹部との「戦場へ派遣されるための闘い」に勝利しなければならなかった。そしてほとんどが敗北したのであった。

 ベトナムの例を引くまでもなく、現在第一線の女性記者達は全員、女性であるハンディをバネにして成功を勝ち取ったベテラン揃いである。ルーズベルトからクリントン大統領までアメリカの歴代大統領を取材し続けた最古参、サラ・マクレンドンは八十五歳を超えてもなお意気軒昂に、毎日執筆に励んでいる。ホワイトハウス記者会初の女性会長、UPI通信の同支局長へレン・トマスも同様である。現在七十七歳。男性でも大統領の一期四年が限度という激務の大統領番を、すでにケネディの就任時から続けている。

日々、過酷な競争と地位向上へ努力

 『ニューズウィーク』のリサーチャーから、『ボストン・グローブ』紙を本拠に、新聞記者の最終の目標といわれる全米にコラムが配信されるシンジケート・コラムニストにまで登り詰めたエレン・グッドマンも、男性記者が取材したがらない女性解放運動(ウーマン・リブ)を情熱を込めて取材し、現在の地位の足掛かりを作った。グッドマンの成功には女性読者の熱烈な支持があった。新聞社にグッドマン賛同の投書が殺到した。熱心な女性読者はグローブ紙の配達されていない地方の友人にもグッドマンの記事の切り抜きを送り、それが全国配信のコラムニストへの華麗なる転身への糸口となった。

 全米一の犯罪報道記者『マイアミ・ヘラルド』紙のエドナ・ブキャナンのきっかけも、誰もなりてのいなかったサツ回りを引き受けたことにある。その後五千件もの変死、殺人事件を報道し、アメリカジャーナリズムの最高の名誉であるピューリッツァー賞を受賞するとは、彼女も含めて誰も予想できなかった。機会が少なかったこの世代の女性記者はどんなつまらないチャンスにも飛び付き、着実に実績をあげていった。

 彼女達にとってはいくら地位が上がっても、毎日記事を書くことが新聞記者の証なのである。この点でアメリカでは男性、女性の区別はない。逆に言えば記事を書かない記者はどんどん脱落していくという、アメリカのジャーナリズムの過酷な競争の一端を垣間見る思いがした。

 こうしたベテラン記者達には、後続の女性記者を思いやる温かさを感じた。男女の賃金格差をなくそうと、自分のキャリアをなげうって、かの『ニューヨーク・タイムズ』と裁判で闘ったべッツィ・ウエイドの勇気は、特筆に値する。べッツィはタイムズ初の女性外報部デスクに抜擢され、その後タイムズの特ダネ「ペンタゴン・ペーパーズ(ベトナム機密文書)」の副デスクを務めた才能の持ち主。しかし裁判の原告となったため、以後閑職に回され、輝かしいキャリアの幕を閉じた。

 べッツィの同僚でピューリッツァー賞を受賞したナン・ロバートソンは、最近入社するタイムズの女性記者達は捨て石になったべッツィの健闘も知らずに、男性記者と同等の給料を貰えるのは自分に才能があるからと錯覚していると、現在の風潮を嘆いている。

薄れる助け合い、連帯の良き伝統

 たしかに女性記者の進出は目覚ましい。働く女性の進出は、同じく働く女性でもある女性記者達の機会を広げていった。経済、政治記事にも「女性の視点」が不可欠になったためである。また新聞の読者に女性が急増し、各新聞社はこぞって「ライフスタイル」、「ウーマン・ニュース」、「ウーマン・トゥディ」等の女性欄を拡充し、こうした傾向が女性記者の起用に拍車をかけた。従来男性の分野とされる政治コラムにも女性が大活躍し、まさに百花繚乱の観がある。日本の首相官邸記者会に当たるホワイトハウス記者会でも、定例記者会見に出席する記者の半分は女性である。

 アメリカを代表するコロンビア大学やノースウェスタン大学のジャーナリズム大学院で学ぶ学生の半数以上を、女性が占めている。元気な女性達は「数」の問題はすでにクリアし、現在は「質」、つまり性別でなく、個人の資質、能力により評価される時代を実現させた。と同時によき伝統であった女性同士の連帯、助け合いが薄れて、自分のキャリアにのみ関心が集中している感を否めない。そんな風潮をいささか寂しく思うのは、部外者の勝手な感傷であろうか。

(作家、ジャーナリスト)



略歴 くりき・ちえこ 1949年愛知県生まれ。ボストン大学ジャーナリズム学科卒。元『シカゴ・トリビューン』東京支局記者。現代アメリカが主なテーマ。著書に『ニュースペーパーウーマン』『ケネディの遺産』(ともに中央公論社)がある。