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寄稿論文

北朝鮮の実情と日本マスコミの問題点

(アジアプレス大阪オフィス代表・石丸次郎氏に聞く)

(2002年11月12日付)


民衆の状況に視点を

排外、差別あおる傾向に憤り



 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は“情報鎖国”体制にあり、内情は厚いベールに覆われている。ここでは、1993年から北朝鮮関連取材を始め、国内取材3回、中国との国境地帯への取材27回、北朝鮮難民・越境者へのインタビュー400人以上に及ぶジャーナリストの石丸次郎氏に、北朝鮮の最新事情と日本のマスコミ報道の問題点を聞いた。(野山智章論説委員)


20数年間も固定化された社会構造

 ――9月の日朝首脳会談以降、北朝鮮は変わりつつあると見ていますか?

 ここ20数年、北朝鮮の社会構造は全く変化していない。金正日指導部は変化を望まないだけでなく、変化することが自分たちの体制の終わりであることをよく知っています。どうすれば変化しないでいられるかが彼らの中で優先順位の高いものになっています。

 今回、日朝交渉で拉致を認めたり、10月の米国ケリー特使訪朝で核開発騒動が出てきたり、一部地域(新義州)の開放を発表したのも、絶対に変わりたくないから、限定的・部分的な変化でごまかそうとしていると見るべきでしょう。そして、自分たちが変わらずに経済を再生させるためには、もう日本と交渉し経済援助を引き出すしかなかったというのが大枠です。

「今の報道は在日に対する暴力」

 ――昨今の北朝鮮報道は、拉致問題だけがクローズアップされていて、国際問題と隣人の窮状への視点が欠けています。

 当然、拉致被害者の家族は北朝鮮が憎い。腹が立つし、悲しいし……。でも、メディアがそうした感情を一方的に垂れ流すのは問題です。特に民放テレビは商業主義がひどすぎる。視聴率がとれるので、朝・昼・夕方・夜と拉致報道を流し、蜜にたかる蟻のように節操なくやっている。ジャーナリズム性の放棄というか、報道倫理が決壊している気がして仕方がない。

 私は、あちこちで書いているが、北朝鮮が「民主化と開放」に進まない限り、東アジアの安定はないし、拉致問題の根本解決はあり得ない。在日朝鮮人にとっても、祖国に自由に往来することも身内に会うこともできない。ましてや、北朝鮮の中にいる普通の人たちは奴隷状態が続くばかりです。

 残念なことですが、日本社会には、朝鮮人に対する差別意識と排外意識が根強くある。今のマスコミに強調したいのは、気をつけないと、北朝鮮批判がそのまま排外主義に吸収されたり、差別主義に転化したりする危険性です。その自覚がメディア側に全くないことが、本当に腹立たしい。

 1948年の済州島蜂起事件の史実に関する大作『火山島』を書いた、金石範さんという在日一世の作家がいます。彼は「拉致事件はもちろん、大ショックだったけれども、今の報道は在日に対する暴力だ」という言い方をされています。現実に今月6日、愛知の朝鮮総連のシャッターが落書きされ、ガラスが割られた事件がありました。これはテロです。テロの脅威にさらされているという気持ちにあるわけですよね。

東アジア全体を考えた外交政策に

 ――常々、「(北朝鮮の)民衆救済第一を念頭に」と提言されています。具体的に日本政府は何をすべきか。

 日朝交渉もそうだし、拉致騒動もそうですけれども、北朝鮮に住んでいる民衆に対する視点がまったくない。その原因は、北朝鮮の民衆の置かれている状況が見えないからなんです。

 日本の政治家には、大局的な、本当に歴史の節目にあるという自覚を持って働いてもらいたい。北朝鮮の民衆にとっても利益となる日朝交渉であるべきです。明治維新以来、日本は善かれ悪しかれ「俺たちが東アジアのリーダー」として行動してきた歴史があります。最後は(第二次大戦の敗戦という)最悪の結果でしたけれども……。

 アメリカ・韓国とは協議をしなければいけないでしょうが、長期的な視野に立ち、しかも日朝二国間ではなく東アジア全体の利益を考えて、対朝鮮政策をやってほしいと思うんです。


略歴

 いしまる・じろう 1962年、大阪府生まれ。同志社大卒業後、韓国・延世大学等に留学。現在、アジアプレス大阪オフィス代表(ishimaru@asiapress.org)。近著に『北のサラムたち』(インフォバーン)、『北朝鮮難民』(講談社現代新書)など。