![]()
(2002年11月12日付)
人権を守る自主規制制度の確立を目指して |
法律によるメディア規制を防ぎ、取材・報道される側の人権を擁護するための活動に携わる欧州各国代表でつくる欧州独立報道評議会連合(AIPCE)の第4回年次総会が10月17日から19日まで地中海にあるマルタ共和国で開かれた。
総会には16カ国から約30人が参加し、各国にある報道評議会、報道苦情委員会などを軸とするメディア責任制度について意見交換した。同制度をもつ国々だけではなく、アイルランド、スペインなど新たに制度の設立を模索している国々からも参加があった。
日本で1985年7月から「日本にも報道評議会を」をスローガンにして活動してきた「人権と報道・連絡会」を代表して私と、同志社大学大学院文学研究科新聞学専攻博士後期課程の寺田琴美氏(ヘルシンキ大学留学中)が正式メンバーとして迎えられた。
参加者は、首都バレッタの大統領宮殿でグイド・デマルコ大統領と約1時間会見した。法学者でもある大統領は「報道の自由は重要だが、私人に関する犯罪報道などでは、被疑者の公正な裁判を受ける権利を侵害し、個人のプライバシーを侵害している。メディアを法律で規制するのは危険であり、市民参加の自主規制機関が重要だ」と強調した。
第4回年次総会ではまず、各国代表が過去1年間の活動状況を報告した。各国とも報道被害の苦情が増え続けており、制度は市民の間で定着しているという。特にノルウェーでは、主要新聞が毎日、報道評議会の連絡先を紙面の目に付くところに掲載しているため報道評議会の知名度は抜群だという。
スウェーデンでは、今年から雑誌発行者協会がメディア責任制度を運営する共同委員会に入り、同協会代表が報道評議会メンバーに加わり、制度がさらに強固になった。旧ソ連から独立したバルト3国など多くの国で、報道評議会結成の動きが見られる。
英国の報道苦情委員会委員長代行のボブ・ピンカー教授は、メージャー前首相(保守党)と元女性閣僚との婚外恋愛が大きく報道されたことを例に挙げて、公人のプライバシーをメディアはどこまで報道すべきかを論じた。
これについて、パリ大学のクラウド・ジャン・バートランド名誉教授が、「二人の関係のこと細かな描写まで新聞社が報道したのは不適切だ」と指摘した。
また、スイス報道評議会の代表は「公人のプライバシーをどう報道するかも重要だが、捜査対象になった一般市民などの名誉・プライバシーをどう擁護するかが、メディア責任制度の要だ」と述べた。
一方、スウェーデンのプレス・オンブズマン、ウーレ・ステンホルム氏は、夕刊タブロイド紙「エクスプレッセン」が医療機関に従事する専門家を対象にした倫理審判委員会によって叱責された医師、歯科医の計80人の姓名、倫理違反の内容などを一覧表のようにして掲載したケースを報告。報道評議会は「倫理委員会の警告処分はすべて同委員会のホームページにおいて公開されており、報道したことは問題ない」と判断したと述べた。
また、スウェーデンでは今年10月1日の規約改正で、新聞社が持っているウェブサイト上の記事(チャットも含む)の名誉毀損・プライバシー侵害を苦情の対象とした。
「日本にはなぜ報道評議会ができないのか」と多くの参加者に聞かれた。私はその理由として、(1)新聞産業が経営的に順調であり大胆な改革の必要性を認めない(2)左翼政党に強い影響を受けている労働組合や学者の多くが、あらゆる規制に反対という立場をとっている――などを挙げた。
人権と報道・連絡会は11月2日、埼玉・大学生刺殺事件の被害者の父・猪野憲一さん、松本サリン事件被害者の河野義行さんらを招いて「報道被害とメディア規制」をテーマにシンポジウムを開催した。
マスコミの人権侵害を口実にしたメディア規制法案が国会に上程されている中で開かれた重要な集会だったが、マスコミは行事欄への掲載もせず、記者は一人も取材に来なかった。世界各地で報道評議会が市民の支持を得て活動していることを知らせないのは「報道しない犯罪」だと思う。
(同志社大学教授)
*AIPCEが中心になってつくった世界の報道評議会のホームページはhttp://www.presscouncils.org