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寄稿論文

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リポート 台湾・新聞評議委員会を訪ねて
――アジアでも先進的なメディア責任制度――

柳原 滋雄
(ジャーナリスト)

(1997年6月21日付)



1963年英国をモデルに発足、記者研修も行う

発行者側、記者組合が一体で構成

 今年四月、台湾の報道評議会を取材した。正式名称は「中華民国新聞評議委員会」。メディア規制の厳しい一九六三年、その前身としての組織がイギリスの報道評議会をモデルにつくられた。アジアでこうした組織を持つ国は少ない。

 台湾の新聞は政府による新規発行規制から、ずっと三十一紙に制限されてきた。だが、戒厳令(かいげんれい)解除に伴う一九八八年からの新聞の自由化によって、十年間に十一倍の三百六十一紙まで急増した(今年一月末)。そのため、急速な過当競争の結果、センセーショナル主義によるプライバシーの侵害といった問題を引き起こしている。

 最近の白冰冰(はく・ひょうひょう)さん誘拐事件は、事件発生を一部の報道機関が報道し、結果的に殺害という結末を招いた。母親は「マスコミ報道によって殺された」と訴えた。報道協定がない台湾メディア界では、事件をきっかけに、報道協定の必要性についての論議も起こり始めている。

 そうしたなか、台湾新聞評議委員会の活動も活発化している。委員会は台北市新聞業組合、台湾省新聞事業協会、記者組合など、経営・労組双方の民間八団体で構成される。八団体が支出する年間予算は八百四十万元(約三千八百万円)。事務局は頼国州秘書長(八八年に就任)以下十四人で、全員有給。

守られない「裁定文」掲載の義務

 同委員会では、裁判に似た仕組みをとり、裁定を行っている。委員会は新聞学者や法律家など十一人で構成。任期は三年。月に一度集まって、裁定のための話し合いを持つ。

 牟嘉俐・副秘書長によると、申立ては月十数件の割合。昨年だけで約百件を受理した。提出者には、報道されて百八十日以内の提出、書面での提出理由の明記、身分証明書の添付などのルールが義務づけられる。受理後は一、二回の審理のあと「裁定文」が下される。

 私が訪れたときは、セクハラを受けた被害者の女性が実名入りで報道され、その報道を見た別の一般の男性が申立てを行った件の裁定がおりたばかりだった(裁定文別掲)。

 裁定文は、構成八団体で可決された中華民国新聞評議委員会組織規約十三条により、各メディアとも報道する義務を有するとされるが、現実にはほとんど守られていない。

 その理由として、『聯合晩報』のデスクである羅國俊さん(39)は「委員会に現役記者は一人も入っていない。また裁定の過程にもメディアは疑問を抱いている」と説明する。そのせいか、「ないよりはいいが、効果が上がっているともいえない。理論的には正しくても、技術的には困難が伴う」(李明水・景文工商専科学校教授)といった意見も出る。

日本マスコミ界には学ぶべき点多い

 一方で、台湾テレビの周傳久記者(34)は「確かにこの制度に法的強制力はありませんが、それでも裁定文のなかで自分の会社が譴(けん)責され、『新聞評議』(委員会が発行する月刊誌)で公開されるのは名誉なことではありません。イメージの悪化を避けたいので一定の効果はあげています」と評価する。

 中国文化大学新聞学部で講師を務める蕭素翆さん(38)は「裁判は台湾でも時間がかかるので、一般人にはとりにくい手段。その意味で評議委の役割は重要だが、将来は効果も上がってくるだろう」と予測する。

 評議委では別に、「傑出新聞人」という奨学金制度を設け、各社からジャーナリストを毎年四、五人選び、半年ほどの海外研究をサポートする活動も行っている。地上波テレビに「新聞橋」という番組を設け、一般民衆に対して委員会のPR活動も行う。

 新聞評議委とは別に、九五年、「台湾新聞記者協会」という組織も生まれた。こちらは現職の報道関係者が主体で、九六年に独自の「新聞倫理公約」を採択し、公約の違反申立てを審議する規律委員会も今年発足させた。発足して日が浅く、加盟記者数も全体の一部にすぎないため可能性は未知数である。

 ともあれ、台湾メディアに未成熟な面があることは否めないが、台湾にメディア責任制度が早くから存在することも事実で、そうした仕組みを持たない日本にとって学ぶべき点は少なくないと思われる。

(ジャーナリスト)

●裁定文
 本件に関し、当会は詳細かつ慎重なる分析検討を加えたる末、被告発者(当該新聞社)が行いしところの報道は、容疑者の窃盗行為及び強姦未遂の経緯を詳細にわたり描述し、ならびに被害者の姓名を記載したるものであり、いずれにおいてもニュースの道徳規範にもとるものなりと認定し、以て本件の成立を裁定す。


略歴 やなぎはら・しげお 一九六五年佐賀県生まれ。早稲田大学卒。雑誌記者。政党機関紙記者を経て、フリーに。著書に『カンボジアPKO体験記』。