![]()

(2000年12月26日付)
|
犯罪被害者や地域住民が報道の暴力を告発 京都・小2殺害や神戸・児童殺傷事件を検証 |
市民グループ「人権と報道関西の会」と新聞やテレビなどの労働者で作る「関西マスコミ文化情報労組会議(関西MIC)」共催の第十三回シンポジウム「今、報道を考える」が十二月二日、大阪市北区南森町で開かれ、約八十人が参加しました。
「犯罪被害者や地域に見る報道被害」をテーマに、一年前に発生した京都の小二殺害事件や一九九七年の神戸・児童殺傷事件などで報道被害にあった人、取材にあたった記者ら四人のパネリストが、実態を赤裸々に語り、今の報道の問題について話し合いました。
まず、京都の事件の被害者が通った小学校のPTA会長を務める岸本英孝さんは、「取材合戦は、特に遺族の心を踏みにじった。葬儀の際にテレビのリポーターが『お棺の中を写させてほしい』なんて取材に来た。これは、今のマスコミの体質を露呈(ろてい)させている。私たちは、逃走している犯人よりも、そんな態度の記者たちが百人以上も、連日歩き回っている方が怖かった」と、当時の取材のひどさを証言してくれました。
神戸の事件でも、洪水のような取材が展開されたそうです。
殺された小学生の遺族の代理人を務めた弁護士の井関勇司さんは、「遺族の自宅マンションは連日包囲された状態で、インターホンは鳴りっぱなし。遺体が見つかった時には、『悲しみに暮れる遺族』という写真を撮りたがった報道陣が、外出しようとする車の前にたちふさがり、車をストップさせるほどだった。隣の棟の建物からもカメラで狙われたので、カーテンすら開けることができなかった。遺族は当然、子どもの遺体を自宅に連れて帰ってあげたかったのだけれど、そのような取材攻勢の中で、願いはかなえられなかった」と、代理人になってから遺族から聞かされた当時の惨状を語っていました。
一方、取材する側として、京都新聞・社会報道部長代理の桑原毅さんもパネリストとして参加してくれました。京都の事件ではデスクとして一線記者を指揮し、住宅地図を拡大コピーして全家庭を取材したこと。容疑者を小学生から二十一歳までと設定し、逮捕された時のために該当する周辺の少年らの卒業アルバムなどを片っ端から集めたことなど、報道の舞台裏を披露。
これに対しては、パネリストや会場から「なぜマスコミは、犯人探しに血道をあげるのか」との批判が向けられました。ただ、このような報道問題のシンポを開いた場合、マスコミ側に参加を求めても、ほとんど拒否されます。ですから今回のシンポでも、「この場に出てくれた桑原さんはむしろ、少数派の良心的記者だ」と、称(たた)える意見が他のパネリストから出されました。
そして桑原さんは、「駆け出し記者の頃、先輩から『私たちは、読者の代わりに警察取材をしている』と説かれ、私も後輩に同じように言ってきた。だから、ある程度の取材は許されると考えるのだが、今やその後ろ楯(だて)となる市民が引いていってしまっているのを感じる。『読者の代わりに』といつまで言っていられるのか、危機感も持つようになってきた。取材における不躾(ぶしつけ)な行動は、かつて諌(いさ)められたものだ。『火事場でタバコを吸うな』『殺しの現場で笑うな』などと。それらは徹底されていたはずなのに、今日では取材手法への批判が広がっているのが、残念でならない」と、自戒の言葉も語っていました。
四人目のパネリスト、同志社大教授(メディア論)の渡辺武達さんは、「そもそもマスコミという世界では、長時間労働が強(し)いられていて、『言論の自由』などという大切な教育がなされていない。『言論の自由』というのは、対権力を想定したものなのに、それを理解していない記者が新聞を作っている。そんな体質の新聞やテレビに、自浄作用など働くはずがない」と、非常に厳しい語調で、現在のメディアの実態を分析していました。
そして、「メディア・リテラシーという言葉がある。それは『メディアを市民がどう使いこなすか』ということだ。私たち世論が積極的にマスコミに自浄を働きかけていくことが不可欠だ」と述べ、市民の手によって今の報道被害をなくしていける可能性を訴えました。
岸本さんは、さまざまな報道の行き過ぎを指摘。現に京都の事件でも、当初は近くの中学校に犯人がいると見こまれたため、そういう視点で取材が繰り広げられました。そしてその中学校の生徒たちは、現在も心に痛みを抱えたまま。中学校長は「子どもらの心の傷を、一体どうしたらいいのだろうか」と、今も悩まされているそうです。
そのように、報道のひどさを強調した岸本さんでしたが、一方で「最後に、今日一番言いたい事で結びたい。今、報道規制の動きがある。本当に権力によって規制がなされるのなら、困るのは私たち国民だ。私たちは、国会や権力についての情報を詳しく必要とするからだ。そのような権力側からの規制を防ぐためにも、メディア側は自らのルール作りをする必要がある」とも述べられました。
その言葉の通り、メディアに対しては権力側から報道規制の動きが具体化しています。市民からの批判と権力からの規制にはさまれたメディアは今こそ、自律的に自主規制できる機関「報道評議会」を作ることが急務であり、私たち「人権と報道」の活動でそれを促していきたいと思っています。ぜひ、この活動に多くの市民の方々がご参加くださることをお願いして、報告を終わります。
(「人権と報道関西の会」世話人)
新刊紹介 『マスコミがやってきた!』
私ども「人権と報道関西の会」(事務局=電話06−6366−4147)では今月、『マスコミがやってきた! 取材・報道被害から子ども・地域を守る』(現代人文社刊、176ページ、本体価格1700円)を出版しました。第一部ではシンポにもあった京都の事件の報道被害をルポ、第二部で会員の新聞記者、弁護士が報道対策マニュアルを提起しています。多くの学校や地域で、役に立てていただければ幸いです。