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(2000年12月12日付)
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「独立した人権救済機関」が焦点 マスコミの人権侵害も限定的に対象と |
「報道の自由の重要性にかんがみ、まずメディア側の自主規制による対応がはから れるべきだが、犯罪被害者、被疑者・被告人、少年の被疑者・被告人およびその家族 らに対するプライバシー侵害や過剰な取材等、当人が自らの人権を守ることが困難な 場合は積極的に救済するべき」――
政府の人権擁護推進審議会はさる十一月二十八日、新たな人権救済制度に関する 「中間取りまとめ」で、このように「独立した人権救済機関」が、マスコミによる人 権侵害も限定的に対象とする方向を示した。
同審議会が検討している人権救済機関は「一定の強制力を伴う調査権限」を持つた め、プライバシー侵害等の名目で権力批判などの報道へも行政が不当に介入し得ると して、報道機関や多くの専門家らは、報道被害を救済の対象から外すよう要望してい た。
しかし中間報告では、積極的に救済をはかるのは冒頭に述べたような状況に限定 し、誤報による名誉毀損なども「報道内容の真偽や取材内容について(行政機関が) 調査することは報道の自由との関係で相当でない」としている。救済の方法は調停、 仲裁、勧告・公表、訴訟援助となっている。
結論から言えば、かなり報道の自由に配慮していると言える。例えば、「でたらめ の報道で名誉を傷つけられた」といった苦情を取り扱うならば、報道がでたらめかど うかを判断せねばならず、ジャーナリストの活動が規制されたり、情報提供者を明か すことを迫られる。そうなれば、せっかく権力の不正を報道しようとしても、それが できなくなるだけでなく内部告発者なども怖(こわ)くて情報を提供できなくなって しまう。
今回の報告は、そうした調査は「相当でない」と、明言している。一方、いわゆる 「東電OL殺人事件」で、被害者のヌード写真が掲載されたような、明らかに「公共 の利益」や「知る権利」とは縁がなく、しかもいったん掲載されてしまっては、後か ら謝罪や訂正、反論で被害を回復しようのないものについては、マスコミ側の自律が 期待できないならば、何らかの措置は必用である。怒れる報道被害者に向かって「報 道の自由を守るため黙って犠牲になってください」とは言えないからだ。
しかし、実際にこの機関が動き出してから、どのように運用されるかはまだ分から ない。
例えば、梓澤和幸弁護士は朝日新聞で、「過剰な取材」も救済対象にしていること から「何が過剰取材かの定義もなく、権力犯罪を暴露する時の抑圧機構として働きか ねない」と懸念を表明しているが、そういう可能性も否定できないだろう。
救済の方法も、具体的にはまだよく分からない。ただし、仮に森首相の過去の犯罪 歴報道や中川前官房長官の国会虚偽答弁および捜査情報漏洩(ろうえい)の疑惑報道 について、この機関が圧力をかけてきても、報道機関にはペンという最大の武器があ るはずだ。紙面や番組で徹底的に権力の言論弾圧を批判し、調査へ協力を迫られれば 断ればよい。情報提供者との約束は逮捕されても守ればよい。
最近上映された映画「インサイダー」でアル・パチーノ演ずるプロデューサーは、 そうして内部告発者の信頼を得ていたではないか。それでも権力者の圧力にはかなわ ないというのなら、もとより市民の知る権利のための報道の自由などなかったのだろ うから、議論の前提は異なってしまう。もしマスコミが普段、市民への弱いものいじ めをしていなければ、世論は報道機関が権力と闘う時、全面的に味方してくれるはず である。
だからこそ報道評議会のような、自主的に倫理をチェックし誤って人を傷付けた時 には自ら被害を救済する制度が必用なのだ。さらに、これを機会に、一般市民を「こ んな悪いのがいました」と言わんばかりに叩(たた)く報道スタイルはやめ、胸をは って「報道の自由は一切制約を受けない」と読者・視聴者に応援を求められるジャー ナリズムを追求して欲しい。
ところで、本稿でもこの人権救済制度について、報道の問題を中心に述べたが、同 制度は、マイノリティーに対する差別的措置や、学校でのいじめなども含めた虐待、 刑務所や入国管理施設などでの虐待など、あらゆる人権侵害の救済を目的としてい る。
特に日本は国際連合の人権委員会からも警察や入管当局による処遇を調査、救済す る独立機関の設置を一九九八年に勧告されているが、中間報告でとりわけ気になる点 は組織の「独立性」である。組織は「法務省人権擁護局の改組も視野に入れて」整備 するとしているが、法務省が中心となった組織が、同じ法務省の機関である入国管理 局による外国人の虐待などを厳しく告発、追及できるだろうか。
これまでマスコミは報道規制の問題ばかりを論じてきた感があるが、こうした問題 を厳しい目で監視、批判しなくてはならない。
(ジャパンタイムズ記者)
略歴 あさくら・たくや 1971年、福岡県生まれ。97年、同志社大学大学院アメリ カ研究科にて修士号取得。日本新聞協会職員を経て99年より現職。著書に『アメリ カの報道評議会とマスコミ倫理:米国ジャーナリズムの選択』(現代人文社)がある。