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寄稿論文

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米国の世界戦略の頭脳 フレッチャー外交大学院

フレッチャー法律外交大学院修士課程在籍
久村俊美

(2000年12月5日付)



専門家の“生の声”聞く多彩な機会

国際問題に対する包括的な理解が可能に



元・国連事務次長の明石康氏も卒業生

 ボストンにあるフレッチャースクール(The Fletcher School of Law and Diplomacy)は、一九三三年に開学し、「国際関 係の大学院」としてアメリカで最も長い歴史を持つ。国際社会を担う実務家を育てる ことを建学精神として設立され、現在は約三百五十人の学生が世界四十六カ国から集 っている。卒業生には、元国連事務次長の明石康氏をはじめ、ビル・リチャードソン 米国エネルギー長官など、多彩なリーダーを輩出してきた。

 一言に国際関係に携わる実務家と言っても国際社会の緊密化に伴い、国際外交の実 際は千差万別のアクター(主体)によって行われている。ゆえに、近年、学問の高度 な専門化とともに、国際関係論という学問の存在意義が問われて久しい。冷戦の終結 を経て、激動する国際社会に対応する国際関係論とは一体何であろうか? 以下は、 ここフレッチャーで学ぶ大学院生としての一考察である。

 第一に、アメリカにおいて国際関係を学ぶ意義は大きい。日本では遠くに感じた国 際問題を身近に感じることができる。それは、『ニューヨーク・タイムズ』等のメデ ィアによる国際報道の充実や多様性だけによるものではない。特にここボストンで は、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学等多くの高等教育機関が林立してお り、諸問題に関する政策議論の醸成(じょうせい)の場となっている。

 また、フレッチャーとケネディスクール(The Kennedy School of Government)やロースクール(法律大学院)そしてビジネススク ール等は協定が結ばれており、授業の履修(りしゅう)、単位の互換が許可されてい る。他大学の学生との交流ともあいまって、専攻分野に応じてさらに視野を広げられ るという恵まれた環境にある。

単なる分析でなく、実際の紛争解決に重点

 毎日の講演会や討論会は枚挙に暇がなく、今日はアルバニアの前首相で、明日はタ リバーンのスポークスマンといった感じだ。学生も授業の外でより多くを学べること を熟知しており、試験期間中であっても積極的に参加する人が多い。これら講演会で はその分野を専門に学ぶ研究者や学生からの鋭い質問が飛び、講演者と学生が一体と なった活発な議論が行われる。

 このような教える側と学ぶ側の相互作用がもたらす生きた教育が、世界中からの研 究者や留学生がボストンに集う大きな要因となっているのだと思う。

 第二に、国際関係論は、理論とケーススタディからなるが、そこから得られた知識 は現実問題に用いられなければ意味がない。前述のように国際政治の専門家から生の 声を聞くことが出来るチャンスに恵まれている環境は、理論と具体的な個々の問題に ついてのフィードバックができるという意味で有利である。

 ちなみに私は、国際公法を学んでいるのだが、試験は、“もし、あなたが国務省の 法律顧問だとしたら?”といった出だしで始まる。単なる客観分析ではなく、現実に 存在する問題解決のために、授業から得た理論や知識を生かして、いかにクリアで説 得力ある議論ができるかどうかに重点がおかれる。

 最近フレッチャーで開催された安全保障政策プログラムの一環であるシミュレーシ ョンでは、五年後のナイジェリアでの国内紛争勃発(ぼっぱつ)を想定した模擬外交 が行われた。

 例えば、石油価格の高騰(こうとう)を考慮に入れたりと、極めて現実に即した緻 密な設定がなされる。各国政府、EU(欧州連合)、OPEC(石油輸出国機構)、 国連やNGO(非政府組織)、そして国内反乱グループに分けられ、ペンタゴンのO Bがシミュレーションの管制塔として参加していたのもフレッチャーならではだ。教 授も学生も週末返上で、分刻みで変わる架空の情勢に、緊迫した雰囲気のなか真剣に 取り組んでいた。

 反乱グループの外交セクションの一員として参加した私は、反政府の立場から、例 えばアメリカの干渉を避けるためにどのアクターにどのようなアプローチを図ればよ いか等を主に検討した。参加学生の中には、ナイジェリアからの留学生や現役の外交 官など様々で学ぶことは多い。

期待される冷戦後、社会への日本の貢献

 第三に、国際関係論の目的は、国際平和のために国際問題を正しく把握し、正しい 軌道へ持っていくことであると考える。そのためには、政治、経済、法律に留まら ず、その国の歴史や文化という包括的な理解が要求される。

 私自身、イスラエルのパレスチナ自治区、北アイルランドでの長期にわたる紛争の 実情を垣間見てその必要性を実感した。ワシントンDCのアメリカン大学やハーグの 国際法アカデミーでの短期修習を経て、フレッチャーでの勉強を思い立ったわけだ が、これらの断片的な知見をフレッチャーでのトレーニングはさらに包括的なものに してくれるだろう。

 ともあれ、冷戦後の国際社会における日本の貢献が期待されている。そのために は、多様な視野と徹底した議論形成、そして行動力がキーワードであろう。英語によ る発言力を含めて、やはり国内に留まっていては難しい。

 グローバリゼーションの波にのり、超大国として自国のスタンダードをもって世界 をリードするアメリカの動向を憂慮する声も聞かれるが、徹底した議論に基づく研ぎ 澄まされた政策理論にはやはり学ぶことが多いというのが、ここでの私の感想であ る。

 (フレッチャー法律外交大学院修士課程在籍)




略歴  ひさむら・としみ 一九七四年長崎県生まれ。創価大学法学部卒業。専攻は国際 法。現在、タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士課程在籍中。北アイルランド 問題、パレスチナ問題に関心がある。