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寄稿論文

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マスコミ被害に関するさまざまな動き

ジャーナリスト
山口正紀

(2000年11月28日付)



自民党、政府、日弁連に法規制論

批判されるべきは“無策”の報道界



 昨年とは一変した日弁連の方針

 報道による人権侵害に対して、活字メディアも対象に含めて何らかの法的規制をか けようとする動きが、ますます強まっている。

 昨年八月、自民党の「報道と人権等のあり方に関する検討会」(谷川和穂座長) は、「メディアが自主的に規制しないなら、法的規制もやむなし」との趣旨の報告書 を出した。

 今年八月には、政府が「個人情報保護基本法制に関する大綱案」を発表、その規制 対象に報道機関も含める方針を明らかにした。

 さらに、法務省の人権擁護推進審議会も、報道被害も対象に含めた強制調査権を持 つ人権救済機関の設置を検討しており、きょう二十八日、「中間とりまとめ」を発表 する。

 こうした中、これまで一貫して権力による報道規制に反対し、「報道評議会」の設 置を提唱してきた日本弁護士連合会が、公的機関による報道規制につながる方針を打 ち出した。

 十月六〜七日に開かれた日弁連人権擁護岐阜大会は、「政府から独立した調査権限 のある人権機関の設置を求める宣言」を採択したが、この「人権機関」が取り扱う人 権侵害の中に「マスコミによるプライバシーや名誉侵害」を含めることを明記したの だ。

 タイトルには「政府から独立した」とあるが、宣言はこの「人権機関」を(1)法 定の調査権限を有し(2)委員の任命は両議院の同意を得て、内閣が行い(3)経費 は独立して国の予算に計上――としており、事実上の公的機関だ。

 大会には、「人権機関設立法案要綱試案」も提出された。これには調査への協力を 拒否した関係者に刑事罰を課すこともできる、との内容が盛り込まれていた。また、 人権侵害の仮救済措置として人権機関は「事前差し止め」の権限も持つとされ、報道 に適用されれば、検閲に道を開く危険性もはらんでいる。

 権力チェックできなくなる恐れが

 これを、先に右翼幹部との交友疑惑や交際女性への捜査情報漏洩(ろうえい)疑惑 などのスキャンダルで更迭された中川秀直・前官房長官のケースでシュミレーション すると――。取材を察知した当人が「人権侵害だ」と人権機関に訴え、記事の事前差 し止めが命じられる。取材した記者や報道機関に出頭や関係書類提出が命じられ、そ れを拒否すると逮捕や家宅捜索も……という事態が十分に考えられる。

 これでは、ジャーナリズムの本来の使命である「権力チェック」はできなくなる。

 日弁連は昨年の人権擁護前橋大会で、一九八七年の熊本大会以来十二年ぶりに「人 権と報道」を取り上げ、権力による報道規制に反対して、メディアによる自主的な報 道評議会の早期設置を提言した。それからわずか一年後、前橋大会提言とは何の整合 性もなく、こんな危険性をはらんだ宣言が提案された。

 前橋大会をリードした日弁連「人権と報道調査研究委員会」の梓澤和幸弁護士ら は、当然この宣言案に反対し、修正を求めた。

 その結果、宣言にはいくつかの修正がなされた。宣言提案理由7の(3)「救済機 能」に「大学の自治、弁護士自治、報道の自由にかかわる重大な問題については、そ の分野における先議を尊重するかどうかも含め、慎重な検討が必要である」という文 言を追加、同じく「救済機能」のうち、調査権限やその行使について、「公権力を対 象とする場合」と「民間を対象とする場合」の差異を「今後慎重に検討する必要があ る」と追加修正した。

 しかし、重要なのは、宣言が「準司法的権限」を持つ人権機関の対象に報道被害を 含めると明記していること。この点は修正されておらず、趣旨は本質的に変わってい ない。

 メディア責任制度の確立急げ

 マスメディアは、大会前からこの人権機関構想を「報道萎縮(いしゅく)招く恐 れ」(東京新聞)などと批判した。しかし、より批判されるべきは、この十数年、何 も具体的な対策を講じてこなかった新聞協会などメディア自身だ。

 日弁連は八七年の熊本大会、昨年の前橋大会で、報道の自由を守るためにも、多く の報道被害者が望む報道評議会(メディア責任制度)をメディアが自主的かつ早急に 確立すべきだと提唱した。それを無視し、人権侵害を繰り返してきたツケが回ってき たのだ。岐阜大会でも、宣言の修正を求める発言に対して「メディアには、もう自主 的な改革は期待できない」などの批判や疑問の声が出た。

 また、個人情報保護基本法、人権擁護推進協議会が検討中の人権救済機関が、いず れも報道被害を対象としていることに対して、新聞協会などが「報道の自由を守るた めに報道は対象外に」と要望しても、もはや市民の支持は得られない状況になってい る。

 「報道の自由」が、権力チェックのためではなく、市民への人権侵害を正当化する 言い訳に使われている現実を、市民は冷ややかに見つめている。

 こうした日弁連も含む報道に対する法規制の動きを方向転換させるには、メディア 自身が早急に自主的な改革を行う以外ない。

 その手がかりになるのが、九月に発表された「報道評議会に関する新聞労連原案」 だ。原案には、オンブズマン制度を報道評議会と対立的にとらえるなどの問題点はあ るが、全体として、多くの市民の支持を得られる内容だと思う。新聞協会は、この報 道現場からの真摯(しんし)な提案に率直に耳を傾け、メディア責任制度確立に向けて直 ちに動き出してほしい。

(ジャーナリスト)




略歴  やまぐち・まさのり 1949年生まれ。大阪市立大学卒。73年、読売新聞社入 社。東京本社地方部、婦人部・生活情報部、情報調査部を経てメディア企画局データ ベース部に勤務。人権と報道・連絡会世話人。昨年、『ニュースの虚構 メディアの 真実――現場で考えた’90〜’99報道検証』(現代人文社)を上梓。