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寄稿論文

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活気あふれる知の共同体 ハーバード大学研究留学便り

創価大学助教授
中山雅司

(2000年11月7日付)



厳しい競争と多様性の中で学問を醸成

大統領6人、ノーベル賞30人以上を輩出



1636年創立/アメリカ最古の伝統誇る

 今、ボストンは紅葉が美しい。街をゆったりと流れるチャールズ川の川面は、晩秋 のやわらかな日差しを浴びて銀色に輝いてまばゆい。自然と近代的な高層ビルが調和 した中心街の風景を横に見ながら西へ少し行ったところに、レンガ造りの建物が映え るアメリカ最古の大学・ハーバード大学がある(一六三六年創立)。

 私は本務校である創価大学より在外研究の機会をえて、ハーバード大学ケネディス クール(政治大学院)の客員研究員として、今年九月よりボストンに滞在している。 こちらに着いてまもなく新年度が始まり、キャンパスは新入生や新学年を迎えた学 生、教授たちで活気に満ちていた。

 ハーバードの学生は履修にあたって、一科目につき数冊のテキストとともにコース パケットと呼ばれる分厚い論文や資料のコピーを購入させられる。毎回、パケットの 中から数十ページ、多いときは本一冊分ぐらいの論文や資料を事前に読んで臨まなけ ればならず、授業はそれを前提に討論形式で進められる。

 講義形式の授業にもかかわらず、教授が話している時間より学生が議論している時 間の方が長く、学生は手を挙げて自分の順番を待っている。そこで求められるのは、 その問題について自分はどう考えるのか、それはなぜかということである。

 国民性や文化の違いももちろんあろうが、ディスカッションを通じて論理性と弁論 術を身につけていくアメリカ人の真骨頂を見た思いであった。さらに、ハーバードで は、もしあなたが大統領や国家の指導者ならばこの場合どういう判断をするかという ことを、教授はよく授業のなかで聞いてくる。

 ルーズベルトやケネディなど六人の大統領をはじめとして、三十人を超えるノーベ ル賞受賞者やピュリツァー賞受賞者など、多くのリーダーを世界に輩出してきた名門 の自負と使命感のようなものをそこに感じた。

世界中から著名人が来学し講演を

 研究環境の面でも充実している。蔵書千百万冊を誇る図書の充実ぶりは大変なもの で、まさに“知の宝庫”である。また、新鮮な驚きは、学生以外の大人の姿が多くキ ャンパスに見られることであった。すなわち、私のような大学からの研究者のみなら ず、官公庁の役人や政府関係者、企業人、ジャーナリストなど、ありとあらゆる職業 の人たちがフェロー等の資格で世界から学びに集まってきていることであった。

 こういった人たちが教授や学生と一体となって、知の共同体を形成しているのであ る。さらに、ハーバードは研究や教育面において、MIT(マサチューセッツ工科大 学)やタフツ大学などとの連携関係を保っている。また、連日、キャンパスのあちこ ちで様々な興味あるテーマのもと、セミナーや講演会が活発に開かれている点も魅力 的である。

 昼時にサンドイッチや飲み物が用意され、それをほお張りながら話を聞くといった スタイルのランチセミナーなども多く、自由に参加ができる。そこには、ハーバード の教授だけでなく、他大学の教授や実社会で実務に携わる人たちなども多く講師に招 かれる。先日、ロースクール(法律大学院)に来たのは、旧ユーゴの戦争犯罪法廷で 検察官を務めた人であった。

 また先般、学生も多く参加してケネディスクールで開かれた講演会では、シンガポ ールのリー・クアン・ユー上級相(元首相)が自らの体験を通しながら指導者論を語 った。こうした学問環境を通じて、大学の活性化をはかり、学問の現実社会からの遊 離を防ごうとしているのである。

 ちょうど、この時の司会は日米安保再定義にあたってあの「ナイレポート(東アジ ア戦略報告)」を書き、現在、ケネディスクールの大学院研究科長を務めるジョセ フ・ナイ氏(元・国防次官補)であった。

21世紀の鍵握る高等教育の充実

 このようにハーバードには、教室を出て国家政策に関与した後、再び教壇に戻って 学生の指導にあたるといった例は少なくない。ハーバードだからといえばそれまでだ が、大学が社会や国家との相互交流のなかで、知のあり方を探求し続けている姿が確 かにそこにはあるように思える。厳しい競争と多様性のなかで本物の学問が醸成さ れ、人材が生み出されていることに感慨を新たにした。

 冷戦が終わって、アメリカは唯一の超大国として世界に君臨し、経済的にも繁栄を 享受している。一方で日本は、政治や経済、社会の混迷からいまだに抜け出せない感 がある。日本においてとくに停滞の著しい分野の一つが大学を中心とする高等教育で あると指摘したのは、ハーバードの教授を長年務め、いみじくも『ジャパン・アズ・ ナンバーワン』で一躍有名になったエズラ・ボーゲル氏であった。

 もちろん、アメリカも人種や銃の問題をはじめ様々な問題を抱えている。ただ、ど の国の将来にとってもいかなる人材を社会に輩出するかが重要な鍵となってくること だけは間違いない。

 その意味において教育および大学の役割は一層増すであろう。本年、創価大学は三 十周年の佳節を刻むとともに、明年は、いよいよアメリカ創価大学オレンジ郡キャン パスが開学する。英知と人格を兼ね備えた世界市民の輩出を目指す人間教育に、ます ます注目が集まる時代がやってくる。私も今回のハーバードでえた貴重な示唆と経験 を少しでも生かしながら、創価教育にさらなる力を尽くしたいと心に期するものであ る。

(創価大学助教授)




略歴  なかやま・まさし 一九五九年、兵庫県生まれ。創価大学大学院博士前期課程修 了。専攻は国際法。共著に『人権とは何か』、論文に「集団安全保障とヒューマン・ セキュリティー――国連による安全保障機能の再構築へ向けての覚書」など。