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寄稿論文

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沖縄にとってサミットは何だったか

江上能義・琉球大学教授に聞く

(2000年10月3日付)



「平和の発信」に県民の手応え

復帰後初の米大統領の訪問 「基地の整理縮小」などで進展



 沖縄サミット(主要国首脳会議)が七月二十三日に閉幕してから二カ月余が過ぎ た。海外から千人、国内を合わせると五千人近い報道陣によって、沖縄は一躍世界に クローズアップされた。基地問題はじめ平和や環境保護などさまざまな課題を抱える 沖縄に、サミットは何をもたらしたのか――。琉球大学の江上能義教授にインタビュ ーした。(聞き手・野山智章記者)


 世界に“開かれた”沖縄問題に

 ――沖縄県民にとってG8サミットとは何だったのでしょうか。

 意義は大きかったと思います。県民がサミットに期待したのは「平和の発信」で す。そして「沖縄の基地の現状を見てほしい」と。この二つが一番多かった。一年 間、地元マスコミなどがアンケート調査しても、ずっと変わらなかった。世界の首脳 たちが沖縄に来ることによって、沖縄の基地問題の現状を首脳たちと世界の報道陣の 人たちに見てもらい、世界に知ってほしいと。つまり、これまで沖縄の問題というの は、日米間だけの問題になって、世界に閉ざされている状況があった。

 ――世界中を見回しても、独立国に対して、これだけ外国の軍隊が駐留して住民を 圧迫する例はありません。

 やはり沖縄問題は見てみないとわからないと思います。ちょっと想像を絶します よ。私も東京から沖縄に移り住み、本当に愕然(がくぜん)としたのです。何が本土 並み(復帰)だと、ぜんぜん本土並みじゃない。

 しかも基地は、ほとんど居住区に隣接してます。そして、これが半世紀以上にわた っているというのは、いくら何でもひどい。やはりサミットの議題に沖縄の米軍基地 問題を取り上げるべきだったと思います。最も県民が願っていたことですから。しか し、日本政府は“基地問題は日米間の問題だからサミットの議題にはふさわしくな い”と言いつづけていました。

 沖縄の基地問題をサミットの議題に取り上げることは非常識なのだろうかと、私は 今でも疑問に思っているわけです。なぜなら日本政府は、日米安保がアジアの平和と 安定に寄与しているということを言い続け、沖縄は日米安保の要(かなめ)であるわ けですから。NATO(北大西洋条約機構)と日米安保はアメリカの世界戦略の両輪 というふうにアメリカ自身も言いつづけているから、日米二国間の問題に限定するの は詭弁(きべん)です。

 2万7千人が「人間の鎖」結ぶ

 ――外国メディア報道をどう評価しますか。

 多くの海外のジャーナリストと会った感じでは、やはり、これだけ沖縄に基地が集 中しているのはおかしい――これは共通しています。なかでも嘉手納基地の巨大さに は驚いたと言っています。沖縄に米軍基地があるということは知っていたけれども、 目から鱗(うろこ)が落ちたと、そこまで書いてましたね。

 そういうジャーナリストの発言を聞きますと、沖縄の人たちはサミットが来てよか ったと思いますし、それから「平和の発信」という意味では(二万七千人が手をつな ぎ嘉手納基地を包囲した)「人間の鎖」が成功したことが重要です。

 ただ指をくわえてサミットを眺めているだけでなく、「人間の鎖」という形で県民 の思いを表現できたことは大きかったと思います。だから、その後の世論調査でも 「サミットは成功した」というアンケート結果が多いですね。六割以上の沖縄県民は サミットは成功した、と。

 ――復帰後初の米国大統領の沖縄訪問の成果は。

 クリントン大統領が沖縄で演説したこと、この意義は大きいだろうと思うのです。 大統領の演説で一番注目したのは、基地の整理縮小が入るかどうかということでし た。一応入れましたから、私はスピーチにはぎりぎりで合格点をあげられる内容なの ではないかと思っています。

 ――英語ではたしか、decrease footprintでした。

 この言葉の解釈をめぐって当初、ある報道機関は「軸足を移す」と翻訳した。「軸 足を移す」というのはどういうことか、場合によっては基地の整理縮小に大きな意味 があるかもしれないと思っていたら、日本語訳が「基地の整理縮小」に変わっていっ た。

 協調と繁栄のネットワークを

 ――サミットの合意文書『G8コミュニケ・沖縄2000』に、紛争予防決議が入 りました。本来であれば、そこにもう少し沖縄でのサミット開催の意義が盛り込まれ てもよかったのでは。

 そうですね。南北朝鮮が歴史的な首脳対話をすることが前面に出てきたから、沖縄 問題が陰に隠れてしまったところがある。しかし、朝鮮半島情勢は沖縄に連動してい る。米軍の沖縄駐留の主要な大義名分は東アジアの安全保障であるからです。

 ――つまり、沖縄の基地問題の帰趨(きすう)は、東アジアの国際情勢と連動している、と。

 「戦争の世紀」だった二十世紀を反省する視点に立って、二十一世紀を平和なアジ アにしていくことが肝要です。アジアがいがみ合う時代から、平和と協調と繁栄のネ ットワークをつくっていくことが必要だろうと思います。沖縄の住民は、太平洋戦争 で唯一の地上戦となった沖縄戦という悲劇をなめて、その後も基地問題を背負ってき た。

 そうした経験に基づいた平和を願う気持ちは、世界に対して説得力を持ちえると思 うのです。今後はアジアの平和をどう具体的に構築していくかを、沖縄から、もっと 積極的に主張していってよいと思うのです。




略歴  えがみ・たかよし 1946年佐賀県生まれ。早稲田大学大学院博士課程修了。カ リフォルニア州立大学バークレー校東アジア研究所客員研究員などを経て現職。専攻 は比較政治学、行政学。著書に『テクノロジーと現代政治』、共著に『モダン・ポリ ティクス』『地域からの国際交流』など。