
(2000年9月12日付)
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『週刊宝石』(光文社)が『虚報』認め全面謝罪 |
公明党の沢たまき参議院議員が『週刊宝石』(一九九九年十二月十六日号)の事実 無根のデマ記事を名誉棄損で訴えていた裁判で、八月三十日、発行元の光文社との間 で和解が成立した。光文社側が「記事の内容はすべて根拠のない虚偽の内容」との謝 罪文を掲載(九月十三日発売号)するとともに、五百万円の損害賠償金を支払うとい う、この種の裁判としては異例の終結。“全面勝訴”した沢議員と主任弁護士の猪熊 重二弁護士に話を聞くとともに、この裁判を取材してきたジャーナリストの木村則文 氏に寄稿してもらった。(落合克志記者)
〈光文社の謝罪文〉弊社は、平成一一年一二月一六日号「週刊宝石」二四頁から二七頁において、貴殿 が、平成八年八月下旬から同年九月下旬にかけて、新宿のホストクラブに勤務してい た松本純なる男性と肉体関係を結び、その対価として、合計金六〇万円を交付した旨 の記事を掲載しました。 しかし、右記事の内容は、すべて全く根拠のない虚偽の内容であることが明らかと なりました。 弊社は、虚偽の事実を公然と摘示し、貴殿の名誉を著しく傷つけ、その信頼を失墜 させたことに対し、貴殿に対し、ここに心より謝罪申し上げます。 平成一二年八月三〇日 株式会社 光文社 参議院議員 沢たまき殿 |
――全面勝利、おめでとうございます。
沢たまき議員 ありがとうございます。たくさんの党員・支持者の皆様や超党派の 議員の方々からも激励の声をいただき、感謝の思いでいっぱいです。
――なかには「和解などせず、判決が出るまで徹底的にやるべきだ」という声もあ りますが。
沢議員 和解というと「けんか両成敗」みたいなイメージがあって、こちらにも少 しは非があるみたいじゃないですか。だから、私もはじめは「絶対にイヤだ。白黒は っきりつけたい」と言ったんです(笑い)。
――しかし、今回のケースは判決以上に白黒がはっきりしていますね。
沢議員 ええ。私も猪熊弁護士から、「この和解は光文社側が『全部ウソでした』 と認めて、全面降伏している。謝罪文が掲載されるケースも近ごろ珍しい。全面勝訴 以上の内容だ」と説明を受けたのです。
――それで、和解に応じたわけですね。
沢議員 もう一つ、裁判中、私の支持者の方々に対しても、「まだ沢議員を応援し ているのか」などと、心ない悪口を言う人がいたことが何よりつらかった。
また私自身もある盆踊り大会で、酔った男性にデマ記事に基づく暴言を浴びせられ たり、本当に悔しい思いをしてきました。
〈猪熊弁護士の話〉今回の和解は光文社側が一〇〇%非を認めて白旗をあげた、極めて特異なケースと 言える。 裁判で光文社側は、松本純なるホストの話が真実であると証明することを初めから 放棄し、「記者がこの話を真実だと信じるに足る理由があったかどうか」を証明する ことで責任を免れようという作戦に出た。結局、それすらもできなかったが、この点 だけでも『週刊宝石』の記事がいかにでたらめだったかが分かる。 光文社側が記事を虚偽と認めて謝罪文を掲載し、五百万円の損害賠償金を支払うと いう和解条件は、勝訴以上の内容だろう。 悪意による名誉棄損は論外だが、誤信や過失による報道被害はこれからも起こりう る。その場合、メディアは速やかに誤りを認め、被害者の救済措置を取るべきだ。そ うした姿勢の一端を、この和解からメディアはくみ取るべきである。 |
――完全なデマでも一度植え付けられたイメージを消すことは難しい。
沢議員 報道被害の恐ろしさです。これは経験した者でなければ分かりません。た とえこのまま裁判を続けて一審で勝訴したとしても、控訴されれば、判決が確定する までこの状況が続きます。家族も好奇の目にさらされます。
和解で刑事告訴が取り下げとなり、事件の背景を明らかにできないことは残念です が、様々な状況を考えて和解に応じました。
――それにしても、裁判では、光文社側のあまりにずさんな取材態度が明らかにさ れましたね。
沢議員 今回の「スキャンダル」をでっち上げた松本純というホストの本名も所在 もわからなければ、裏付け取材も何ひとつしていない。ジャーナリズムなんてものじ ゃありません。活字はいつまでも残ります。記者は、自分の記事の持つ意味とその重 みを十分考えてもらいたい。
――「報道と人権」の問題は、これからもさらにクローズアップされていくと思い ますが。
沢議員 私たち公明党も、党内に「報道と人権問題委員会」を設けて具体的な研究 を進めていますが、第一に望むことは、メディア自身が報道倫理に基づく自主規制の システムを設けて、報道被害を軽減する仕組みを作ることです。
私も今回の経験をいかし、理不尽なペンの暴力から人権を守るため、この問題に全 力で取り組んでいく決意です。
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裁判を傍聴して−− “売らんかな”のみの雑誌ジャーナリズムへ警鐘 ジャーナリスト・木村則文 |
問題となった記事は、たいへんスキャンダラスな内容のものだった。九六年の総選 挙の際、東京の小選挙区の候補者となっていた沢議員が夜間、新宿歌舞伎町のホスト クラブを訪れ、ホストを買春したという内容であり、買春されたとするホスト松本純 (源氏名)が証言する形で、それぞれの行為について詳細に記載していたからだ。
だが、沢議員は「そのような店に一度も足を踏み入れたこともなければ、そのよう な事実などありえない」として、即日、警視総監あて刑事告訴した。また、民事では 名誉棄損による損害賠償を求めて光文社を訴えた。
私は取材者として、個別の和解交渉を除いた四回の公判をすべて傍聴してきた。と いうのも、記事掲載後まもないころ、沢議員を直接取材した折「候補者がそんな所を 歩けば、それだけで私を落としてくださいと言っているようなもの。善良な支持者に 支えられている私にそのようなことができるはずがない」と怒りの表情で語っていた 姿が頭に染みついていたからだ。
私としては“義憤”にかられ、事の成り行きを見定めたいとの気持ちが強かった。 事実、この記事が出たころは、総選挙が年明けの冒頭かあるいは近いとされていたこ ろで、政局的にも緊迫した空気にあった。こうした記事が「突然に」出てくる背景に は、公明党のイメージダウンを図るなどの政治的思惑も予想された。
案の定、裁判において、光文社側のボロは次々と明るみになっていった。すでに二 回目の口頭弁論(三月十七日)の折、光文社側の女性弁護士は裁判長に対しこう言っ た。
「松本さんは所在がつかめません。松本さんが同居していた中村さんと記者が会話 したテープがあるので、それを提出します。中村さんは、証人に呼ぶまでのことはな いと考えています」
記事は松本純なるホストの証言だけで構成されていたが、その告発者となった人物 の行方がつかめないという。私はこの証言者の胡散臭(うさんくさ)さを感じた。
第四回の口頭弁論(七月五日)では、週刊宝石の記者(29)と編集者(32)の 二人が証人尋問された。
尋問で明らかになったことは、これだけ衝撃的な告発であり、また裁判になること が編集部内でさえ当初から想定されていたにもかかわらず、松本純なるホストの身元 確認(免許証、住民票など)さえされておらず、取材時のテープさえ残されていない という“不可解さ”である。しかも、松本には、取材謝礼として三十万円が支払われ たという。
この日、裁判長が、次の弁論で、原告の沢たまき本人、被告側から中村某を証人尋 問したいと述べたあと、ひとこと「和解はどうしますか」と双方に述べると、光文社 の女性弁護士がすっくと立ち上がって述べた。「和解を求めます!」
一方、原告側は「持ちかえって検討します」と述べただけで、この対照的な姿は、 すでに勝敗の結果を明確にしていたといってよい。
数度の協議の末、光文社側が「すべての非」を認める形で和解が成立した。
八月三十日、議員会館で沢議員が行った記者会見を私も取材したが、報道陣から は、この記事が出た背景についての質問も出た。だが真相は依然ナゾのままである。
会見終了後、ある記者から「書いた記事を嘘の内容だったと認めるのは、雑誌社と しては致命的。本当にまずいことをしたという弱みがなければ、こういう結果にはな らない」との感想も出された。
“売らんかな”のみの雑誌ジャーナリズムへの警鐘として、また典型的なデマ報道 として、マスコミ史に記録されることは間違いないだろう。