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寄稿論文

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九州・沖縄サミットを振り返って

宮崎国際大学講師
遠山清彦

(2000年8月1日付)




特筆すべき「紛争予防」決議

“太平洋の安定錨(アンカー)”から
「平和の文化」を21世紀へ



安全保障の分野で大きな前進

 先日終了した九州・沖縄G8サミットをめぐっては、サミット前後に様々な事件が あり、また見る人の立場の違いによって、その成果に関する評価は大きく分かれてい る。しかし、安全保障の分野に関して言えば、大きな前進があった、と言っても良い のではないかと思う。

 朝鮮半島の緊張緩和、サミット中も継続された中東和平交渉など、冷戦時代から続 く国際社会の懸案に解決の糸口が見えてきたことも手伝って、最終日に採択された 『G8コミュニケ・沖縄二〇〇〇』には、新世紀世界の安定を強化するための具体的 提案が盛り込まれた。

 その中でも「紛争予防(conflict prevention)」が前面に押 し出されたことは特筆に値しよう。

 冷戦後急増した内戦型紛争を背景に、紛争予防の必要性が国際政治の舞台で声高に 叫ばれ始めたのはごく最近のことである。例えば、G8諸国がサミットの議題として 本格的に取り上げたのも、昨年のドイツ・ケルン会議からだ。

 しかし、国際社会の中で「紛争を防止しよう」という努力が今日まで全くなされて こなかったわけではない。戦争史家ジョン・キーガンが「戦争の歴史は人間そのもの の歴史である」と書いたように、人類と戦争の付き合いは、残念ながら長い。その中 で、紛争をあらかじめ防止しようという考えは、実はかなり早い時期(少なくとも古 代ギリシャ時代)から出されていた、というのが歴史家の通説である。

 ただ、一九八九年に冷戦が終了する以前の「紛争予防」と、ここ最近十年の間に注 目を集めるようになった「紛争予防」では、その依って立つ思想的基盤に決定的な違 いがある。

「G8宮崎イニシアティヴ」に注目

 さかのぼればローマ帝国時代から、第二次世界大戦を経た戦後時代まで、紛争予防 は原則的に「強制的力(coercive power)」すなわち「軍事力」に裏 打ちされた戦略として実践されてきたのであり、その究極的到達点が核抑止力による 「平和」であったとみることができる。  しかし、外的強制により強きものが弱きものを押さえ込む形で築かれた「擬制の平 和」は、真の平和であるはずはなく、その証左に冷戦が終わると抑圧されていた「人 間不信のマグマ」は世界各地で爆発した。ということは、古い「紛争予防」は、実は 「紛争封鎖(conflict containment)」であり、しかも「暴力 の文化」に基づいた秩序維持メカニズムだった、と言うことができよう。

 これに対し、現在の新しい紛争予防は、全く逆のアプローチを取る(また取らねば ならない)。すなわち、外的強制力によらず、紛争の根本原因を除去あるいは改善す ることに主眼を置く。そしてこういう観点に立つからこそ、新しい紛争予防は「包括 的アプローチ」にならざるを得ないのである。

 今回の決議で、G8諸国は「地球社会全体において『予防の文化』を推進し紛争予 防イニシアティヴを発展させるために持続的な努力を行う」ことを再確認し、紛争 前・中・後の全プロセスを通じて、あらゆる分野の政策を統合して対処することの重 要性を強調した(『紛争予防のためのG8宮崎イニシアティヴ』)。

 紛争の根本原因に正面から取り組むことを志向する「予防の文化」は、今や「平和 の文化」の重要な一要素として認知されてきている。

 平和研究などで蓄積された紛争に関する知見は、紛争の根本原因が「複雑系」であ ることを明快に示している。多くの紛争は、価値観(アイデンティティーを含む)の 対立、経済格差(資源アクセスの不平等を含む)の増大、不公平で固定的な関係に対 する不満など、どれか一つのみを要因として暴力化するのではなく、それら全てが複 雑に絡み合う中で惹起(じゃっき)してきている。

NGO、市民の果たす役割重く

 そのような紛争を予防する作業は、もはや軍事・安全保障の専門家だけで対応でき るものではない。あらゆる分野の専門家の協力が求められるし、作業を分担する主体 も政府・国際機関だけでなく、グローバルな規模で急成長する市民社会(NGO・市 民運動)の参加が不可欠なのである。

 今回のG8決議では、小型武器の輸出規制や、開発支援の紛争予防へ向けた戦略的 運用、武装グループの資金源になっているダイヤモンドの不正取引規制、国際文民警 察の強化、児童兵(チャイルド・ソルジャー)問題などについて、具体的な提案がな された。

 これは、成功した場合の政治的「果実」が小さいと言われてきた紛争予防努力に、 先進国首脳が真剣に取り組む意志表示をしたという意味において、高く評価できる。 また、実践主体として、財界、NGO、個人の重要性も明記された。今後の課題は、 これらのサミットの成果をどこまで現実に実践していくかである。この点では、私達 市民の責任も小さくないことを自覚したい。

 最後に、この決議が沖縄で発表されたことに関連して一言述べたい。周知のとお り、沖縄の米軍基地は「アジア太平洋地域の安定錨(アンカー)」として今日まで正 当化されてきた。しかし、前述の考察から見れば、これはまさしく典型的な古い「紛 争予防」、すなわち「紛争封鎖」の論理である。

 人類の歴史上、「暴力の文化」に裏打ちされた「紛争封鎖」で永続的な平和や信頼 関係が構築されたことはない。G8諸国首脳が「平和の文化」「予防の文化」を標榜 するならば、まず自らの思考も歴史の呪縛(じゅばく)から解放することを決意する べきだった。それが沖縄でできなければ、「一体どこで?」と問いかけざるを得な い。(宮崎国際大学講師)



略歴

 とおやま・きよひこ   1969年千葉県生まれ。創価大学法学部を卒業し英国ブラッドフォード大学大学 院を修了。平和学博士。主な論文に、「戦争と責任:天皇と占領期日本における戦争 責任論争」「東ティモールにおける和解問題とNGOの役割」ほか。


 ●サミット合意文書の詳しい内容は、インターネット上の次のアドレスで入手可能。
http://www.g8kyushu-okinawa.go.jp/j/index.html