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寄稿論文

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英国でのオンブズマン会議に参加して

同志社大学教授
浅野健一

(2000年7月25日付)




北欧、米国型の違い超えた基準探る

独立性、不偏性、秘密保持謳う



1809年にスウェーデンで初めて導入される

 ロンドンのキングズ・カレッジで七月十八日に開かれた米国弁護士連合会(米弁 連)主催の「オンブズマンの定義と基準に関する国際会議」に参加した。

 日本からただ一人参加した私は、「なぜオンブズマン制度が日本では定着しないの か」と題して発表した。

 オンブズマンは、一八○九年にスウェーデンで導入された「国会オンブズマン」が 起源だ。「政府と人民のあいだの確執の局面に公正な立場で介入して、人間の尊厳を 守るという目で、正邪の判断を下す役職」(潮見憲三郎著『オンブズマンとは何 か』)だ。

 議会、政府、企業、大学、プレスなどの分野で、社会的に弱い立場にある市民など からの苦情申し立てを受け付け、独自に調査をしたうえで、その訴えに合理性がある かどうかを裁定し、その結果を声明・勧告などで発表し、関係者に改革を促す職務で ある。現在、三十カ国以上に百を超すオンブズマン職がある。

 米国ではここ数年、その概念やあり方に一部混乱が見られるため、「オンブズマ ン」とは何かについて、改めて厳格な定義と基準を設ける必要性が出てきた。米弁連 の「法と制限規範」部会が、米国内にある連邦オンブズマン連合、大学オンブズマン 協会、オンブズマン協会などと協力して開催、米国、英国、アイルランド、スロベニ ア、ベルギー、南アフリカなどのオンブズマン、法律家、研究者の約四十人が出席し た。

 米弁連が今回の総会で採択した「米国におけるオンブズマンの設立と運営に関する 基準」の序文は、「オンブズマンは公的機関または民間企業の官僚たちによる非道・ 残虐な行為から市民を守る」などと規定した。

 オンブズマンは単なる苦情処理機関ではなく、公務員などの行為が法令や組織体が 自ら制定した行動基準に違反していないかどうかを判断する。

日本でのプレスオンブズマン運動を紹介

 シャラン・リバイン部会長は「北欧型の古典的な意味でのオンブズマンがすべてと は言わないが、オンブズマンと呼ばれるための基準が必要だ」と説明した。新基準 は、オンブズマンには(1)任命する組織体からの独立性(2)活動の不偏性(3) 知り得た情報の秘密保持――の三要素が不可欠であり、それぞれについて詳細に規定 した。詳しくは米弁連のホームページ(http//www.abanet.org/adminlaw/ombuds/)を参照してほしい。

 シンポの質疑では、米国の弁護士から「オンブズマンに対する政治的圧力をどう排 除するのか」という疑問が出された。

 また米国の法学者は「国際労働機関(ILO)で仕事をしてきたが、ほとんどの国 で労働問題は米国の方法とは全く違うやり方で解決されていることがわかった。米国 の基準が外国で通用するかどうか吟味すべきだ」と指摘。南アフリカの研究者は「南 アフリカには七○年代から国会オンブズマンがあり、国際オンブズマン機構にも登録 されていたが、アパルトヘイト(人種隔離政策)を黙認どころか推進していた。にせ 者のオンブズマンを見極めるべきだ」と強調した。

 リバイン部会長らは「国境や文化の違いを超え、共通するガイドラインはあるはず で、それを模索したい」と答えていた。私も同感だ。

 日本でも弁護士や研究者が六〇年代後半からオンブズマンを導入するよう提唱して きたが、国際的な定義にかなう議会オンブズマン制度はいまだにない。私は十五年前 から「人権と報道・連絡会」(〒168―8691東京都杉並南郵便局私書箱23 号、FAX:03―3341―9515)の仲間と共に、「日本にプレスオンブズマ ン・報道評議会制度を」という市民運動を行ってきた経験を紹介した。

誤報被害に反論する手段として確立を

 日本にも待望のプレスオンブズマン・報道評議会が誕生するチャンスが出てきた。 独自の取材も全く怠(おこた)ったうえで、性暴力に遭ったなどという狂言を活字に したり、交通事故の被害者を殺人犯にでっちあげるような記事を掲載する新潮社のよ うなメディアの居直りを許さない仕組みがいますぐにでも必要だ。

 日本新聞協会は六月二十一日、約半世紀ぶりに新聞倫理綱領を改定した。「人権の 尊重」の項では、「報道を誤ったときはすみやかに訂正し、正当な理由もなく相手を 傷つけたと判断したときは、反論の機会を提供するなど、適切な措置を講じる」など と謳った。

 誤報被害に「反論の機会を提供する」というのはいいが、問題はそれをどう実践す るかだ。名誉回復はどのように実現するのか。綱領を掲げただけではほとんど役に立 たない。報道体制を構造的に変革する詳細な指針づくりが急務だ。その際、米弁連が 採択した「オンブズマンの新基準」を参考に、日本にふさわしい仕組みをつくりた い。(同志社大学教授)



略歴

 あさの・けんいち 1948年香川県生まれ。慶応義塾大学卒。共同通信社社会 部・外信部記者、ジャカルタ支局長を歴任し、94年4月から現職(文学部新聞学専 攻)。人権と報道・連絡会世話人。著書に『犯罪報道の犯罪』『メディア・リンチ』 など多数。ビデオ『人権と報道の旅』を監修。