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寄稿論文

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メディア責任制度の第一歩へ――新聞人の良心宣言

北村肇
(新聞労連委員長)

(1997年3月1日付)



他を監視し批判する立場として最高水準のモラルは当然

読者の信頼感を呼び戻すために

「新聞が読まれていない」と言われる。確かに様々な調査では、若者層を中心に新聞離れの傾向が目立つ。

 さらに、私たち新聞に携わる者が不安なのは、「毎日、新聞を読んでいる」という読者の間で、「つまらない」「人権侵害が目立つ」「権力の監視どころか、権力に迎合している」といった厳しい批判が出ていることだ。つまり根っからの新聞ファンさえ、新聞に対する信頼感をなくし始めているのである。

 日本新聞労働組合連合(新聞労連、四万人)は二月一日、臨時大会で「新聞人の良心宣言」(倫理綱領)を採択した。読者に向かって「今までのことを反省し、これからは期待に応えていきます」と、初めて具体的な宣言をしたのだ。

 今後は、綱領を実のあるものにしていくとともに、報道評議会の実現に向け努力をしたい。メディア責任制度の確立が、新聞への信頼感を呼び戻すために欠かせないと確信するからだ。

自浄能力高める"倫理綱領"

「宣言」は十項目から成っている。

 まず「はじめに」で、「新聞が本来の役割を果たし、再び、市民の信頼を回復するためには、新聞が常に市民の側に立ち、間違ったことは間違ったと反省し、自浄できる能力を具えなくてはならない。このため、私たちは、自らの行動指針となる倫理綱領を作成した。

 他を監視し批判することが職業の新聞人の倫理は、社会の最高水準でなければならない。私たちはこの倫理綱領を『新聞人の良心』としてここに宣言し、これを守るためにあらゆる努力をすることを誓う」と、私たちの決意を明らかにした。

 <権力・圧力からの独立>の項目では、「公的機関や大資本からの利益供与や接待を受けない」と明示した。当たり前のことではあるが、役人や政治家から記者が接待を受ける「官報接待」が問題になっており、あえて宣言した。

 一部の記者からは「酒を飲んだからといって筆を曲げることはない」という意見があった。しかし「社会の最高水準の倫理」からいけば、取材先と癒着(ゆちゃく)していかのように見える行為は、厳に慎まなくてはならない。

 <市民への責任>では「誤報」問題に力点を置いた。「誤報により重大な人権侵害が起きた場合は、紙面で被害者に謝罪し、誤報に至った検証記事を掲載、再発防止策を明らかにする」などと宣言。松本サリン事件におけるような人権侵害を二度と起こしてはならないとの決意だ。

 <犯罪報道>でも「新聞人は被害者・被疑者の人権に配慮し、捜査当局の情報に過度に依拠しない。何をどのように報道するか、被害者・被疑者を顕名(けんめい)とするか、匿名(とくめい)とするかについては常に良識と責任をもって判断し、報道による人権侵害を起こさないよう努める」と謳(うた)った。

人権と報道の先進国(ヨーロッパ)では既に定着

 もちろん、綱領ができても実践されなければ何の意味もないので、冊子にして全組合員に配布し、少しでも早く浸透を図りたい。しかし、一部の記者に「『宣言』は理想的すぎる」という批判があるのは事実だ。外部からも「本当に記者は『宣言』を守るのか」という疑問が出ている。

 だが、私たちの責務の一つは、理想を現実につなげることである。「宣言」が守れないようでは、もはや新聞は死を迎えたといわれても仕方ない。多少、時間はかかるだろうが、すべての記者が綱領を守り、そのことにより、読者の信頼を得ると信じている。

 綱領に十分な意味を持たせるには報道評議会が必要だ。報道評議会は、新聞関係者、読者、弁護士などをメンバーに、報道被害の訴えについて検討し、「倫理綱領」に照らし合わせて問題がある場合は、当該(とうがい)の新聞に謝罪文などの掲載を指示する組織だ。一種の“駆け込み寺”と言えよう。

 すでにスウェーデンやイギリスでは市民の間に定着している。新聞協会や日弁連に働き掛け、年内には見通しをつけたいと考えている。

 報道評議会は、あくまでも私たちの自主的機関であり、国などの影響を受けることはない。だからこそ、メディア責任制度の柱と位置付けられているのだ。

 倫理綱領と報道評議会が確立すれば、「市民の視点で権力を監視・批判する」ジャーナリズムの精神は蘇り、新聞は、より読者に近いものになるだろう。



略歴 きたむら・はじめ 一九五二年、東京都生まれ。東京教育大学卒。七四年、毎日新聞社に入社。社会部副部長を経て、一昨年九月から日本新聞労働組合連合(新聞労連)委員長。著書に『腐敗したメディア――新聞に再生の道はあるのか』(現代人文社)など。