
聖教新聞学芸欄に毎週連載されている「インターネット 世界への扉」の執筆者である野村一夫・法政大学兼任講師がインターネットの解説書『インターネット市民スタイル【知的作法編】』(論創社1997年)を公刊されました。1997年4月16日付創価新報の書評のページ「著者の素顔――この人に聞く」にインタビューがでましたので参考資料としてご紹介します。
――ここ数年、インターネットが急速に普及していますね。
インターネットをやるためにパソコンを始める人も多いですね。しかし、いざやってみると「なんだ、こんなものか」とがっかりする人も多いようです。
基本的にはユーザー自身の未熟な調べ方のせいなんですが、メーカーやマスコミが、ホームページから自動的に素晴らしい情報が引き出せるかのような幻想を煽(あお)っていることも問題です。
――しかし、一般的にはインターネット即ホームページのような感があります。
いいホームページがインターネットの普及に貢献したことは事実です。本書でもボランティアでつくられた素晴らしいホームページをたくさん紹介しています。
私自身もホームページを持っていますが(http://www.asahi-net.or.jp/~bv6k-nmr/)、なかなか大変な作業です。そのボランティアの行為に「ただ乗り」する受け手だけが一方的に増えてもインターネットのコンテンツは豊かにならないし、企業によるコマーシャルな情報ばかりが幅を利かすようになってしまいます。そうなるとユーザーにとってのインターネットもつまらないものになってしまいますね。むしろ大切なことは、そこで個人がいかに他者とコミュニケートするかだと思います。
――個人が皆ホームページを持つべきだということでしょうか。
いえ、ホームページめぐりに限界を感じた人にも勧めたいのですが、メーリングリストやネットニュースに参加してみることです。これこそインターネットの真骨頂だと思います。とくにメーリングリストですね。
メーリングリストは電子メールの拡大版のようなもので、一対一のコミュニケーションではなく、百人なら百人の人とのテーマを決めたやりとりです。一人が発信すると百人に同じメールが届き、その反応も同じように百人に届きます。結果として電子会議室が出現するというわけです。
――インターネットの特性は、個人が情報を「発信する」点にあるのですね。
「情報発信」というより双方向コミュニケーションでしょうね。「おしゃべり」といってもいいでしょう。インターネットで画期的なのは、対等な立場で人びとが出会うということです。従来のコミュニケーションは、どうしても社会的地位や世代、ジェンダー(性別)や民族性や障害の有無などに影響されました。インターネットでは、いったんそれらを背景化し、対等の立場で「おしゃべり」の輪に参加できます。
ただ、問題がないわけではありません。対等なだけに一人のちょっとした悪意や不見識のせいでメーリングリストがガタガタになるということもよくあることです。
――そこで、「市民」という概念が必要とされてくるのですね。
世間のしがらみにしばられたり、組織の目的や効率のためにだけ何かをするというのではなく、あくまで個人として社会や公共のことを自発的に知ろうとし、積極的に社会形成に参加する人、そのような人が「市民」です。たんなる庶民とはちがいます。社会的役割から自由な人といってもいいでしょう。インターネットの世界には、すでにそういう人がいっぱいいるし、自然な形でそういうものをユーザーに育む可能性ももっていると思います。
個人が利害関係や社会的役割から自由にいろんな人と対話できる場は案外少ないですね。いつも会社組織とか役職とか肩書きとかがコミュニケーションにまとわりつく。インターネット上ではそのようなものははがされ、あくまで一個人として公共の場にさらされるわけです。自律した市民を演じないわけにはいかないですね。
当初はなかなかなじまないでしょうが、そのうち板に付いてくるものです。そうなると結果として得られる情報も豊かになってくるものです。
――本書で読者に訴えたいのもその点でしょうか。
インターネットの醍醐味は「情報」というよりも「人との出会い」にあります。関心のあるテーマについて発言したり積極的におしゃべりの輪の中に入っていくことが、自然と自分自身を鍛えることになるのだと思います。そういうメディアなんですよ。さらにそれが「社会を鍛える」ことに通じるといいんですが。
(論創社 一五〇〇円)
のむら・かずお 1955年生まれ。法政大学兼任講師・日本大学非常勤講師ほか。社会学者。著書に「社会学感覚」「リフレクション―社会学的な感受性へ」「社会学の作法・初級編―社会学的リテラシー構築のためのレッスン」など。
【データ】
著者: 野村一夫(社会学者)
書名: 『インターネット市民スタイル【知的作法編】』
発行: 論創社
刊行年月日: 1997年2月15日
定価: 1500円+税
ISBN4-8460-0039-7