

(1998年4月4日付)
日本でも今年二月、政治専門チャンネル「国会TV」(パーフェクTV!379ch)が本放送を開始したが、米国では既に十九年の歴史を持つ議会中継専門テレビ局C―SPANが約七千万世帯に普及している。商業主義やニュースのショー化を否定し、「市民に関心のある公共時事問題をありのままに見せる」をモットーとして、無編集・無解説のユニークな放送を行うC―SPANの現状を、国際局プロデューサーのリンダ・ライト氏に聞いた。(野山智章記者)
――番組の編成はどのように行うのか。
毎日、午後三時に編集会議を開き何を放映するかを決める。連邦議会が開かれていれば、いくつもの公聴会が同時に進行していても最優先される。また、その時々の焦点になっている問題そのものにとどまらず、背後にある政治過程をも重視して番組を編成する。
――“編集しないテレビ放送”が成り立っていること自体、新鮮に感じるが。
C―SPANは、創設者で元国防総省の広報担当官だったブライアン・ラム氏が、面白いと思ったある政治家の演説がセンセーショナルに編集され、断片化されたものとしてしか放送されなかったことへの憤りから生まれた。私たちの第一の使命は、編集せずにすべてを放映することである。
第二の使命は、視聴者からの声を聞くこと。視聴者から電話で質問を受け付ける番組は、CNNのラリー・キング氏が始めたと思われがちだが、実際はC―SPANが始めたものだ。
第三には、解説を行わないこと。私たちはジャーナリストやコメンテーターを招いて何が起こっているのかを解説してもらうことはしない。時としてジャーナリストが討論会の進行役をつとめることはあっても、その人物は自分の意見を述べない。
――視聴率にとらわれない放送局と聞いているが。
C―SPANは公共サービスとして行われているのでコマーシャルがなく、そのため(CM放映料金のめやすとしての)視聴率も計測しない。現在、ケーブルテレビに加盟している約七千万世帯の家庭でC―SPANを見ることが可能で、衛星放送を見ることのできる家庭を含めればそれ以上になる。
非常に贅沢(ぜいたく)な状況だと思うが、「視聴者がたとえ一人しかいなくても放送を続ける」というのが創設者の方針である。そのため視聴率によって番組編成を考えなくてすむ。視聴率を意識しすぎるところからテレビ放送にさまざまな問題が生じる。
――公平さをどのようにして保とうとしているのか。
例えば選挙報道の際、対立する候補者がいる場合には、演説だけでなくフォーラムなども含めた一人の候補者に関する放送時間の厳格な統計をとって、双方の候補者に関する放送のバランスを保つようにしている。
また、政治家の意見がどうあろうと、あるがままを報道する。私たちの信念は、市民は自らで判断を下すための十分な知性を持っており、局側が善悪をフィルターにかける必要はないということだ。
――視聴者には“オピニオン・メーカー”と呼ばれる階層の人々も数多く含まれていると聞くが、放送の影響力は?
選挙があるごとに調査を行っており、それによるとC―SPANを見ている人は一般に高学歴で、実際に投票に行く人が多い。
選挙期間中は確実に視聴者が増えており、例えば、他局のように候補者の演説を三十秒程度という短い時間で扱うのではなく、演説全部を放送したり、候補者の一日を追ってそのすべてを放送する私たちの形態を評価する声が増えている。
――C―SPANは政治家の行動に影響を与えたか。
市民の政治過程に対する意識や、政治家の責任を問う意識が高まったと思う。議会に初めてカメラが入ったときはカメラを意識して見かけや態度を変えようとした政治家もいたかもしれないが、今では政治家はあまりカメラを意識していないと思う。
――他メディアにも影響を与えたと思うか。
現在起こっていることを把握しておくために、ジャーナリストがC―SPANを視聴していることを知っている。私たちは、情報を得ていたい、判断を自分で下したいと考える主体性のある人たちの要求に応(こた)えたメディアだと思う。
私の受けた印象では、C―SPANのような編集をほどこさない報道を、米国民は評価するようになってきている。しかし、他の商業テレビ局では(視聴率を稼ぐような)ビジネスとして成り立つ番組しか作れないし、利益が原動力となっている。そうした商業主義に果たしてC―SPANが変化や影響を及ぼし得たかどうかは疑問だ。
創設者のラム氏は、C―SPANは新聞・雑誌をはじめ数多くのメディアの選択肢の一つであり、本来、市民は特定のメディアに依存するのではなく、メディアを主体的に選んでいくべきであると考えている。
民主主義は十分な情報を得た市民なくしては存在しない。情報を十分に得ることによってはじめて、よりよい選択が可能になる。
――あなたの担当する国際局が扱う事柄は。
私は国際プロデューサーとして世界で何が起こっているのかを把握し、世界中の議会、世界のリーダーの演説、各国の選挙などについていろいろなソースから映像を持ってくる。
選挙の場合は、例えば英国であればBBCなどの他のネットワークの映像を借りて放送したりもする。少しずつ、すべての国のものを放送しており、キューバのカストロ議長の演説を放送したこともあるし、中国のニュースも放送する。以前は毎晩、ロシアのニュースも放送していた。先日は、パレスチナ国民議会での討論を放映した。
基本的には世界の公共政策をカバーするが、C―SPANは小規模な団体(全職員数は二百数十人)なので、世界中に支局を置くわけにはいかず、現在のところ、G7(先進七カ国)のような影響力の大きい国に焦点を絞って放送している。
C―SPANについて/全米のケーブルテレビ局に配信する非営利団体
●C―SPAN(Cable Satelite Public Affairs Network)
テレビカメラが米連邦下院に入ることを許可された1979年春、下院本会議の生中継局として発足。86年には上院本会議を中継するC-SPAN2を開局し、24時間放送に拡大した。現在は番組も両院の公聴会、記者会見の中継など多彩に。
C-SPANは非営利団体で、4000あまりにのぼる全米のケーブルTV会社に衛星で番組を提供。加盟世帯に応じて料金を集める仕組みになっている。徴収金額は、1世帯当たり月額6セント、年間約2000万ドルの総予算額で運営されている。
また、放送内容は提携するインディアナ州のパデュー大学を通して、教育用途は無料、一般利用は有料で、ビデオテープでの入手も可能。C-SPAN内には、どのように議会や政府が機能しているかを市民が理解できるように教育カリキュラムを考えるチームがあり、種々の教材を作成している。
首都ワシントンDC郊外の大学町ジョージ・タウンでインタビュー。
ロシア、中国……、氏は激動する世界各地を飛び回っている。なかでも1993年、南アフリカで黒人が初めて参政権を得た時の選挙を取材した折のことを熱っぽく語ってくれたことが忘れられない。あのマンデラ大統領が選出された選挙である。
「多くの人たちが選挙前日から投票のために列を作っていた。米国では国民の約半数が投票に行かない事実とは好対照で、いかに人々が投票権という“特権”に感謝することを忘れているかを思い知らされた」と。
低投票率は日米共通の問題、いや日本は米国以上に深刻だろう。名著『アメリカの民主政治』を表した19世紀フランスの思想家A・トクヴィルは、人民主権の観点から選挙の重視と、政治家の活動の監視を強調した。
C-SPANはインターネット上にホームページ(http://www.c-span.org/)を設け、議会記録を引き出せるデータベース・サービスも行っているが、その一項でトクヴィルを宣揚している。民主主義の啓発を図り、議会制度を活性化しようとする同局の理念の堅牢(けんろう)さを象徴しているようだ。
略歴 Linda Wright ワシントンDC生まれ。アメリカン大学で放送と国際関係論を専攻。ジョージ・ワシントン大学で国際法の修士号取得。C―SPANには9年間勤務。その間、生番組の制作に携わるコントロールルーム・プロデューサーをつとめ、5年前から現職。それ以前は8年間、公共テレビ局に勤務した。