

(1998年3月7日付)
日米のジャーナリズム環境を比較するとき、彼我の大きな違いとして、米国ではさまざまな問題意識や性格のメディア監視団体が活発に運営されていることがある。なかには、活動の視野が国際的な団体も少なくない。その一つ、首都ワシントンDC郊外アーリントンに本拠地を構えるフリーダム・フォーラム財団を訪れ、国際プログラム・マネジャーのアリス・アンダーソン・ビショップ氏に話を聞いた。(野山智章記者)
――フリーダム・フォーラムは、新聞、テレビなどメディアを限定せず、報道の自由の大切さを広く伝えるのがねらいという。米国内では主にどのような活動を行っているのか。
米国でも(さまざまな会議の開催や教育事業など)数多くのプログラムを行っている。ここ、アーリントンには民主主義に不可欠な報道の自由に寄与しようと財団が約五千万レをかけて建設したニュージアム(ニュースとミュージアムを掛けた言葉。ニュース博物館の意味)も併設されている。
ニュージアムは、一九九七年四月のオープン以来、半年間で二十万人以上の入場者があった。
ニュージアムは大衆とメディアの相互理解が深まるようにとの目的で設立された。インターラクティブ(双方向性)の展示物が多い理由は一般市民の人々がジャーナリストの役割を実際に体験できて、ジャーナリストや編集者が直面する困難を理解する手助けとなるからだ。
――今日の米国メディア界の状況をどのように認識しているか。
多くの米国人はメディアに対して怒りを感じており、ダイアナ元妃の死によって、その怒りはエスカレートされ、メディアに対する風あたりは更に強まった。英国と米国のタブロイド紙は異なるが、この事件で人々は米国、その他の国でも無責任なジャーナリストが多くの社会悪の原因となっていると感じている。責任を持った活動を行っているジャーナリストですらも批判の的となっている。
――英国では、タイムズ紙やガーディアン紙等の高級紙がタブロイド紙の記事を非難するという形で、結局は同じ内容を報道することに批判があるが。
米国でも、ダイアナ元妃の事件では同様のことが起こった。多くの一流紙がタブロイドの記事を引用しており、私は衝撃を受けるとともに困惑した。ワシントン・ポスト紙は連日、一面に事件に関する記事を掲載した。他に数多くの事件が起こっている中で非常に不適切な対応だと思う。
これらの事柄については、『アメリカン・ジャーナリズム・レビュー』や、(ピュリツァー賞選考委員会のある)コロンビア大学の発行する雑誌、それに新しい『ブリル(Brils)』という雑誌の計画があり、そこでメディアに対する痛烈な批判が展開される予定だ。
ニューヨーク市のメディア・クリティック・センターの発行する雑誌もある。新しい雑誌の内容は「日曜日のトーク・ショーの最も馬鹿げた質問」「『60ミニッツ』(CBSテレビの人気番組)の事実確認」などで、メディアを強く指弾する内容になろう。
――米国のメディア監視団体の中には、報道内容がリベラルすぎないかといったチェックをする団体もあると聞いているが。
我々も前回の選挙で記者がどう投票したかという調査を行ったが、多くが民主党に投票していた。だからといってメディアが民主党偏向になっているとはいえないと思う。
一流新聞、テレビは、記者自身の見解が紙面に影響しないようノ最大の注意を払っている。いくつかの規則もあって、例えば、記者は政党のボランティアとして働いてはいけないし、ワシントン・ポスト紙は、記者が堕胎(だたい)の是非に関する大きな集会に参加することを禁じている。他にも、記者の政治活動を制限する規則がある。
こうした規制は社ごとに異なるが、ウォールストリート・ジャーナル紙などのビジネス紙の制限は、より厳しいものになっている。
米国最大の新聞グループ、ガネット社が設立した財団。一九三五年、新聞記者であったフランク・ガネット氏によって創設された。氏は識字率を高める手段として、新聞の普及を推進した。以前はガネット財団と呼ばれていたが、七年前に「USAトゥデイ」紙の創立者であるアラン・ニューハース氏が退社して移籍し、いくつかの変更を実施した。 ガネット社から経済的に独立して、完全に切り離された団体であることを明確化し、名称も、異なった意見を持った人々が寄り集まってメディアの問題を自由に話し合えるようにと「フリーダム・フォーラム」と改称した。また、米国内のみならず国際的にメディア問題に取り組むことを決定。手始めに東欧にスポットを当てたほか、英国、香港、アルゼンチンに事務所を置き、その他の国でも会議や人的交流、コンサルタント業務等を行っている。
注 ニュージアム(ニュース博物館)
三階建ての建物に、古代からの文字情報の歴史、テレビ・ニュースや報道写真の歴史、報道の倫理に関する展示などのほか、全米約六十の新聞と、世界の有力紙の各一面が毎日取り換えて展示されている。またテレビの報道番組のスタジオも設けられ、見学者が番組制作を経験出来る双方向性が特徴。プラネタリウム型のスクリーンを持つ劇場では「ニュースとは何か」という映画が上映され、ニュース報道の歴史や今日のメディアの課題を浮き彫りにしている。
ニュージアムの他に特筆すべき機構として、フリーダム・フォーラム財団は「合衆国憲法修正第一条センター」を設置している。米国憲法の「権利の章典」と呼ばれる根幹の条文で一七九一年に確定、言論の自由を保障したその精神を称揚する意図の機構だ。
ウォーターゲート事件報道の際、ワシントン・ポスト紙首脳が度々「修正第一条への献身」を口にしたことに端的なように米国マスコミ人は、これを金科玉条(きんかぎょくじょう)とする。民主主義の前提として、政府には「知らせる義務」があり、市民には「知る権利」がある。その両者を媒介する唯一のものが、自由な報道であるからだ。
しかしながら、格調高い条文に保護されたメディアの現状は、多くの問題をはらみ、市民からの批判・風当たりは強い。ニュージアムの開幕式典に出席したゴア副大統領が、「報道の自由を監視する側の役割も果たして欲しい」とスピーチしたのも、そうした世論を意識したものといえよう。同財団の活動には米国ジャーナリズムの光と影が投影されている。
略歴 Alice Anderson Bishop ニュージャージー州プリンストン生まれ。コルゲート大学で歴史学を修めた。5年前からフリーダム・フォーラムに勤務。現在、国際プログラム・マネジャーとして、アジア・プログラムを担当している。それ以前は10年ほど、中国との教育交流に携わる。人権問題、経済問題など幅広い分野にわたって研究を行った。